ぶらぶら人生

心の呟き

「森鴎外と美術」展

2006-07-25 | 旅日記
 昨日は、住み慣れた街を、旅人の気分で歩いた。
 午後には雨が上がると、予報では言っていたが、朝から同じ調子で夕方まで降り続いた。
 その日オープンしたばかりのホテル「モーリス」に行き、宿泊の手続きを済ませて荷物を置くと、「グラントワ」へ向った。
 「島根県立美術館」で開催中の「森鴎外と美術」展を観るために。

 森鴎外については、かなり知っているつもりでいた。が、私の知る鴎外は、小説家としての鴎外、詩歌、評論などでも活躍した文学者としての鴎外であった。本業は医者で、軍医として活躍したことも知っていた。そして、やたらに沢山の肩書きを持った人であるということも。その実質を深く考えることもなく。
 今回は、鴎外の多才な一面として、美術との結びつきを、非常に分かりやすく展示した展覧会を観て、森鴎外観が大いに変わった。
 鴎外の器の大きさ、人間としての味わいの深さを改めて認識させられた。
 文学作品には、以前から敬意を払っていた。が、写真の雰囲気がかもす森鴎外その人を、私は恣意的に好きになれなかった。なんだか尊大ぶった印象を受けていたのだ。やはり軍人さんだな、と。まさしく偏見である。
 今回の展示を見ながら、私は、浅学菲才からくる私の鴎外像に、訂正を強いられた。驚きもし、敬服もした。鴎外とは、こういう一面も持った人だったのかと。
 国粋主義が主流になろうとした時代に、日本洋画の援護者として矢面に立ったり、この展覧会の主力画家、原田直次郎が画壇から非難を浴びれば、力強い味方となったり、無名画家を公私にわたって庇護したりするなど、気概のある人物であったのだ、と。
 写真の鴎外の内面にあるものが、今回の展覧会で、見えてきた気がした。

 メインは森鴎外原田直次郎であろう。広告類にも、二人が登場する。鴎外らしさは原稿用紙で表し、その上に「森鴎外と美術」および「石見人 森林太郎、美術ヲ好ム」という文字が赤字で記され、会期や場所が黒字で表記されている。その横に原田直次郎の「風景」と題された絵をあしらっている。
 展示室の、表示の垂れ幕にも、原稿の升目が使われていて、鴎外に関わる展覧会として、いいアイディアだと思った。Ⅰ~Ⅵのセクションに分かれており、作品には数多くの大作もあり、知らなかった画家のものもあって、見ごたえがあった。
 空調が効き過ぎている感じでもないのに、途中から、特に下半身に冷えを感じ、脚も疲れてきたので、二時間で鑑賞を終わった。いつでもまた、会期中に観にこられるという安心感もあって。
 受付でいただいた「おてがるポイントガイド」の解説が、なかなか要領よく、気負いのない言葉で書かれていて、読みやすい。やはり受付でいただいたメモ帳も、気に入った。小さな原稿用紙が、一枚ずつ剥ぎ取れるようになっているのだ。

 ミュージアム ショップに寄って、本を二冊求め、グラントワを出た。
 相変わらず、小ぶりながら、しつこい雨が降っていた。
コメント
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