*「ミシェル、マ・ベル……」
「ミシェル!」
思わず口に出して叫んでみたくなる、僕の最も好きな名前である。
その名を口に出そうとすると、いったんつぐんだ唇と唇をすぐに離し<ミ>、すぐさまそっと喉から息を吐くようにゆるやかに口を開き<シェ>、最後は下に置いた唇でそっと上顎を蹴るようにして<ル>、ミシェル……その軽やかで柔らかな響きがいい。
ミシェルが最も好きな名前であるが、その名の女性に恋している、もしくは恋したわけではない。恋している時は、どんな名前でもその女性の名前が一時的にせよ最も好きになるので、客観的および情緒的に好きな響きの名前、ということである。
フランスに住んでいる古い知人で、ポールという名前の女性がいる。
もう何十年も前のことだが、初めてパリに行ったとき、彼女の兄を紹介された。彼がミシェルと名のったので、そのとき男性にもミシェルという名前があるんだと少し意外に思った。
ミシェルは、フランスでは男性にも女性にもある名前である。彼の綴りは、「Michel」で、女性の場合は「Michelle」となり、発音は同じ「ミシェル」である。
基本的にフランス語の場合、末尾にeを付けると名詞や形容詞は女性形となる。
ポールも男性にもある名前だが、彼女の名の綴りは「Paule」であり、女性ということを示している。
イギリス人であるが、ビートルズのポール・マッカートニーは「Paul McCartney」で、「Paul」とeは付いていない。
そのポール・マッカートニーも、フランス語で歌っている。「ミシェル、マ・ベル……」と。
Michelle, ma belle
Sont des mots qui vont très bien ensemble,
Très bien ensemble
「ma belle」の「ma」は、「私の」という単数女性名詞に付く所有形容詞で、英語でいえば「my」である。「belle」は「美しい」という形容詞「beau」の女性形で、この場合は「美しい人」転じて「恋人」という意味の名詞となっている。
「ミシェル、僕の恋人、その言葉はなんと美しい響きなことか」といったような意味である。
イギリス人のポールは、この恋人への訴えをもちろん英語でも、というかもともとが英語の歌だから英語で歌っている。
Michelle, ma belle
These are words that go together well, My Michelle
ここでは、「Michelle」(ミシェル)と「ma belle」(マ・ベル)が、言うまでもないが韻をふんでいるので、さらに美しい。
想像するに、ポール・マッカートニーは、フランス人の友人あるいは知人が恋人に向かって「ミシェル、マ・ベル」と言った、あるいは囁いたのを聞いて、その言葉に音楽心を動かされて、この「ミシェル」という歌を作ったのに違いない。
あるいは、お忍びでパリを歩いていたとき、どこからか発されたこの言葉がポールの耳に入り、心に残ったのかもしれない。
おそらくきっと、「ミシェル、マ・ベル」の言葉の響きが、この歌を生んだのだろう。
*フランスで見かける、ミシェルの名前
ミシェル(Michel、Michelle)は、フランスでは人の名前によく見られるが、頭にサン(Saint 聖)を付けた名前の建物や地名もよく見受けられる。
パリには、サン・ミシェルの通り(Boulevard Saint-Michel)があり(写真)、セーヌ川にはサン・ミシェル橋(Pont Saint-Michel)も架かっている。
サン・ミッシェル(Saint-Michel)の名の地下鉄(メトロ)の駅もあるし、鉄道のサン・ミッシェル=ノートルダム(Saint-Michel - Notre-Dame)駅もある。
世界遺産で有名なモン・サン・ミシェル(Mont Saint-Michel)も、挙げていいだろう。頭に付いた「モン」(Mont)は、「山」である。
*美人すぎる「ミカエル・ミシェル」の不思議
なぜ、僕の頭に急に「ミシェル」が出てきたかといえば、である。
最近、週に1度、近くの多摩のピューロランドの隣にある温泉に行っている。
