■この怪文書では、巨額横領事件で流出した横領金のルートとして、次のカネの流れについて示唆しています。
その1「小川市長ルート」
市長には絶大な権限が付与されますので、公共事業の利権をめぐり、情報を求めて企業や個人が暗躍します。小川市長が1期目に出馬した際にも、6奉行といわれる会社が尽力していました。多胡邦夫が土地開発公社に配属になったのは、昭和54年ですが、その当時は、まだ湯浅正次市長でした。長期にわたる湯浅体制で、市役所の中はマンネリの極みだったと想像されます。多胡邦夫のような人物が活躍する素地は、こうした市役所の環境により醸成されたに違いありません。
湯浅体制が殆ど死に体になっていたのを見て、おそらくそのころから利権に預かっていた関係者が、後継者として小川市長を担ぎ出したものとみられます。怪文書で「とりまきの繰り人形?!!」と評されているのも、そのことを言いたかったようです。
なお、市長ルートからは、前述の「6奉行ルート」が枝分かれしており、公共事業を通じて、市長の支援のメリットを享受したものと見られます。当然、小川市長と親しい多胡邦夫の存在にも早期から気付いていて、接触を果たしていた可能性があります。例えば、栄伸製作所は、安中市のゴミ焼却場を談合で落札した㈱タクマの下請けで鉄鋼構造物を扱ったことで知られています。また、ここには示されていませんが、6奉行として司法書士の名前も挙がっており、安中市が発注する土地登記の業務で、湯浅市長時代は、たくさんの司法書士に仕事を出していましたが、小川市長になってからはY司法書士事務所が独占するようになったという情報もありました。
その2「多胡運輸ルート」
このルートは岡田県議(現市長)と早川市議(当時)との2ルートに枝分かれしています。岡田県議のほうは、日刊スポーツやサンパイ業者など、別の利権にかかわる業者のことが取りざたされていますが、豊富な不動産関係の情報は、公社時代に親しくなった多胡邦夫から得ていたと見る向きもあります。事実、岡田県議は、市議のころ平成5年のころ、多胡邦夫が長期配置となり、公社の理事会で異動の話が持ち出された際に、異動話を潰した張本人だとも言われています。巷間では、多胡邦夫から大きな骨董の瓶(かめ)をもらったとか、ン億円が回ったなどと言われていますが、本人は事件のことについて何も語りません。こと公社事件に関しては、岡田市長の説明責任は陰を潜めてしまっています。
一方、早川市議ルートについて、多胡運輸を経営する多胡邦夫の実弟と早川市議の関係は非常に親しく、実弟を通じて早川市議は多胡邦夫とも親しくなったと警察の取調調書でも供述しています。多胡邦夫は懲戒免職になった平成7年5月31日まで、早川市議が経営する学習塾である適塾の父母の会の会長をしていました。
また、㈱芙蓉の役員として、早川市議も多胡邦夫の実弟も名前を連ねておりました。もともと、小川勝寿市長(当時)が最初に市長選に出馬した平成3年に、早川市議は親しい知人らと同志会という組織を立ち上げていたのです。目的は、小川市長候補に接近して利権誘導を働きかけるためです。もちろん、小川市長の一番のゴルフ友達だった多胡邦夫の存在が、それを可能にしたわけです。
同志会の中には、多胡邦夫の実弟をはじめ、多胡運輸の当時役員をしていたT氏、国道18号沿いで飲食店を経営していたK氏、そして自動車販売会社の課長をしていたU氏らが居ました。彼らが設立したのが㈱芙蓉という不動産・金貸し業などを営む会社でした。
怪文書では、この会社に市議らが関係したかのように線が結んであります。実際に伊藤市議も沢市議も不動産業に手を染めていたことは市民の知るところです。
なお、多胡運輸は、多胡邦夫の実弟が経営しており、役員の一人に多胡邦夫の実母が事件発覚後も引き続き就任しています。警察の捜査では、多胡邦夫の配偶者に1億5千万円、実母に昭和58年頃から平成7年までの間に150万円(多胡邦夫の自供では、平成元年から平成5年までに300万円)を渡したとなっています。
従って、多胡運輸ルートには、多胡邦夫の親族へのカネの流れという意味で、3本のルートがあると考えられます。
ルート3「市役所ルート」
多胡邦夫のことを「おれの舎弟だ」と呼んでいた土地開発公社事務局次長の高橋弘安は、警察の捜査でももっともマークされた人物の一人でした。怪文書では、「一職員が安中市の人事を牛耳っていた」「市役所内に何でも言う事を聞く息がかりの職員が十数名いる」とあります。当会の調査でも、多胡邦夫から骨董品などをもらっていた職員が何人か居て、一緒にゴルフや競馬、麻雀をやっていた職員もかなりいたことが分かっています。
