かりそめの旅

うるわしき 春をとどめるすべもなし 思えばかりそめの 旅と知るらむ――雲は流れ、季節は変わる。旅は過ぎゆく人生の一こま。

◇ ショーシャンクの空に

2009-04-05 01:09:02 | 映画:外国映画
 スティーヴン・キング原作 フランク・ダラボン脚本・監督 ティム・ロビンス モーガン・フリーマン 1994年米

 人生は短いのだろうか、長いのだろうか。
 例えば、刑務所の塀の中で20年を暮らすということは、その人の人生の中で、どのようなことなのであろうか。いや、例えばもっと長く人生の大半である50年を暮らすということは、どのようなことなのであろうか。その人の人生とは、塀の中だったというのだろうか。
 それは、籠の中で飼われた鳥のようなものだろうか。

 籠の中の鳥にしても、檻の中の動物にしても、籠や小屋の中のペットにしても、長い間その中の世界で生活していると、外の世界で生きていけなくなる。最初は閉じこめられると嫌で抵抗するとしても、長い間閉じこめられ世界で食事を与えられると、次第にそこに飼い慣らされていく。
 動物でも人間でも、長い間鎖に繋がれた生活をしていると、そのことに依存するようになるのだろうか。いつしか外の生活に順応できなくなり、自由が逆に不自由な重荷になり、まだ飼われていた方がいいと思うようになるのであろうか。
 それほど自由な下界は、厳しく生きづらいものなのであろうか。

 映画のタイトルのショーシャンクとは、刑務所の名前である。その刑務所での生活を余儀なくされた男、いや刑務所で暮らす複数の男たちの話である。
 原題は、「リタ・ヘイワースの刑務所」。リタ・ヘイワースとは、戦後ハリウッドのセックス・シンボルとなった女優である。

 エリート銀行マンだったアンディ(ティム・ロビンス)は、妻とその浮気相手の殺人容疑で無期懲役の刑でショーシャンク刑務所に入れられる。無実であるが、刑務所の中で年月は容赦なく過ぎていく。そこには、何年も何十年もそこで暮らしている人(囚人)たちがいて、塀の中の秩序があり、掟がある。
 アンディはその中でも、自分らしさを失わず、尊厳を持って生きていく。あるときは傷つきながら。そして、レッド(モーガン・フリーマン)という黒人の男と友だちになる。この物語は、レッドがアンディを語るという構成を取っている。

 レッドが刑務所生活を語る場面がある。
 「この塀は魔物だ。初めは憎む。次に慣れる。そのうち依存するようになる」
 この塀の中で50年を送った男は、こっそり雛を見つけて、鳥を飼っていた。その男が、仮出所することになり、「もう、お前を飼えなくなった」と言って、鳥を窓から逃がす場面は象徴的だ。
 男は、外の世界に出ていくのだが、もう老人である。自由になったとはいえ、その身で現実の中で生活するのは辛い。彼は、壁に自分の名前である「ブルックスここにありき」と書いて死んでいった。塀の中で彼の死を知ったかつての囚人の仲間たちは、この中で死なせてあげたかったと呟く。

 この映画は珍しく女性が登場しない。映画の初めに主人公の妻が愛人と戯れている場面が出てくるが、それは事件の証明としてであって、物語に絡むというものではない。
 女性が登場しないと言ったが、ある意味ではこの映画で最も重要な役どころといえるのが、原題にもなっているセックス・シンボルのリタ・ヘイワースである。しかし、登場するのは、ポスターとしてである。
 リタ・ヘイワースは、時とともに、マリリン・モンローに代わり、ラクウェル・ウェルチに代わっていく。
コメント
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