去る1月30日のことである。湯につかったあと、くつろぎのスペースで、そこで自由に見ることができるスポーツ新聞をながめていたら、次のような記事が目に入った。
「美人すぎるジョッキー ミシェル満点騎乗」
フランス人の女性騎手(24歳)が、前日の1月29日、地方競馬(川崎競馬)で初勝利をあげた記事なのだが、ほぼ裏一面の大々的な扱いである。大きな顔写真の横に、「この顔に恋をしました」、「短期免許で来日フランス人に」、「今度は日本中が恋をする」と見出しがある。
僕がおやと興味を持ったのは、その美しい顔というよりも彼女の名前である。名前は「ミカエル・ミシェル」とある。
「ミシェル」が姓で、「ミカエル」が名ということだ。
「ミシェル」は、もともと「ミカエル」から派生した名前である。
「ミカエル」(Michael)は、旧約聖書に出てくる大天使の名前で、西欧の各国でも人名のもとになっている。
フランス語のミシェル(Michel)、英語のマイケル(Michael) 、ドイツ語のミハエル、ミヒャエル(Michael)、スペイン語・ポルトガル語のミゲル(Miguel)などがそうである。
となると、僕は聖書や名前の専門家や研究家ではないので単純な疑問として、美人すぎる騎手の「ミカエル・ミシェル」は、同じ姓と名ということにならないかと思ったのである。
「ミシェル」(Michel)は、もともと「ミカエル」(Michael)である。
彼女の名前の綴りは、「ミカエル・ミシェルMickaëlle Michel」とあった。姓のミシェルは男性形だが、名前のミカエルの末尾にはeが付いて、きちんと女性形になっている。hがkにと微妙に綴りが変わってはいるが、大天使ミカエル由来の名前には違いないだろう。
姓も名も、同じ大天使!?
う~ん、不思議な気がするが、美しすぎるというより、畏(おそ)れ多すぎる名前である。
僕には、ミカエルよりは、何といっても「ミシェル」の響きがいい。
「ミシェル、マ・ベル、Michelle, ma belle……」と、口の中で歌ってみる。
「ミシェル!」
思わず口に出して叫んでみたくなる、僕の最も好きな名前である。
その名を口に出そうとすると、いったんつぐんだ唇と唇をすぐに離し<ミ>、すぐさまそっと喉から息を吐くようにゆるやかに口を開き<シェ>、最後は下に置いた唇でそっと上顎を蹴るようにして<ル>、ミシェル……その軽やかで柔らかな響きがいい。
ミシェルが最も好きな名前であるが、その名の女性に恋している、もしくは恋したわけではない。恋している時は、どんな名前でもその女性の名前が一時的にせよ最も好きになるので、客観的および情緒的に好きな響きの名前、ということである。
フランスに住んでいる古い知人で、ポールという名前の女性がいる。
もう何十年も前のことだが、初めてパリに行ったとき、彼女の兄を紹介された。彼がミシェルと名のったので、そのとき男性にもミシェルという名前があるんだと少し意外に思った。
ミシェルは、フランスでは男性にも女性にもある名前である。彼の綴りは、「Michel」で、女性の場合は「Michelle」となり、発音は同じ「ミシェル」である。
基本的にフランス語の場合、末尾にeを付けると名詞や形容詞は女性形となる。
ポールも男性にもある名前だが、彼女の名の綴りは「Paule」であり、女性ということを示している。
イギリス人であるが、ビートルズのポール・マッカートニーは「Paul McCartney」で、「Paul」とeは付いていない。
そのポール・マッカートニーも、フランス語で歌っている。「ミシェル、マ・ベル……」と。
Michelle, ma belle
Sont des mots qui vont très bien ensemble,
Très bien ensemble
「ma belle」の「ma」は、「私の」という単数女性名詞に付く所有形容詞で、英語でいえば「my」である。「belle」は「美しい」という形容詞「beau」の女性形で、この場合は「美しい人」転じて「恋人」という意味の名詞となっている。