なかでも、高橋次長は、経理の専門家という触れ込みで公社に平成2年4月に赴任したのに、実際には、業務を多胡邦夫にまかせっきりにしており、多胡邦夫の親族とも非常に親しくしていました。このため、警察もマークしていたようですが、捜査が3ヶ月を経過したころを境に、それまでは負い目を感じさせる態度をとっていたのに、急に余裕ある態度に変化したことが供述調書から窺えるのです。
足利市の一品堂の店主の話では、多胡邦夫は市役所内で競馬のノミ行為をやっていたということから、ギャンブルを通じて関係した市役所の職員は相当数いたとみられます。また、金持ちの多胡邦夫にカネを借りていた職員も居たと言われており、こうしたカネを巡るしがらみで、何でも言う事を聞くイエスマン職員が多数居たとしても不思議ではありません。
なお、市内の飲み屋で酒を飲んだ職員が店を出るときに、多胡邦夫を呼び出して、酒代を支払わせていたという情報もあります。ちなみに、多胡邦夫は酒が飲めなかったということです。
さらに、母子家庭といつわって、市営住宅に入っていたこともあるという情報もあり、福祉制度まで悪用して、何でもありだったようです。
ルート4「闇献金ルート」
市民の間で最初からささやかれていたのが、某大物政治家への闇献金ルートの存在です。多胡邦夫は群馬銀行に対して、「市長の特命」「安中市のすべての案件は自分が仕切っている」と信じ込ませていました。
群馬銀行側も、多胡邦夫の口から、大型融資案件として、「北陸新幹線新安中駅周辺開発」「南地区区画整理事業(ここでいう南地区とは信越線の南側まで含む広大な地域も対象)」「西毛広域幹線道計画」「住宅団地・工業団地造成事業」などの事業計画が飛び出すと、ろくに背景も調べずにせっせとカネを貸しまくりました。こうした大型公共投資は、通常は公社の一職員の口から出たとしても、銀行は信用しません。群馬銀行は、多胡邦夫の口から出たことによる重みを知っていたからこそ、ろくに書類もチェックせずにカネを貸し出したのでした。
怪文書では「情報のお礼?(政治献金?)」とありますが、不思議なことに、怪文書に名前が出てきた関係者の多くは、某大物政治家との関係が取りざたされています。
例えば、早川市議は、中曽根後援会安中支部の青年部長をしていました。機を見て敏な岡田県議(現市長)も、現在は福田系を前面に打ち出していますが、地元ではもともと中曽根系として知られています。
多胡邦夫とその配偶者が、横領がバレたと知るや、イの一番に相談に駆け込んだのが、高崎の田中弁護士であり、穂積弁護士でした。このことをみても、カネの流れの見返りに、公共事業にかかる土地の先行情報や政治圧力による特別扱いなどにより、多胡邦夫の存在が一層クローズアップされて、金融機関側としても、一目置いていたことは間違いありません。
■この相関図は、相当内部事情に精通したものが作成し配布したと思われ、当時、噂では教育関係者の名前も取りざたされました。しかし、これだけの情報を要領よく分析して、まとめたのですから、怪文書という手段ではなく、堂々と公の場で公表すれば、捜査機関もきちんと調べざるを得なくなったかもしれず、非常に残念です。
■ところで、この怪文書騒ぎには、オマケがあります。7月31日に市内各所にばら撒かれた怪文書の一部を改ざんした印刷物が、8月10日に、安中市議会三会派の控え室に置かれていたのです。当時の当会の前身である市政をただす安中市民の会の会報が報じた記事を引用します。
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市役所3階ものがたり 百条調査そっちのけの怪文書改ざん騒動!
先週(平成7年8月)11日の臨時議会の前に、市長不信任案提出をめぐり虚々実々の駆け引きがあった市役所の3階で、そうした動きを撹乱する目的でもうひとつのドロ仕合が仕込まれていたことが判明。37億円の真相解明を心待ちにしている市民に、ドロを塗る結果とならねばよいがと、事情通の間で深刻に憂慮されている。
■ことの発端は、臨時議会の前に怪文書が市役所の3階に配布されたことに始まる。選良の控える市役所3階の中にまで怪文書が横行すること自体、およそ普通のジョーシキでは考えられないが、37億円事件が起きた自治体ならば驚くにあたらない、とする冷静(?)な向きもある。
■この怪文書というのが、驚くなかれ7月31日に市内各所のゴミ捨て場などで発見され大騒ぎになった元祖「黒い霧」怪文書の「訂正版」である。元祖怪文書に名前が載っていた人、載らなかった人など、悲喜こもごもの思いがあるようだが、いまだに作成者や配布者については判明していないらしい。
■今度3階で配布された訂正版は一箇所だけフルネームに替えてあったという。前回はゴミ捨て場に針金でくくられていたという怪文書が、今度はちゃんと市役所内にも届けられたというから余計ややこしい!
