ぶらぶら人生

心の呟き

精霊蜻蛉

2006-07-27 | 身辺雑記
 今朝のことだった。
 近所に在住のOさんの訪問を受けた。老いた父母がお世話になった方で、私はOさんのお陰で、仕事を続けることができた。私にとっては、恩人でもある。
 父母の死後も、お盆と暮れの二回は、感謝の気持ちを贈ることにしている。
 義理堅いOさんは、私の気持ちを黙って受け取ってはくださらない。今朝も、海の幸を届けにきてくださったのだ。
 家に住み込みでお手伝いをしていただいたこともあり、昵懇の間柄である。
 一緒にお茶を飲みながら、暫くお話した。
 そのとき、私が、昨朝、家の庭を群れ飛んでいた蜻蛉の話をした。
 と、Oさんは、すかさず、
 「精霊蜻蛉ね」
 と、言われた。
 「……?」
 私は昨日、歳時記を調べて、赤蜻蛉の中でも、「夏茜」と呼ぶ種類のものだと判断し、納得したばかりだったのだ。
 今度は、精霊蜻蛉? 私が不審そうな顔をしたらしく、
 「湧くように、飛んでたでしょ? 胴がオレンジ色の……」
 「そう。庭に何の異変が起きたかと思いました」
 と、答えると、
 「精霊蜻蛉に間違いありません」
 と、自信たっぷりな答えだった。
 Oさんは、句作の経験を持っている人であるし、田舎住まいも私より更に長く、自然界のことについては、詳しいに違いない。
 私は、近所のタケシさんから聞いた話や、昨日歳時記で調べたことを一通り話した後、
 「精霊蜻蛉、ね。後で、また調べてみます」
 と言って、話題をかえた。

 昨日、私が調べた歳時記は、<夏の部>であった。その中に、「夏茜」はあったのだ。が、そもそも「蜻蛉」は、秋の季語なのかもしれないと思い、歳時記の<秋の部>を取り出してみた。
 後ろの索引で引くと、Oさんの言葉通り、「精霊蜻蛉」があった。そのページを開いてみると、独立した語としては出ていなかったが、「蜻蛉」の項の中に、それを見出すことができた。
 <秋の部>の中には、「蜻蛉」と「赤蜻蛉」の二項が設けられている。

 「蜻蛉」
 蜻蛉…鬼やんま…銀やんま…ぎん…ちゃん…渋ちゃん…腰細やんま…黒やんま…更紗やんま…青蜻蛉…塩辛蜻蛉…塩屋蜻蛉…塩蜻蛉…麦藁蜻蛉…麦蜻蛉…猩々蜻蛉…虎斑蜻蛉…高嶺蜻蛉…こしあき蜻蛉…胡黎(きやんま)…精霊蜻蛉…仏蜻蛉…赤蜻蛉…赤卒(あかえんば)…秋茜…深山茜…眉立茜…のしめ…のしめ蜻蛉…八丁蜻蛉…蝶蜻蛉…腹広蜻蛉…昔蜻蛉…あきつ…えんば…えんま…とんぼう…蜻蛉釣
 
 「赤蜻蛉」
 
赤卒…秋茜…深山茜…のしめ…のしめ蜻蛉…猩々蜻蛉…姫茜

 蜻蛉の名前だけで、物語が綴れそうなほど、さまざまな呼び名が並んでいる。書き写しながら楽しくなった。知っている呼び名もあれば、知らないものもある。

 結局、私が川掃除の日に川原で見た蜻蛉も、昨日我が家の庭を群れ飛んでいたそれも、同種のものなのだろう。
 同じ蜻蛉を、人によって、あるいは句作の過程で、「夏茜」とも「精霊蜻蛉」とも、表現上使い分けている、ということではないだろうか。
 そして、更に大雑把な言い方としては、タケシさんの言った「赤蜻蛉」も、間違いではないと。
 私の類推が正しいかどうか、よくは分からないけれど。

 とどまればあたりにふゆる蜻蛉かな   中村汀女

 
この有名な句の蜻蛉は、私が見た蜻蛉と同種のものかもしれないと、勝手に想像している。
  

 
コメント
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