この日は、待望の足摺岬へ行こう。
10月3日、高知9時53分発、土讃線の特急「南風1号」で、中村へ向かった。高知から窪川までがJRで、窪川からは土佐くろしお鉄道となるのだが、直通で中村まで列車は走った。
去年、室戸岬に行ったときから、それと対応するかのように土佐湾を挟んで存在している足摺岬にも行かないといけない、という思いに駆られていた。
室戸岬もそうだったが、海に向かって尖ったところへは鉄道が途切れている。室戸岬で、土地の人に、どうして鉄道が切れているのか、繋がっていれば便利でしょうと訊いたら、こうした尖った海岸線は風が強いので、列車が不安定になり危険なので鉄道が敷かれない、という答えだった。
そういうことであるから、中村から先への足摺岬に向かう足は、鉄道でなくバスである。
足摺岬には午後には着く予定だが、足摺岬周辺を見回っていると、次の日大分・佐伯行きの船に乗る港である宿毛に行く時間的余裕がなくなる。だから、この日は岬の近くに宿泊するつもりで、昨日高知駅前の観光協会で、僕にしては珍しく予め宿を予約してあるのだ。
*
中村には11時32分に着いた。
中村は四万十川の河口にあり、今では町村合併で四万十市と名前を変えている。今夏、日本最高気温41.0度を記録した江川崎も、この四万十市である。
中村から西南交通のバスに乗った。
バスは、やがて土佐清水市に入り、清水バスセンターで一時休憩のため停まった。このあたりが土佐清水市の中心街のようだ。
すぐにバスは発車し、曲がりくねる海岸線を走った。海岸線の道はバス1台が通るギリギリの幅で、対向車が来たらどうするのだろうと心配した。しかも、運転手は朝ドラ「あまちゃん」を少し年配にした素朴な感じの女性である。
案の定、対向車が来た。そこは運よく少し幅の広いところで、うまくすれ違ったので、ほっとした。
バスは、景色のいいところでは運転手が解説して、観光バスのように見学のために少し停車するサービスもあった。
バスの終点の足摺岬で降りた。まだ午後1時35分だ。
歩いてすぐのところに、四国最南端である足摺岬の白い灯台があった。灯台は、燈台守もいそうになく、ひとり寂しくたたずんでいた。展望台から見ると、それは白い観音様のようで、岸壁の上から海を慈悲深く見渡しているようであった。(写真)
室戸岬の灯台は、小高い丘の上にあり、海や下の通りを睥睨している感があったが、足摺岬のそれはいかにも灯台の見本といった様で、海にせり出た岩壁の上にあった。
灯台から続く遊歩道を歩いて、白山神社の近くの予約しているホテルに行った。
簡素なホテルで、ドアの中に入っても受け付けには誰もいない。声をあげて呼んだら、係りの男性が顔を出した。予約した者だと告げると、チェックインは3時からですが、と申し訳なさそうな顔をした。時計を見ると2時半だ。
とりあえず、荷物だけ預けてもらって、見物に出かけることにした。
ここに来る前に灯台は見てきましたが、歩いてかバスで身近なところで見るところはありますか、と訊いた。そのホテルの係りの男性は、う~ん、と考えて、正直に、あまりありませんね。すぐ前にある道の下の、石段を下りていくと白山洞門がありますが、と言った。
僕も地図や観光案内書を見て、灯台以外はさほど好奇心に駆られるところがないので、半日をどう過ごすか懸念していたのだ。白山洞門は、ホテルの前の道に標示板があり、すぐ近くなので行こうと思っていた。
足摺岬のバス停近くに,喫茶兼食堂があったが、ほかにレストランや食堂風のものもこの近くにはありそうにない。ましてやスナックなどの飲み屋は望めそうにない。
僕もここでこれから明日まで半日過ごすのはつらいなと思い、反射的に、今日中に宿毛に行こうと思いたった。それで、係りの男性に、次の中村行きのバスの時間を訊くと2時40分である。あと10分しかない、というよりあと10分でバスがくる。これを逃すと、あと1時間後である。