■訂正版の怪文書を見てフルネームで名指しされた議員が仰天し、早速捜査陣が大挙して12日に市庁舎に入り現場を撮影、指紋をとるなど大騒ぎになった。余りの騒ぎに動転したのか「実は怪文書に手を加えた」という御人が現れ、議長を伴って出頭したので、議会は上へ下への大騒動。改訂版で名指しされた議員は、今度こそ告訴してくれると鼻息荒く、訂正版をつくって持ち込んだ御人の所属する会派では、とりあえず告訴を取り下げてくれと平身低頭。メンツにかけても絶対取り下げないとする名指し議員との間でスッタモンダが続いており、成行きが心配されている。(16日までに告訴状を提出し受理された。怪文書を改ざんした御人は所属会派に16日夜脱会届け。慰謝料で解決をはかろうとする動きもあるらしい)
■百条委員会を控え15日10時、16日9時の各会派会議、10時の会派代表者連絡会議、1時の百条準備会が周到な事前打合せと信じていた市民。実はこのスッタモンダが主な議題と判り肩透かしを食った。
■8月21日の37億円詐欺事件関連の初公判の前にかけ込みでかろうじて間に合わせた恰好の百条調査特別委員会。その権能をフルに活かさねばならないのに議会のこの体たらくぶり! 先が思いやられる。
■以上が市役所3階ものがたりの一幕。次々演じられるドタバタ劇に安中市民は只々ヘキエキするばかり。
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■この事件は、マスコミでも報じられました。
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市議が同僚告訴 安中巨額詐欺怪文書めぐり
安中市土地開発公社担当の元市職員による巨額詐欺事件に関連し、平成7年7月末に同市内にばらまかれた怪文書の一部を改ざんした印刷物が同市議会三会派の控え室に置かれていた問題で、「印刷物に名前を書き込まれ、名誉を傷つけられた」として、柳沢健一議員(新政会)が8月16日までに横山登議員(市民クラプ)を名誉毀損(きそん)罪で安中署に告訴した。同署は受理した。
横山議員は事実関係を認め「告訴を聞いて事の重大さを痛感した。幼稚な考えでやってしまった。柳沢議員には本当に申しわけないと思っている」と話し、今後の身の振り方については「周囲と相談して決めたい」とした。
(平成7年8月17日付け上毛新聞)
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議員中傷 怪文書も 安中の巨額詐欺 今日から百条委
安中市土地開発公社の元主査による巨額の詐欺事件で揺れる安中市の議会各派代表者会議が平成7年8月16日開かれ、一部議員を中傷する怪文書問題について協議した。
午前10時から始まった同会議では、8月10日ごろ、安中市役所内の議員控室に怪文書が置かれていた問題の事実関係の報告が行われた。
同文書は、多胡邦夫被告と複数の議員らとの間の金銭取引の関係を示唆する怪文書の改訂版で、名字だけだった議員の名前をフルネームに書き直したもの。既に配布者は同市議会の別の議員と判明している。名指しされた議員は15日、安中薯に名誉棄損で告訴していた。
同議員は「私の名前が出てくる根拠が分からない。議会と市民が早期究明に向け一生懸命になっているなかこのような怪文書の配布が同じ議員の手によって行われたことが恥ずかしい」と話していた。同問題の真相を究明する百条委「市開発公社不祥事事件調査特別委員会」(小西勝二委員長)はきょう8月17日から2日間にわたって開かれる。
(平成7年8月17日付け讀賣新聞)
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安中市巨額詐欺事件 水差された百条委
誹膀チラシ改ざん 同僚市議が名誉棄損で告訴
安中市土地開発公社(理事長・小川勝寿串長)を舞台にした元主査の巨額詐欺事件の真相を究明する百条委の調査開始を目前に控えた平成7年8月16日、保守系市議が一部議員を名指しで誹膀(ひぼう)し、配布されたチラシに別の市議の名前を書き加え、「訂正版」として“発行”していたことが判明した。名指しされた市議は「事実無根」として、安中署に加筆した市議を名誉棄損容疑で告訴。また、百条委はきょう8月17日の参考人聴取を前に、打ち合わせを行ったが、傍聴を求める市民グループに対しては「非公開の慣例があり、時期尚早」と回答し断った。議員聞のトラブル・慣例で、百条委への期待にすっかり水を差された市民からは「この冬に選挙を控え、名前だけの百条委では」と議会不信の声も上がっている。
