『HACHI 約束の犬』のラッセ・ハルストレム監督が、1970年代にアメリカで実際に起きた詐欺事件を基に描く人間ドラマ。当時隠遁生活を送っていた、大富豪ハワード・ヒューズの偽の自伝を創作した作家の驚くべき手腕を鮮やかに映し出す。憎めない主人公を、『シカゴ』のリチャード・ギアが熱演。彼の親友に『17歳の肖像』のアルフレッド・モリナがふんしている。次第にうそと現実の境界線があいまいになっていく展開に、くぎ付けとなる。(yahoo!映画より)
録り置きの映画の消化。少し前の映画です。実話なんだとか。
ハワード・ヒューズなんて言っても、私なんかはディカプリオの映画でしか知らないわけですが、確かにあの映画でもかなり個性的な人物でしたよね。
この映画の主人公、リチャード・ギア扮するグリフォード・アーヴィングは、絵画における贋作のプロ、エルミア・デ・ホーリーに関する本を書いて一発当て、才能はあると言われていた作家。しかしその後続かず、スランプ。でも、プライドと意地だけはあって「今に今世紀最高の作品を書いてやる」などと本気で思っています。
そんな彼が思いついたのが、すでに人前に出なくなっていた、成功した変人ハワード・ヒューズの自伝を書くことでした。彼の筆跡をまね、「グリフォードに一任する」などという手紙をでっち上げ、出版社に持ち込み。なぜか筆跡鑑定で「本物」とされたこの手紙を信じ、出版社はグリフォードと契約します。
それからの彼は、腕利きの調査員ディック(妙に若いアルフレッド・モリーナ)とワシントン.D.Cの議会図書館で公文書を盗み撮りしたり、ペンタゴンから資料を盗み出したりと、怒涛の情報収集を始めます。
極めつけはヒューズの元側近で、今は袂を分かっているノア・デートリッヒの資料でした。これもうまくコピーすることができた二人。自伝は着々と書かれてゆきます。
とにかく人前には出ないハワード。そんな彼の自伝を巡って、なんどか嘘が露見しそうになりながらも、口八丁手八丁なグリフォードに言い負かされ、結局は出版社は多額の報酬を払うことになります。もちろん、グリフォードにではありません。ハワードにです。小切手の換金も一筋縄ではいきませんね。本人には会ってないのですから。
そんなとき、突然ラスベガスの消印で段ボール箱が届きます。中にはハワード・ヒューズとニクソン大統領陣営におけるお金のやりとり(つまり賄賂)の資料などがぎっしり。これが後に「ウォーターゲート事件」として世にさらされるものですね。
これを送ってきたのが誰なのかは、はっきりとは描かれていませんでした。ひょっとして、なにかでニクソン氏に腹を立てたヒューズ本人が、露見させるために送ってきた?あるいはグリフォードの実力を試したかったヒューズ本人がわざと送った?真相はわかりません。でも、はったり続きで倒れそうになっていたグリフォードは、この資料でずいぶん救われるのです。
嘘に嘘を上塗りしてゆくグリフォード。そのストレスから、だんだん現実と嘘の見境いも見失ってゆきます。それにとりつかれてゆくというのでしょうか。また、昔懐かしい愛人(ジュリー・デルピー)とも再会するのですが、彼女についても妻に対して嘘を塗り固めてゆきます。ほとんど自分がわからなくなっているのでしょうか。あるいは、嘘をつくことに酔っているのでしょうか。少しずつ、おかしくなってゆきます。
さて、こんな大ウソ、バレないはずはありません。いつかバレます。ハワード・ヒューズ氏、(多分)激怒です。見えないからわからないけれど。しかし、「こんな男に自伝を頼んだ覚えはない。大ウソだ」としながらも「しかし、本自体はよくできている」と言わしめたのです。グリフォードさん、お金も返したんでしょうかねぇ。大金だけど。
全体的には、話が少し駆け足で、わかりづらいところがありました。この事件について、多少の知識があればサクサク理解しながら見れたかもしれません。しかしなんの知識もないと、ただのバカが、「筆跡鑑定でバレなかった」とか「簡単に資料が盗めた」とかの立て続けの幸運に恵まれ、さらに誰が送ってきたのかわからないけれど、重要な資料も手にして・・・というあり得ない話にしか見えません。
本人に乗り移られたようにおかしくなってゆく、という描写も中途半端な感じを受けました。
しかし、これが実話なんですものね。事実は小説よりも奇なり、とは言いますが、まさにそんな感じ。蓋を開けてみれば、なんのことはない。冷静になって考えれば、「なんで騙されたんだろう」と皆が思ったに違いありません。この話が1970年代。まだまだ最近ですものね。なんだか複雑です。