申し訳ないが、今日はこれから宿毛に行くので、宿泊をキャンセルしていいかと頼むと、あゝ、いいですよと、気軽に快諾してくれた。そして、ホテルのすぐ前にバス停がありますから、と親切に教えてくれた。本当に人がいい。
珍しくホテルを予約などすると、こんなことになってしまう。やはり、旅はなりゆき任せが一番だ。
僕は、謝りながらホテルを出て、まだ10分あると言い聞かせ、標示に従って白山洞門への小道を走るように下りた。間に合いそうになければ、途中で引き返せばいい。
石段を降りたところに岩道が途絶え、向かい側の岩まで白い橋が架かっていて、その橋のたもとに白い鳥居があった。その橋を渡った向かい側に岩の穴があった。慌ただしく洞門を見て、汗にまみれてバス停に戻ってきたときに、バスがやって来た。
バスは、もと来た道を再び中村へ走った。
中村へは16時25分に着いた。土佐くろしお鉄道による宿毛行きは、17時32分でまだ1時間以上ある。
中村駅前に立ったが、駅前は店らしいものはない。観光協会も、駅から離れた国道沿いにあった。繁華街も離れたところにありそうだ。
*
中村から土佐くろしお鉄道で宿毛に向かった。
宿毛は高知県の南西にある港町で、日本地図や時刻表の地図を見ると、ここから九州の大分県の佐伯まで海の中を線が引いてあり、四国~九州間の船が通っていることは知っていた。一度はこの路線の船に乗りたいと思っていたのだ。
ずっと宿毛はどう読むのだろうと思っていたが、「すくも」である。
宿毛駅に着いたのは、18時02分だった。駅を出ると、外はもう暗く、店も明かりも見当たらない。駅員に訊こうと思ったが、窓口も閉まっていて、構内は無人であった。
町の地図を見ると、港の方に行く道にビジネスホテルがあるので、とりあえずその方に歩こう、食事もしなければいけないが途中に食堂があるだろう、と思った。しかし地図を見ても、どっちへ行けばいいか全く見当がつかない。外は暗いこともあって、大きな道が見当たらないのだ。
途方に暮れていると、前方の家に車がやって来て人が降りた。僕は近寄って、港の方へ行く道と、この辺りに食堂かレストランはないかと訊いた。
その人は、駅の反対側を指さし、港はあちらの方で、歩けば30分近くかかり、その途中にビジネスホテルがあると言った。そして、居酒屋はあるが食堂はないなぁ、途中にあるビジネスホテルが1階でレストランもやっている、と教えてくれた。
僕が礼を言って、駅の反対側に出て道を探していると、1台の車がやって来て止まり、男の人が出てきた。先ほどの人で、あそこに明かりが見えるのがレストランのあるホテルです。そこまで案内しますから、車に乗って下さい、と言い、車でそのホテルの前まで連れて行ってくれた。まったく高知の人は、人がいい。
そのビジネスホテルのレストランで食事をし、ここから港まで歩くと何分かかりますか、と訊いたら、20分と言う。もう少し港に近いところのホテルにしようと、その先にあるホテルに向かった。
というのは、船の出発時刻が朝8時と早いので、港には少しでも近いところに泊まりたい。船の出発は、8時の後は16時なので、何としても8時に乗りたいのだった。
10分ほど歩くと、港に続く道沿いにビジネスホテルがあり、そこに泊まることにした。そこからは、港までは歩いて10分だと言う。
ビジネスホテルの窓から見渡す宿毛の夜景は、港町の情緒は感じられず、遠くへ道路が延びるアメリカン・カントリーのような乾いた街の印象だ。
しかし、見知らぬ遠い町へ来たのだという実感を味わった。
明日は早いので、早く寝ることにした。梟(フクロウ)のような生活をしている僕には、旅は早寝早起きで健康的だ。