「訂正版」のチラシで名指しされたのは、柳沢健一市議。チラシは当初、「安中をおおう黒い霧ゆるさん」と題され、7月末に市内7ヵ所で約150枚配布された。この文中では、巨額詐欺事件にかかわりのある議員として列記されたなかに「柳沢」とだけ記されていたが、市議会には「柳沢」姓の議員が二人いるため、特定はされていなかった。
ところが、10日に市役所3階の議員控室に置かれていた「訂正版」では、この部分がフルネームに直され、柳沢健一市議が事件に関与したかのように書かれていた。
柳沢市議は「天地神明に誓って事件とは関係がない」とこのチラシに反発、「不祥事で市民と議会が解明に向け一生懸命やっているときに同僚の市議に足を引っ張られた。議員にあるまじき行為」として、安中署の事情聴取に対して容疑を認めたとの情報をもとに、別会派の保守系市議(57)を名誉棄損の疑いで同署に告訴した。同署では、改めてこの市議から事情を聴き、書類送検する方針。
柳沢市議によると、この市議は告訴後に自宅を訪れてきて「申し訳なかった。100%私が悪い。根拠もなく加筆した」と話したという。柳沢市議は「今後も弁護士と相談のうえ、名誉回復していきたい」としており、この市議に事実がないことの確認と謝罪を求める構え。
この問題で市議会は午前、各会派の代表者を集めて会派連絡協議会を開いて協議。広上輝男議長と柳沢市議から経過説明の後、当面は告訴された事件の推移を見守り、いずれはこの保守系市議本人からの事実確認・(辞職などの)意思確認を議会でも行う必要がある、ことを確認した。
(平成7年8月17日付け産経新聞)
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安中市議会百条委 市民の傍聴認めず 「人権侵害になる恐れ」
安中市土地開発公社の元職員による37億円の詐欺容疑事件の解明をめざす、百条委員会の「市土地開発公社不詳事件調査特別委員会(委員長・小西勝二副議長)の開催を17日に控え、市民団体の「市政をただす安中市民の会」(関口八郎事務局長)が16日、市民の傍聴を求める要望書を小西委員長らに手渡した。しかし、「市民の会が発行している会報は議員個人を追及している。議員や参考人、証人に対する人権侵害になるおそれがある」として傍聴を拒否した。傍聴は、報道関係者に限って認められる。
一方、百条委で市や公社、群馬銀行の関係者に対する質問を行う、委員の市議や各会派代表者らは、終日、会議室にこもり、打ち合わせなどの準備に追われた。
◇
また、8月15日、同市議会の柳沢健一市議が、別の市議に名誉を損なわれたとして、安中署に告訴状を出した。先月末にまかれた、元職員多胡邦夫被告と市長、市議らとの関連を示すビラに、新たに柳沢市議の名前が書き加えられたビラを今月上旬、別の市議が市役所内に置いたためで、告訴された市議は事実を認めているという。
柳沢市議は「私は37億円とは一切関係ない。事件の早期解決を目指している時に、同じ議員が混乱を招く行為をするなんて」と話している。
(平成7年8月17日付け朝日新聞)
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■その後、柳沢健一市議も、横山登市議も、市議会の議長や副議長を歴任して現在も市議会で活躍中です。しかし、柳沢市議も、横山市議も平成5年12月17日から安中市土地開発公社の理事として、公社の運営に当たってきたはずなのに、何一つ事件について説明責任を果たしていません。
また、当会の前身である市政をただす安中市民の会が事件発覚直後に行ったアンケートでは、新政会所属(当時)の柳沢健一市議は、Q:市民へのしわよせは? A:ある。 Q:百条委員会設置は? A:状況により。 Q:特別委員会への市民の傍聴について? A:委員長の判断。 Q:市長の政治責任は? A:当然ある。と回答を寄せたのに対して、市民クラブ所属の横山市議は、早川、広上、柳沢吉保、沢、伊与久、松本、伊藤成とともに、白紙回答をしてきました。
■百条委員会に傍聴を許されなかった当会の前身だった市民団体「市政をただす安中市民の会」は、百条委員会の開催意義を疑問視せざるを得なくなり、議員による真相解明は不可能である事をこのときから、悟ったのでした。そして、案の定、議員による百条委員会は成果をあげられないまま、活動が立ち消えとなり、その後は、この前代未聞の巨額横領事件を真相解明と責任追及を粘り強く続けているのは当会だけとなっており、現在に至っております。
【ひらく会情報部・この項おわり】
その1「小川市長ルート」
