雲南、見たり聞いたり感じたり

雲南が中心だった記事から、世界放浪へと拡大中

雲南の特色料理・過橋米線8

2008-11-30 14:47:04 | Weblog
写真は黒竜江省のチチハル市にある過橋米線チェーン店にて。

【大理説】
 近年では上海、北京、天津や内蒙古、大連の路地裏から大型デパートの飲食店売り場にいたるまで「過橋米線」店をみかけるようになりました。2005年2月に、雲南で繁盛している「橋香園」過橋米線チェーン店が北京へと進出したときには、雲南の新聞各社「雲南からはばたく」として、盛んに取り上げられたものです。

 しかし、北京の中心街「王府井」はじめ、首都数カ所にチェーン店を構える「橋香園」はともかくとして、私が出会った雲南以外の場所の過橋米線はたいてい、本来の形とはほど遠く、薄切りの生ものをズバリ客の前に出すという勇気ある店ではありませんでした。

 一般的に中国の人には生ものを食べる習慣はないので、伝統のない地域では当然といえば当然ですが、あらかじめ具材すべてを入れて煮込まれたスープ椀に、ミーシエン(米線)だけが別盛りで用意され、客がミーシエンだけ投入できる店もあれば、すでに煮込みうどんの状態で出てくる店もありました。
 
【中国の最北部で見かけた過橋米線】
 中国の最北部・黒竜江省のチチハルで見かけたのは、「雲之南、過橋米線」という看板を掲げた煮込みうどん系。店内には過橋米線の由来が張られており、その内容はほぼ、建水説を踏襲していました。

けれども場所は昆明より北、建水よりはるかに観光地としても名高い「大理」で、勉学に励んだ夫は科挙で第一位となる「状元」になったと、話はさらに大ぶろしきに。もちろん、煮込みうどん系の由来なわけですから、鳥ベースのスープにミーシエンを入れた後、上に油を載せる、と内容は当然ながら変化しています。

 さらに悲しいことに、他地域だと、たいていご近所の店(小麦の麺のうどんやチャーハンの店など)に比べて、お世辞にも繁盛していない。味は、本場のミーシエンだとしても、味付けの濃い他地域の食に慣れてしまった人々には、淡泊すぎてパンチがないようなのです。

 北京では、客のテーブルに常設された唐辛子入れから、自分の椀に山盛りに入れる人多数。雲南ではささやかに味付けされるはずの唐辛子を、味のメインに据えようとしている努力は、すさまじい・・。

 昆明でも近年、冬の鍋料理店が人気で、なかでも唐辛子で真っ赤になったスープが出され人気がありますが(そのため、冬は昆明市内の病院の胃腸科、肛門科が大はやりとなる。鍋の唐辛子にやられる、とのこと。「春城晩報」より)、これは四川からくる労働者向けがルーツで、昆明本来の味ではないようです。

 聞き書きの本を読むと、「1920年代の昆明は、舗装道路もなく、道がぬかるんでいたが、料理は淡泊で、唐辛子料理はほとんどなかった」という老婆の話がありました。
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雲南の特色料理・過橋米線7

2008-11-24 21:28:26 | Weblog
写真は昆明にある「新世界」店の「窖頭」。過橋米線の標準セットを頼むと付いてくる。円錐の底面の直径は5センチほどのかわいらしい形。「あなぐら」という名の通り、円錐をひっくり返すと、窪んでいて、料理の熱を通しやすいようになっている。もともとは中国北方の農村で常食されていた。

【黄色い鶏がら油にはご注意を】
 まゆつばものもあるとはいえ、これらの説に共通しているのは、スープの上層には、具材に火を通すためと、温かさを保つために、分厚く鶏由来の油が層になって浮かんでいること。『新編昆明風物志』(雲南人民出版社、2001年)によると、この油の層があるだけでスープの温度は170度以上に保たれるというから驚きです。

 夫が1982年に初めて昆明で過橋米線を食べたときは、確かにたっぷりと黄色い油が浮いていたそうです。ただ、あまりのおいしさにスープまで一気に飲み干してしまい、翌日、油にあたって腹を下して、さんざんな目にあったとか。