明日は、船で九州へ渡ろう。
10月3日、高知9時53分発、土讃線の特急「南風1号」で、中村へ向かった。高知から窪川までがJRで、窪川からは土佐くろしお鉄道となるのだが、直通で中村まで列車は走った。
去年、室戸岬に行ったときから、それと対応するかのように土佐湾を挟んで存在している足摺岬にも行かないといけない、という思いに駆られていた。
室戸岬もそうだったが、海に向かって尖ったところへは鉄道が途切れている。室戸岬で、土地の人に、どうして鉄道が切れているのか、繋がっていれば便利でしょうと訊いたら、こうした尖った海岸線は風が強いので、列車が不安定になり危険なので鉄道が敷かれない、という答えだった。
そういうことであるから、中村から先への足摺岬に向かう足は、鉄道でなくバスである。
足摺岬には午後には着く予定だが、足摺岬周辺を見回っていると、次の日大分・佐伯行きの船に乗る港である宿毛に行く時間的余裕がなくなる。だから、この日は岬の近くに宿泊するつもりで、昨日高知駅前の観光協会で、僕にしては珍しく予め宿を予約してあるのだ。
*
中村には11時32分に着いた。
中村は四万十川の河口にあり、今では町村合併で四万十市と名前を変えている。今夏、日本最高気温41.0度を記録した江川崎も、この四万十市である。
中村から西南交通のバスに乗った。
バスは、やがて土佐清水市に入り、清水バスセンターで一時休憩のため停まった。このあたりが土佐清水市の中心街のようだ。
すぐにバスは発車し、曲がりくねる海岸線を走った。海岸線の道はバス1台が通るギリギリの幅で、対向車が来たらどうするのだろうと心配した。しかも、運転手は朝ドラ「あまちゃん」を少し年配にした素朴な感じの女性である。
案の定、対向車が来た。そこは運よく少し幅の広いところで、うまくすれ違ったので、ほっとした。
バスは、景色のいいところでは運転手が解説して、観光バスのように見学のために少し停車するサービスもあった。
バスの終点の足摺岬で降りた。まだ午後1時35分だ。
歩いてすぐのところに、四国最南端である足摺岬の白い灯台があった。灯台は、燈台守もいそうになく、ひとり寂しくたたずんでいた。展望台から見ると、それは白い観音様のようで、岸壁の上から海を慈悲深く見渡しているようであった。(写真)
室戸岬の灯台は、小高い丘の上にあり、海や下の通りを睥睨している感があったが、足摺岬のそれはいかにも灯台の見本といった様で、海にせり出た岩壁の上にあった。
灯台から続く遊歩道を歩いて、白山神社の近くの予約しているホテルに行った。
簡素なホテルで、ドアの中に入っても受け付けには誰もいない。声をあげて呼んだら、係りの男性が顔を出した。予約した者だと告げると、チェックインは3時からですが、と申し訳なさそうな顔をした。時計を見ると2時半だ。
とりあえず、荷物だけ預けてもらって、見物に出かけることにした。
ここに来る前に灯台は見てきましたが、歩いてかバスで身近なところで見るところはありますか、と訊いた。そのホテルの係りの男性は、う~ん、と考えて、正直に、あまりありませんね。すぐ前にある道の下の、石段を下りていくと白山洞門がありますが、と言った。
僕も地図や観光案内書を見て、灯台以外はさほど好奇心に駆られるところがないので、半日をどう過ごすか懸念していたのだ。白山洞門は、ホテルの前の道に標示板があり、すぐ近くなので行こうと思っていた。
足摺岬のバス停近くに,喫茶兼食堂があったが、ほかにレストランや食堂風のものもこの近くにはありそうにない。ましてやスナックなどの飲み屋は望めそうにない。
僕もここでこれから明日まで半日過ごすのはつらいなと思い、反射的に、今日中に宿毛に行こうと思いたった。それで、係りの男性に、次の中村行きのバスの時間を訊くと2時40分である。あと10分しかない、というよりあと10分でバスがくる。これを逃すと、あと1時間後である。