市長には絶大な権限が付与されますので、公共事業の利権をめぐり、情報を求めて企業や個人が暗躍します。小川市長が1期目に出馬した際にも、6奉行といわれる会社が尽力していました。多胡邦夫が土地開発公社に配属になったのは、昭和54年ですが、その当時は、まだ湯浅正次市長でした。長期にわたる湯浅体制で、市役所の中はマンネリの極みだったと想像されます。多胡邦夫のような人物が活躍する素地は、こうした市役所の環境により醸成されたに違いありません。
湯浅体制が殆ど死に体になっていたのを見て、おそらくそのころから利権に預かっていた関係者が、後継者として小川市長を担ぎ出したものとみられます。怪文書で「とりまきの繰り人形?!!」と評されているのも、そのことを言いたかったようです。
なお、市長ルートからは、前述の「6奉行ルート」が枝分かれしており、公共事業を通じて、市長の支援のメリットを享受したものと見られます。当然、小川市長と親しい多胡邦夫の存在にも早期から気付いていて、接触を果たしていた可能性があります。例えば、栄伸製作所は、安中市のゴミ焼却場を談合で落札した㈱タクマの下請けで鉄鋼構造物を扱ったことで知られています。また、ここには示されていませんが、6奉行として司法書士の名前も挙がっており、安中市が発注する土地登記の業務で、湯浅市長時代は、たくさんの司法書士に仕事を出していましたが、小川市長になってからはY司法書士事務所が独占するようになったという情報もありました。
その2「多胡運輸ルート」
このルートは岡田県議(現市長)と早川市議(当時)との2ルートに枝分かれしています。岡田県議のほうは、日刊スポーツやサンパイ業者など、別の利権にかかわる業者のことが取りざたされていますが、豊富な不動産関係の情報は、公社時代に親しくなった多胡邦夫から得ていたと見る向きもあります。事実、岡田県議は、市議のころ平成5年のころ、多胡邦夫が長期配置となり、公社の理事会で異動の話が持ち出された際に、異動話を潰した張本人だとも言われています。巷間では、多胡邦夫から大きな骨董の瓶(かめ)をもらったとか、ン億円が回ったなどと言われていますが、本人は事件のことについて何も語りません。こと公社事件に関しては、岡田市長の説明責任は陰を潜めてしまっています。
一方、早川市議ルートについて、多胡運輸を経営する多胡邦夫の実弟と早川市議の関係は非常に親しく、実弟を通じて早川市議は多胡邦夫とも親しくなったと警察の取調調書でも供述しています。多胡邦夫は懲戒免職になった平成7年5月31日まで、早川市議が経営する学習塾である適塾の父母の会の会長をしていました。
また、㈱芙蓉の役員として、早川市議も多胡邦夫の実弟も名前を連ねておりました。もともと、小川勝寿市長(当時)が最初に市長選に出馬した平成3年に、早川市議は親しい知人らと同志会という組織を立ち上げていたのです。目的は、小川市長候補に接近して利権誘導を働きかけるためです。もちろん、小川市長の一番のゴルフ友達だった多胡邦夫の存在が、それを可能にしたわけです。
同志会の中には、多胡邦夫の実弟をはじめ、多胡運輸の当時役員をしていたT氏、国道18号沿いで飲食店を経営していたK氏、そして自動車販売会社の課長をしていたU氏らが居ました。彼らが設立したのが㈱芙蓉という不動産・金貸し業などを営む会社でした。
怪文書では、この会社に市議らが関係したかのように線が結んであります。実際に伊藤市議も沢市議も不動産業に手を染めていたことは市民の知るところです。
なお、多胡運輸は、多胡邦夫の実弟が経営しており、役員の一人に多胡邦夫の実母が事件発覚後も引き続き就任しています。警察の捜査では、多胡邦夫の配偶者に1億5千万円、実母に昭和58年頃から平成7年までの間に150万円(多胡邦夫の自供では、平成元年から平成5年までに300万円)を渡したとなっています。
従って、多胡運輸ルートには、多胡邦夫の親族へのカネの流れという意味で、3本のルートがあると考えられます。
ルート3「市役所ルート」
多胡邦夫のことを「おれの舎弟だ」と呼んでいた土地開発公社事務局次長の高橋弘安は、警察の捜査でももっともマークされた人物の一人でした。怪文書では、「一職員が安中市の人事を牛耳っていた」「市役所内に何でも言う事を聞く息がかりの職員が十数名いる」とあります。当会の調査でも、多胡邦夫から骨董品などをもらっていた職員が何人か居て、一緒にゴルフや競馬、麻雀をやっていた職員もかなりいたことが分かっています。
なかでも、高橋次長は、経理の専門家という触れ込みで公社に平成2年4月に赴任したのに、実際には、業務を多胡邦夫にまかせっきりにしており、多胡邦夫の親族とも非常に親しくしていました。このため、警察もマークしていたようですが、捜査が3ヶ月を経過したころを境に、それまでは負い目を感じさせる態度をとっていたのに、急に余裕ある態度に変化したことが供述調書から窺えるのです。
