Fish On The Boat

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『21世紀の自由論』

2015-07-09 19:45:41 | 読書。
読書。
『21世紀の自由論』 佐々木俊尚
を読んだ。

佐々木さんの『当事者の時代』や『レイヤー化する世界』などなどの
ご著書の内容もとりいれて語られる集大成的なかたちにも読める、
世界の未来像とぼくらのあり方を問う本になっています。

今後、従来の国家ってものが解かれていく世界になって、
世界企業がもっと力を持ってパワーバランスが変わっていき、
それにともなって国家も形を変えざるを得ないっていう見通しがいまや主流のようです。
IT革命による境界のない世界が進んでいくとそうならざるを得ない、みたいな。

日本人としては、言語の境界が残ることを強く考えちゃうのですが、
そこもテクノロジーが超えてくれるのか、
はたまたやはりもっと英語学習を奨励していく方向に行くのか。
後者のような気がするなあ、ぼくは英会話できひん。

本書では、
卓越した現状把握から論理的に見通された未来像を提示し、
日本のリベラルや保守の患部を徹底的に浮き彫りにして、
凄腕整体師のようにパキパキボキボキと本の中でではありますが、治していく。
そして、歴史についての情報の量・質ともに濃く勉強しておられる。
だからこそ、軽い表層をなぞるだけのようだったり誤認識している発言があったりすると、
流されずにそれは間違いだと気づくこともできているんだと思う。
海外の古今についても明るいし情報・論理からの論説としてはやはり最高の部類。

ただ、それでも、事実は小説よりも奇なりじゃないけれど、
現実って予期せぬほうへ良くも悪くも展開していったりする。
『21世紀の自由論』では、ディストピア的なものを視点を変えて眺めれば
ディストピアじゃないんじゃないかというような言説もあった。
そういうところはきっとイノベーションでひっくり返るんだと思う。
なにか大きなイノベーションがあると、
昨今言われているプラットフォーム型の世界支配未来だとかというものは手ごわいとしたって、
なんらかの今の予想との方向の違いは出てきそうに感じるのだけど、
これは適当なイメージ論すぎるかな?

終盤の30ページでは、未来の世界の政治哲学、共同体について
ぐいと足を踏み込み、ちょっと抽象的な部分もありながら、
未踏の地に灯りをともすような仕事をされていました。

また、反体制の立位置だけでものを言っている文化人たちという批判も本書にあった。
これについては、そういう文化人たちの歴史認識の浅さから来ているように読み受けたんだけれど、
平和の護持という思想が硬直しちゃった(そこで思考停止した)からなんじゃないかと思った。
自分も含めて、そういうのってあるよなあ、と。

佐々木さんの以前の著作を読んでいない方にはちょっと難しかったり、
箇所によっては突拍子もない印象をうけるところもあるかもしれないですが、
いろいろと読んできた僕が保証するには、
そういった箇所も十分に練られた上での言い分だということです。
紙幅か時間の関係かで削られたような部分もあるんじゃないかと思いました。
それでも、じゅうぶんに読ませる本です。
はじめて佐々木さんの知見にふれる方は、びっくりすると思いますよ。


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