西岸良平原作 山崎貴監督 吉岡秀隆 小雪 堤真一 薬師丸ひろ子 堀北真希 須賀健太 小日向文世 2007年
昭和34(1959)年といえば、どんな時代だっただろう。
前年に、東京タワーが完成し、1万円札が発行されたばかりの年だ。テレビでは、プロレスの力道山が活躍し、若者の音楽では平尾昌章、山下敬二郎、ミッキー・カーチスを頂点とするロカビリー・ブームだった。映画では、石原裕次郎、小林旭、赤木圭一郎の日活ダイヤモンド・ラインが並んだ。
4月の春の盛りには、皇太子(現天皇)と正田美智子(現皇后)様の結婚パレードが全国を賑わし、これを機にテレビが家庭に普及した。初めての少年マンガ週刊誌「少年サンデー」と「少年マガジン」が創刊され、マンガ読者の大人化への端緒となった。
日本は、高度経済成長の始まりだった。まだ貧しかったが、夢だけは広がっていた。
この昭和34年、東京のある下町の3丁目では、淳之介(須賀健太)を引き取った茶川(吉岡秀隆)は、ほそぼそと店を開きながら小説を書いていた。黙って去っていった小料理屋の女ヒロミ(小雪)を思い続けながら、三人で暮らせることを茶川と淳之介の二人は夢みていた。
そこへ、金持ちの淳之介の実父(小日向文世)が淳之介を引き取りにやってくる。もう少し待ってくれ、もう一度チャンスをくれと言って、茶川は芥川賞を狙って、小説を書く。鈴木オートの一家をはじめ、三丁目の住民はこぞって応援する。そして、最終候補に残り、受賞間違いなしのところまでいき、あとは発表の日を待つのみとなる。
芥川賞候補作になった、茶川が渾身をふりしぼって書いた小説は「踊り子」。
それは、前作「ALLWAYS」で展開された、ヒロミとの愛情物語だった。ヒロミに贈った中身のない指輪の箱、そっと見えない指輪をヒロミの指にはめてあげる茶川。借金に追われて、いつしか店をたたみ踊り子になったヒロミ。
茶川の愛情を感じながらも、自分の境遇に負い目を抱いていたヒロミは、素直に茶川のところには行けないでいた。そして、踊り子を辞めて、大阪の金持ちの男のところに行こうと列車「こだま」に乗ったヒロミは、車中茶川の書いた小説が載っている本を開く。
結局、茶川の芥川賞受賞は、3丁目のみんなの期待も虚しく、落選に終わる。
ヒロミもいなくなり、淳之介も実父のところは戻さなければいけない状況になって、何もかもなくなったと思った茶川のところへ、大阪へ行ったはずのヒロミが突然姿を現わす。
本を抱いていたヒロミは、「こんな本読んじゃったら、どこへも行けないじゃない」と茶川に言う。
「僕は…浮かび上がれるかどうか、もしかしたら一生甲斐性なしだぞ。それでも僕は、男として、君たちを…」と茶川は、ヒロミを抱きながら泣き声で叫ぶ。
「金で買えないものがある」と、淳之介の実父は黙ってそこを去る。
夢が広がっていた時代の物語である。いや、夢を追うことができた時代なのである。
小説家になることも、大臣になることも、科学者になることも、夢はどんなふうにも広がっていた。人も街も、大きく変わろうとしていた。
昭和30年代、それは時代そのものが少年から青年になろうとしていた時代であった。青春は、もうすぐそこへ来ていた。
当時の東京駅や羽田空港、日本橋がVFXで再現される。新幹線以前の「東京-神戸」と書かれた特急「こだま」が登場するのも興味深い。
貧しくも小説家を目指す男の役の吉岡秀隆が、素朴でいい味を出している。堀北真希の東北弁もアンバランスで可愛い。また、単に人情話に終わりそうなのを、鈴木オート家を中心に繰り広げられる子役3人が、物語に厚みを加えている。
*前作「ALWAYS 三丁目の夕日」
http://blog.goo.ne.jp/ocadeau3/e/1935a2047d6d98f4c2cbcb9dbd60c746