足利市の一品堂の店主の話では、多胡邦夫は市役所内で競馬のノミ行為をやっていたということから、ギャンブルを通じて関係した市役所の職員は相当数いたとみられます。また、金持ちの多胡邦夫にカネを借りていた職員も居たと言われており、こうしたカネを巡るしがらみで、何でも言う事を聞くイエスマン職員が多数居たとしても不思議ではありません。
なお、市内の飲み屋で酒を飲んだ職員が店を出るときに、多胡邦夫を呼び出して、酒代を支払わせていたという情報もあります。ちなみに、多胡邦夫は酒が飲めなかったということです。
さらに、母子家庭といつわって、市営住宅に入っていたこともあるという情報もあり、福祉制度まで悪用して、何でもありだったようです。
ルート4「闇献金ルート」
市民の間で最初からささやかれていたのが、某大物政治家への闇献金ルートの存在です。多胡邦夫は群馬銀行に対して、「市長の特命」「安中市のすべての案件は自分が仕切っている」と信じ込ませていました。
群馬銀行側も、多胡邦夫の口から、大型融資案件として、「北陸新幹線新安中駅周辺開発」「南地区区画整理事業(ここでいう南地区とは信越線の南側まで含む広大な地域も対象)」「西毛広域幹線道計画」「住宅団地・工業団地造成事業」などの事業計画が飛び出すと、ろくに背景も調べずにせっせとカネを貸しまくりました。こうした大型公共投資は、通常は公社の一職員の口から出たとしても、銀行は信用しません。群馬銀行は、多胡邦夫の口から出たことによる重みを知っていたからこそ、ろくに書類もチェックせずにカネを貸し出したのでした。
怪文書では「情報のお礼?(政治献金?)」とありますが、不思議なことに、怪文書に名前が出てきた関係者の多くは、某大物政治家との関係が取りざたされています。
例えば、早川市議は、中曽根後援会安中支部の青年部長をしていました。機を見て敏な岡田県議(現市長)も、現在は福田系を前面に打ち出していますが、地元ではもともと中曽根系として知られています。
多胡邦夫とその配偶者が、横領がバレたと知るや、イの一番に相談に駆け込んだのが、高崎の田中弁護士であり、穂積弁護士でした。このことをみても、カネの流れの見返りに、公共事業にかかる土地の先行情報や政治圧力による特別扱いなどにより、多胡邦夫の存在が一層クローズアップされて、金融機関側としても、一目置いていたことは間違いありません。
■この相関図は、相当内部事情に精通したものが作成し配布したと思われ、当時、噂では教育関係者の名前も取りざたされました。しかし、これだけの情報を要領よく分析して、まとめたのですから、怪文書という手段ではなく、堂々と公の場で公表すれば、捜査機関もきちんと調べざるを得なくなったかもしれず、非常に残念です。
■ところで、この怪文書騒ぎには、オマケがあります。7月31日に市内各所にばら撒かれた怪文書の一部を改ざんした印刷物が、8月10日に、安中市議会三会派の控え室に置かれていたのです。当時の当会の前身である市政をただす安中市民の会の会報が報じた記事を引用します。
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市役所3階ものがたり 百条調査そっちのけの怪文書改ざん騒動!
先週(平成7年8月)11日の臨時議会の前に、市長不信任案提出をめぐり虚々実々の駆け引きがあった市役所の3階で、そうした動きを撹乱する目的でもうひとつのドロ仕合が仕込まれていたことが判明。37億円の真相解明を心待ちにしている市民に、ドロを塗る結果とならねばよいがと、事情通の間で深刻に憂慮されている。
■ことの発端は、臨時議会の前に怪文書が市役所の3階に配布されたことに始まる。選良の控える市役所3階の中にまで怪文書が横行すること自体、およそ普通のジョーシキでは考えられないが、37億円事件が起きた自治体ならば驚くにあたらない、とする冷静(?)な向きもある。
■この怪文書というのが、驚くなかれ7月31日に市内各所のゴミ捨て場などで発見され大騒ぎになった元祖「黒い霧」怪文書の「訂正版」である。元祖怪文書に名前が載っていた人、載らなかった人など、悲喜こもごもの思いがあるようだが、いまだに作成者や配布者については判明していないらしい。
■今度3階で配布された訂正版は一箇所だけフルネームに替えてあったという。前回はゴミ捨て場に針金でくくられていたという怪文書が、今度はちゃんと市役所内にも届けられたというから余計ややこしい!
