かりそめの旅

うるわしき 春をとどめるすべもなし 思えばかりそめの 旅と知るらむ――雲は流れ、季節は変わる。旅は過ぎゆく人生の一こま。

ヴァイオリンの魅力

2007-11-18 00:50:25 | 歌/音楽

 最近テレビのCMで、おやっと思うものがあった。
 ロックのギタリストが1人出てきて、エレキギターでゆっくりと曲を弾き始める。次第に曲はリズミカルにテンポは速くなり、それに合わせてギタリストの数が多くなって(数十人になり)曲は終わる。曲は、「チゴイネルワイゼン」である。
 「チゴイネルワイゼン」といえば、有名なヴァイオリニストでもあったサラサーテが作曲したヴァイオリンの名曲だ。
 ギターで弾くとこんな具合になるのだと思った。
 ヴァイオリンの曲をギターで挑戦したというアイディアとチャレンジ精神は買うものの、「チゴイネルワイゼン」はヴァイオリンの持つ技巧を最大限に取り入れた超難関曲だ。このギター演奏では、この曲の持つ超絶技巧の部分は飛ばしてあるのだから、ちょっぴり拍子抜けである。
 
 このギターによる「チゴイネルワイゼン」によって、改めてヴァイオリンの奥深さを知った。

 *

 11月16日、夜、多摩センターの隣の駅にある南大沢文化会館で、第11回「アラベスク・コンサート」が行われた。
 多摩に住む大久保康明教授(フランス文学)が声楽家として出演するので、出向いた。
 大久保教授の声楽をはじめ、ピアノやフルート、ギター演奏など、ヴァラエティ豊かな演奏会である。
 「人間の声の発達は、進化による口腔の拡大によるそうですが、それを芸術にまで高めるのは大変なこと。けれどこれを通して、芸も学もたどる道は同じ。考え、試み、発見し、納得し、高みへと歩を進める過程です」と、教授の意気込みがプログラムにある。
 また、今回の演奏会は、先に頂いた案内状を見て驚いた。賛助出演、栗山安奈(ヴァイオリン)とある。
 栗山さんも多摩の隣の八王子に住んでいる人で、4年近く前に彼女の演奏を聴いたことがあり、偶然にも知り合いになった人だった。その後、彼女はイギリスに行って、帰国しているとは知っていたが、連絡も取り合わないままでいた。
 それ以来の彼女の演奏会だ。

 演奏会は、ショパンのピアノによる「子守歌」という静かなスタートで始まった。
 二人目に、大久保教授が出演した。トスティのナポリの曲、「アレキアーレ」である。ピアノは、ホームコンサートで演奏された今野恵子さん。ナポリの歌は、明るく楽しい。この曲は、教授にぴったりだ。
 その後、ギターやフルートなど、ヴァラエティに富んだ演奏が続いた。
 前半部の最後は、大久保教授のテノールと柳田るりこさんのソプラノによる、プッチーニの「トスカ」より「おお、優しい手よ」。手を取り合っての、微笑ましい歌声が会場に響く。
 休憩のあと、大久保教授の3回目の歌があった。グノーの「ロメオとジュリエット」より「恋よ、恋よ」である。
 今夜の教授は声の調子を崩したとのことだったが、それにもかかわらず、さすがと思わせる歌心があった。

 教授の後、栗山安奈さんのヴァイオリン演奏が行われた。彼女は、英国王立音楽院に留学、同大学院を卒業した実力者である。
 曲は、サラサーテの「カルメン幻想曲」。
 これは、ビゼーの歌劇「カルメン」を元にした曲で、「ツゴイネルワイゼン」と並ぶサラサーテの代表曲である。
 栗山さんの演奏は、曲の持つ超絶技巧を駆使し、流麗ながらも力強く、みんな息を呑んで聴くしかなかった。「ツゴイネルワイゼン」とはまた違った魅力いっぱいの曲だ。
 指先と弦の互いに踊るようなたゆまぬ行き来を、僕は目を見張って見つめた。そして、終わったあとは、溜息をついた。
 
 ヴァイオリンの魅力を、さらに強く思い知った夜となった。
コメント
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