昭和34(1959)年といえば、どんな時代だっただろう。
前年に、東京タワーが完成し、1万円札が発行されたばかりの年だ。テレビでは、プロレスの力道山が活躍し、若者の音楽では平尾昌章、山下敬二郎、ミッキー・カーチスを頂点とするロカビリー・ブームだった。映画では、石原裕次郎、小林旭、赤木圭一郎の日活ダイヤモンド・ラインが並んだ。
4月の春の盛りには、皇太子(現天皇)と正田美智子(現皇后)様の結婚パレードが全国を賑わし、これを機にテレビが家庭に普及した。初めての少年マンガ週刊誌「少年サンデー」と「少年マガジン」が創刊され、マンガ読者の大人化への端緒となった。
日本は、高度経済成長の始まりだった。まだ貧しかったが、夢だけは広がっていた。
この昭和34年、東京のある下町の3丁目では、淳之介(須賀健太)を引き取った茶川(吉岡秀隆)は、ほそぼそと店を開きながら小説を書いていた。黙って去っていった小料理屋の女ヒロミ(小雪)を思い続けながら、三人で暮らせることを茶川と淳之介の二人は夢みていた。
そこへ、金持ちの淳之介の実父(小日向文世)が淳之介を引き取りにやってくる。もう少し待ってくれ、もう一度チャンスをくれと言って、茶川は芥川賞を狙って、小説を書く。鈴木オートの一家をはじめ、三丁目の住民はこぞって応援する。そして、最終候補に残り、受賞間違いなしのところまでいき、あとは発表の日を待つのみとなる。
芥川賞候補作になった、茶川が渾身をふりしぼって書いた小説は「踊り子」。
それは、前作「ALLWAYS」で展開された、ヒロミとの愛情物語だった。ヒロミに贈った中身のない指輪の箱、そっと見えない指輪をヒロミの指にはめてあげる茶川。借金に追われて、いつしか店をたたみ踊り子になったヒロミ。
茶川の愛情を感じながらも、自分の境遇に負い目を抱いていたヒロミは、素直に茶川のところには行けないでいた。そして、踊り子を辞めて、大阪の金持ちの男のところに行こうと列車「こだま」に乗ったヒロミは、車中茶川の書いた小説が載っている本を開く。
結局、茶川の芥川賞受賞は、3丁目のみんなの期待も虚しく、落選に終わる。
ヒロミもいなくなり、淳之介も実父のところは戻さなければいけない状況になって、何もかもなくなったと思った茶川のところへ、大阪へ行ったはずのヒロミが突然姿を現わす。
本を抱いていたヒロミは、「こんな本読んじゃったら、どこへも行けないじゃない」と茶川に言う。
「僕は…浮かび上がれるかどうか、もしかしたら一生甲斐性なしだぞ。それでも僕は、男として、君たちを…」と茶川は、ヒロミを抱きながら泣き声で叫ぶ。
「金で買えないものがある」と、淳之介の実父は黙ってそこを去る。
夢が広がっていた時代の物語である。いや、夢を追うことができた時代なのである。
小説家になることも、大臣になることも、科学者になることも、夢はどんなふうにも広がっていた。人も街も、大きく変わろうとしていた。
昭和30年代、それは時代そのものが少年から青年になろうとしていた時代であった。青春は、もうすぐそこへ来ていた。
当時の東京駅や羽田空港、日本橋がVFXで再現される。新幹線以前の「東京-神戸」と書かれた特急「こだま」が登場するのも興味深い。
貧しくも小説家を目指す男の役の吉岡秀隆が、素朴でいい味を出している。堀北真希の東北弁もアンバランスで可愛い。また、単に人情話に終わりそうなのを、鈴木オート家を中心に繰り広げられる子役3人が、物語に厚みを加えている。
*前作「ALWAYS 三丁目の夕日」
http://blog.goo.ne.jp/ocadeau3/e/1935a2047d6d98f4c2cbcb9dbd60c746