■訂正版の怪文書を見てフルネームで名指しされた議員が仰天し、早速捜査陣が大挙して12日に市庁舎に入り現場を撮影、指紋をとるなど大騒ぎになった。余りの騒ぎに動転したのか「実は怪文書に手を加えた」という御人が現れ、議長を伴って出頭したので、議会は上へ下への大騒動。改訂版で名指しされた議員は、今度こそ告訴してくれると鼻息荒く、訂正版をつくって持ち込んだ御人の所属する会派では、とりあえず告訴を取り下げてくれと平身低頭。メンツにかけても絶対取り下げないとする名指し議員との間でスッタモンダが続いており、成行きが心配されている。(16日までに告訴状を提出し受理された。怪文書を改ざんした御人は所属会派に16日夜脱会届け。慰謝料で解決をはかろうとする動きもあるらしい)
■百条委員会を控え15日10時、16日9時の各会派会議、10時の会派代表者連絡会議、1時の百条準備会が周到な事前打合せと信じていた市民。実はこのスッタモンダが主な議題と判り肩透かしを食った。
■8月21日の37億円詐欺事件関連の初公判の前にかけ込みでかろうじて間に合わせた恰好の百条調査特別委員会。その権能をフルに活かさねばならないのに議会のこの体たらくぶり! 先が思いやられる。
■以上が市役所3階ものがたりの一幕。次々演じられるドタバタ劇に安中市民は只々ヘキエキするばかり。
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■この事件は、マスコミでも報じられました。
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市議が同僚告訴 安中巨額詐欺怪文書めぐり
安中市土地開発公社担当の元市職員による巨額詐欺事件に関連し、平成7年7月末に同市内にばらまかれた怪文書の一部を改ざんした印刷物が同市議会三会派の控え室に置かれていた問題で、「印刷物に名前を書き込まれ、名誉を傷つけられた」として、柳沢健一議員(新政会)が8月16日までに横山登議員(市民クラプ)を名誉毀損(きそん)罪で安中署に告訴した。同署は受理した。
横山議員は事実関係を認め「告訴を聞いて事の重大さを痛感した。幼稚な考えでやってしまった。柳沢議員には本当に申しわけないと思っている」と話し、今後の身の振り方については「周囲と相談して決めたい」とした。
(平成7年8月17日付け上毛新聞)
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議員中傷 怪文書も 安中の巨額詐欺 今日から百条委
安中市土地開発公社の元主査による巨額の詐欺事件で揺れる安中市の議会各派代表者会議が平成7年8月16日開かれ、一部議員を中傷する怪文書問題について協議した。
午前10時から始まった同会議では、8月10日ごろ、安中市役所内の議員控室に怪文書が置かれていた問題の事実関係の報告が行われた。
同文書は、多胡邦夫被告と複数の議員らとの間の金銭取引の関係を示唆する怪文書の改訂版で、名字だけだった議員の名前をフルネームに書き直したもの。既に配布者は同市議会の別の議員と判明している。名指しされた議員は15日、安中薯に名誉棄損で告訴していた。
同議員は「私の名前が出てくる根拠が分からない。議会と市民が早期究明に向け一生懸命になっているなかこのような怪文書の配布が同じ議員の手によって行われたことが恥ずかしい」と話していた。同問題の真相を究明する百条委「市開発公社不祥事事件調査特別委員会」(小西勝二委員長)はきょう8月17日から2日間にわたって開かれる。
(平成7年8月17日付け讀賣新聞)
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安中市巨額詐欺事件 水差された百条委
誹膀チラシ改ざん 同僚市議が名誉棄損で告訴
安中市土地開発公社(理事長・小川勝寿串長)を舞台にした元主査の巨額詐欺事件の真相を究明する百条委の調査開始を目前に控えた平成7年8月16日、保守系市議が一部議員を名指しで誹膀(ひぼう)し、配布されたチラシに別の市議の名前を書き加え、「訂正版」として“発行”していたことが判明した。名指しされた市議は「事実無根」として、安中署に加筆した市議を名誉棄損容疑で告訴。また、百条委はきょう8月17日の参考人聴取を前に、打ち合わせを行ったが、傍聴を求める市民グループに対しては「非公開の慣例があり、時期尚早」と回答し断った。議員聞のトラブル・慣例で、百条委への期待にすっかり水を差された市民からは「この冬に選挙を控え、名前だけの百条委では」と議会不信の声も上がっている。
