Fish On The Boat

書評中心のブログです。記事、それはまるで、釣り上げた魚たち ------Fish On The Boat。

『骨風』

2016-11-20 22:57:57 | 読書。
読書。
『骨風』 篠原勝之
を読んだ。

鉄のゲージツ家・クマさんこと、
篠原勝之さんの自伝的小説です。

17歳で、育った北海道は室蘭の家を出て上京し、
人生の苦みをたくさん味わってもきたクマさんの、
ふんどし一丁の自分をあらわしたようでもある、
連作短編の私小説でした。

重厚長大でも軽薄短小でもなく、
ぎゅっとエネルギーを秘めた、
質感のある物質を感じさせるようでもある。
そして、それこそ、鉄の芸術作品の、
赤錆に感じさせられる渋みみたいなものと、
人生の錆からでる苦味みたいなものとが、
ミックスされているような文章と内容だと
感じました。

全部で八篇なのだけれど、
最初のお話からしてじんわりとおもしろく、
最後のお話を読み終えると、
一冊の本として成仏するかのように、
この本の持つスピリットのようなものが立ちのぼる感覚に、
肌で、そして心の目で触れることになるでしょう。

逃げ続ける人生だったとしても、
その足取りは自分のものなのだとしっかり自覚して
前を向いているならば、
ひとに伝わるような「生」の質感というものは失われず、
書きだす文章にも根付くものなのかもしれない。
等身大の姿勢で書かれた、
そんな私小説だと思いました。
素晴らしかったです。

著者 : 篠原勝之
文藝春秋
発売日 : 2015-07-08
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