申し訳ないが、今日はこれから宿毛に行くので、宿泊をキャンセルしていいかと頼むと、あゝ、いいですよと、気軽に快諾してくれた。そして、ホテルのすぐ前にバス停がありますから、と親切に教えてくれた。本当に人がいい。
珍しくホテルを予約などすると、こんなことになってしまう。やはり、旅はなりゆき任せが一番だ。
僕は、謝りながらホテルを出て、まだ10分あると言い聞かせ、標示に従って白山洞門への小道を走るように下りた。間に合いそうになければ、途中で引き返せばいい。
石段を降りたところに岩道が途絶え、向かい側の岩まで白い橋が架かっていて、その橋のたもとに白い鳥居があった。その橋を渡った向かい側に岩の穴があった。慌ただしく洞門を見て、汗にまみれてバス停に戻ってきたときに、バスがやって来た。
バスは、もと来た道を再び中村へ走った。
中村へは16時25分に着いた。土佐くろしお鉄道による宿毛行きは、17時32分でまだ1時間以上ある。
中村駅前に立ったが、駅前は店らしいものはない。観光協会も、駅から離れた国道沿いにあった。繁華街も離れたところにありそうだ。
*
中村から土佐くろしお鉄道で宿毛に向かった。
宿毛は高知県の南西にある港町で、日本地図や時刻表の地図を見ると、ここから九州の大分県の佐伯まで海の中を線が引いてあり、四国~九州間の船が通っていることは知っていた。一度はこの路線の船に乗りたいと思っていたのだ。
ずっと宿毛はどう読むのだろうと思っていたが、「すくも」である。
宿毛駅に着いたのは、18時02分だった。駅を出ると、外はもう暗く、店も明かりも見当たらない。駅員に訊こうと思ったが、窓口も閉まっていて、構内は無人であった。
町の地図を見ると、港の方に行く道にビジネスホテルがあるので、とりあえずその方に歩こう、食事もしなければいけないが途中に食堂があるだろう、と思った。しかし地図を見ても、どっちへ行けばいいか全く見当がつかない。外は暗いこともあって、大きな道が見当たらないのだ。
途方に暮れていると、前方の家に車がやって来て人が降りた。僕は近寄って、港の方へ行く道と、この辺りに食堂かレストランはないかと訊いた。
その人は、駅の反対側を指さし、港はあちらの方で、歩けば30分近くかかり、その途中にビジネスホテルがあると言った。そして、居酒屋はあるが食堂はないなぁ、途中にあるビジネスホテルが1階でレストランもやっている、と教えてくれた。
僕が礼を言って、駅の反対側に出て道を探していると、1台の車がやって来て止まり、男の人が出てきた。先ほどの人で、あそこに明かりが見えるのがレストランのあるホテルです。そこまで案内しますから、車に乗って下さい、と言い、車でそのホテルの前まで連れて行ってくれた。まったく高知の人は、人がいい。
そのビジネスホテルのレストランで食事をし、ここから港まで歩くと何分かかりますか、と訊いたら、20分と言う。もう少し港に近いところのホテルにしようと、その先にあるホテルに向かった。
というのは、船の出発時刻が朝8時と早いので、港には少しでも近いところに泊まりたい。船の出発は、8時の後は16時なので、何としても8時に乗りたいのだった。
10分ほど歩くと、港に続く道沿いにビジネスホテルがあり、そこに泊まることにした。そこからは、港までは歩いて10分だと言う。
ビジネスホテルの窓から見渡す宿毛の夜景は、港町の情緒は感じられず、遠くへ道路が延びるアメリカン・カントリーのような乾いた街の印象だ。
しかし、見知らぬ遠い町へ来たのだという実感を味わった。
明日は早いので、早く寝ることにした。梟(フクロウ)のような生活をしている僕には、旅は早寝早起きで健康的だ。
明日は、船で九州へ渡ろう。