「訂正版」のチラシで名指しされたのは、柳沢健一市議。チラシは当初、「安中をおおう黒い霧ゆるさん」と題され、7月末に市内7ヵ所で約150枚配布された。この文中では、巨額詐欺事件にかかわりのある議員として列記されたなかに「柳沢」とだけ記されていたが、市議会には「柳沢」姓の議員が二人いるため、特定はされていなかった。
ところが、10日に市役所3階の議員控室に置かれていた「訂正版」では、この部分がフルネームに直され、柳沢健一市議が事件に関与したかのように書かれていた。
柳沢市議は「天地神明に誓って事件とは関係がない」とこのチラシに反発、「不祥事で市民と議会が解明に向け一生懸命やっているときに同僚の市議に足を引っ張られた。議員にあるまじき行為」として、安中署の事情聴取に対して容疑を認めたとの情報をもとに、別会派の保守系市議(57)を名誉棄損の疑いで同署に告訴した。同署では、改めてこの市議から事情を聴き、書類送検する方針。
柳沢市議によると、この市議は告訴後に自宅を訪れてきて「申し訳なかった。100%私が悪い。根拠もなく加筆した」と話したという。柳沢市議は「今後も弁護士と相談のうえ、名誉回復していきたい」としており、この市議に事実がないことの確認と謝罪を求める構え。
この問題で市議会は午前、各会派の代表者を集めて会派連絡協議会を開いて協議。広上輝男議長と柳沢市議から経過説明の後、当面は告訴された事件の推移を見守り、いずれはこの保守系市議本人からの事実確認・(辞職などの)意思確認を議会でも行う必要がある、ことを確認した。
(平成7年8月17日付け産経新聞)
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安中市議会百条委 市民の傍聴認めず 「人権侵害になる恐れ」
安中市土地開発公社の元職員による37億円の詐欺容疑事件の解明をめざす、百条委員会の「市土地開発公社不詳事件調査特別委員会(委員長・小西勝二副議長)の開催を17日に控え、市民団体の「市政をただす安中市民の会」(関口八郎事務局長)が16日、市民の傍聴を求める要望書を小西委員長らに手渡した。しかし、「市民の会が発行している会報は議員個人を追及している。議員や参考人、証人に対する人権侵害になるおそれがある」として傍聴を拒否した。傍聴は、報道関係者に限って認められる。
一方、百条委で市や公社、群馬銀行の関係者に対する質問を行う、委員の市議や各会派代表者らは、終日、会議室にこもり、打ち合わせなどの準備に追われた。
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また、8月15日、同市議会の柳沢健一市議が、別の市議に名誉を損なわれたとして、安中署に告訴状を出した。先月末にまかれた、元職員多胡邦夫被告と市長、市議らとの関連を示すビラに、新たに柳沢市議の名前が書き加えられたビラを今月上旬、別の市議が市役所内に置いたためで、告訴された市議は事実を認めているという。
柳沢市議は「私は37億円とは一切関係ない。事件の早期解決を目指している時に、同じ議員が混乱を招く行為をするなんて」と話している。
(平成7年8月17日付け朝日新聞)
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■その後、柳沢健一市議も、横山登市議も、市議会の議長や副議長を歴任して現在も市議会で活躍中です。しかし、柳沢市議も、横山市議も平成5年12月17日から安中市土地開発公社の理事として、公社の運営に当たってきたはずなのに、何一つ事件について説明責任を果たしていません。
また、当会の前身である市政をただす安中市民の会が事件発覚直後に行ったアンケートでは、新政会所属(当時)の柳沢健一市議は、Q:市民へのしわよせは? A:ある。 Q:百条委員会設置は? A:状況により。 Q:特別委員会への市民の傍聴について? A:委員長の判断。 Q:市長の政治責任は? A:当然ある。と回答を寄せたのに対して、市民クラブ所属の横山市議は、早川、広上、柳沢吉保、沢、伊与久、松本、伊藤成とともに、白紙回答をしてきました。
■百条委員会に傍聴を許されなかった当会の前身だった市民団体「市政をただす安中市民の会」は、百条委員会の開催意義を疑問視せざるを得なくなり、議員による真相解明は不可能である事をこのときから、悟ったのでした。そして、案の定、議員による百条委員会は成果をあげられないまま、活動が立ち消えとなり、その後は、この前代未聞の巨額横領事件を真相解明と責任追及を粘り強く続けているのは当会だけとなっており、現在に至っております。
【ひらく会情報部・この項おわり】