「ミシェル、僕の恋人、その言葉はなんと美しい響きなことか」といったような意味である。
イギリス人のポールは、この恋人への訴えをもちろん英語でも、というかもともとが英語の歌だから英語で歌っている。
Michelle, ma belle
These are words that go together well, My Michelle
ここでは、「Michelle」(ミシェル)と「ma belle」(マ・ベル)が、言うまでもないが韻をふんでいるので、さらに美しい。
想像するに、ポール・マッカートニーは、フランス人の友人あるいは知人が恋人に向かって「ミシェル、マ・ベル」と言った、あるいは囁いたのを聞いて、その言葉に音楽心を動かされて、この「ミシェル」という歌を作ったのに違いない。
あるいは、お忍びでパリを歩いていたとき、どこからか発されたこの言葉がポールの耳に入り、心に残ったのかもしれない。
おそらくきっと、「ミシェル、マ・ベル」の言葉の響きが、この歌を生んだのだろう。
*フランスで見かける、ミシェルの名前
ミシェル(Michel、Michelle)は、フランスでは人の名前によく見られるが、頭にサン(Saint 聖)を付けた名前の建物や地名もよく見受けられる。
パリには、サン・ミシェルの通り(Boulevard Saint-Michel)があり(写真)、セーヌ川にはサン・ミシェル橋(Pont Saint-Michel)も架かっている。
サン・ミッシェル(Saint-Michel)の名の地下鉄(メトロ)の駅もあるし、鉄道のサン・ミッシェル=ノートルダム(Saint-Michel - Notre-Dame)駅もある。
世界遺産で有名なモン・サン・ミシェル(Mont Saint-Michel)も、挙げていいだろう。頭に付いた「モン」(Mont)は、「山」である。
*美人すぎる「ミカエル・ミシェル」の不思議
なぜ、僕の頭に急に「ミシェル」が出てきたかといえば、である。
最近、週に1度、近くの多摩のピューロランドの隣にある温泉に行っている。
去る1月30日のことである。湯につかったあと、くつろぎのスペースで、そこで自由に見ることができるスポーツ新聞をながめていたら、次のような記事が目に入った。
「美人すぎるジョッキー ミシェル満点騎乗」
フランス人の女性騎手(24歳)が、前日の1月29日、地方競馬(川崎競馬)で初勝利をあげた記事なのだが、ほぼ裏一面の大々的な扱いである。大きな顔写真の横に、「この顔に恋をしました」、「短期免許で来日フランス人に」、「今度は日本中が恋をする」と見出しがある。
僕がおやと興味を持ったのは、その美しい顔というよりも彼女の名前である。名前は「ミカエル・ミシェル」とある。
「ミシェル」が姓で、「ミカエル」が名ということだ。
「ミシェル」は、もともと「ミカエル」から派生した名前である。
「ミカエル」(Michael)は、旧約聖書に出てくる大天使の名前で、西欧の各国でも人名のもとになっている。
フランス語のミシェル(Michel)、英語のマイケル(Michael) 、ドイツ語のミハエル、ミヒャエル(Michael)、スペイン語・ポルトガル語のミゲル(Miguel)などがそうである。
となると、僕は聖書や名前の専門家や研究家ではないので単純な疑問として、美人すぎる騎手の「ミカエル・ミシェル」は、同じ姓と名ということにならないかと思ったのである。
「ミシェル」(Michel)は、もともと「ミカエル」(Michael)である。
彼女の名前の綴りは、「ミカエル・ミシェルMickaëlle Michel」とあった。姓のミシェルは男性形だが、名前のミカエルの末尾にはeが付いて、きちんと女性形になっている。hがkにと微妙に綴りが変わってはいるが、大天使ミカエル由来の名前には違いないだろう。
姓も名も、同じ大天使!?
う~ん、不思議な気がするが、美しすぎるというより、畏(おそ)れ多すぎる名前である。
僕には、ミカエルよりは、何といっても「ミシェル」の響きがいい。
「ミシェル、マ・ベル、Michelle, ma belle……」と、口の中で歌ってみる。