 以来、「こわくて」手を出さなかったそうなのですが、最近、私のススメもあり、忌まわしい記憶を振り切って、久しぶりに注文したところ、あまり油が浮いていないのにびっくりしていました。雲南でもヘルシー志向が高まりにともなって、スープの油の量が変化したのかもしれません。

【もっとも脂っこくない過橋米線店は?】
 私が一番、好きな過橋米線店は、ちょっと高いけれど、薄味ながら塩胡椒が絶妙で、油っこくない昆明市街北西にある昆明動物園(園通山)横にある「新世界美食娯楽市場」の過橋米線です。お茶を頼むにも有料(しかも薄く何度も出した後の緑茶)という、昆明ではあまりみかけないタイプの店ですが、スープを飲んでも、胃にやさしく、それどころか身体がポカポカあたたまって、脂っこくないところが、じつに日本人好みなのです。もちろん地元の人で、いつでも混雑している名店の一つです。

 風邪を引いて寝込んだとき、あの店の過橋米線がほしくなり、とうとう薬を買うよりはとタクシーを飛ばして食べに行ってしまったこともあるほど好みです。

 また、西太后が田舎へ疎開したときに好んで食べて以来、宮廷料理にも加えられたという、トウモロコシの粉を練って蒸し上げた「窖頭(ウオトウ)」という小型のまんじゅうも店の名物の一つで、その自然な甘みがまた、うれしい。

 1階は過橋米線中心の庶民向け(おばあちゃんが連れだって、また孫と一緒に、とほのぼのとした光景が見られます。)、2階は雲南の伝統高級料理も出すフロアとなっています。その上の階には謎の「伊豆温泉」のフロア・・。
 2階にはステージがあり、そこで少数民族の歌と舞踊を昼と夜に大勢の芸人さんによって演じられるサービス付き。好きな人にはよいでしょう。ただし芸については芸人さんの腕前はなかなかだとしても(2時頃行くと、客のいないフロアで熱心に練習していました)、音量が大きくて、マイクの音が割れており、また踊りが本当にどこまで‘伝統的’なのかとつい疑問を持ちたくなる微妙さがあります。

 ほかに、昆明市内には、吉鑫園、建新園、橋香園、仁和園など過橋米線のチェーン店や独立店があり、いずれも大変、人気があります。

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雲南の特産料理・過橋米線6

2008-11-15 10:01:14 | Weblog
写真は文山のお隣、広南の市場でミーシエンを食べる人々。早朝の一仕事を終えた人やこれから一日が始まる人が次々とミーシエンを食べていく。10月半ばのためか、半袖から長袖の重ね着までさまざまな服装が入り乱れていた。

【階級闘争説】
もう一つが「階級闘争説」と呼ばれるもの。これはいささか漫画チックなお話です。

 とある汚職官吏が雲南のとある地に赴任してきました。さっそくムチャなおふれを出して、カネ集めをはじめます。

「まちの厨師すべてに告ぐ。一日で奇特な食品を作り出せ。その食べ物は生のまま長い橋を渡り、火を一切使わず、橋を渡るとたちまち煮込まれて食べることができる、とのいうものだ。もし、作り出せないならば、今後10倍の税を払うべし。」

 おふれを見た一流の腕前を持つイ族の厨師ガーさんは、この畜生官吏を懲らしめようと、おふれを剥ぎ取り、挑戦を受けることを承諾したのでした。

 翌朝、太陽がようやく湖面からその弓なりの一隅を出したころ、ガーさんの長い一日が始まりました。とにかく忙しく活動を始めたものの、寒い冬の日で寒風が音を立ててなり、魚を捕ることも難しい日。ミーシエンをどうやって煮込むかの見当すらつかない状態でした。

 昼になり、どうにもよい考えが浮かばない苦しい時、早暁に奥さんが差し入れた鳥のスープを食べていなかったことに気づいたガーさん。どうせ冷めているだろうと思いながら手にとると、なんとお椀はまだ、温かい。驚いて子細に観察すると、スープの表面には黄色い油が浮いていました。そこで閃いて、さっそく肥えた鶏肉のスープをつくり、超絶の技で生魚と生肉を紙のように薄切りにし、他の材料も細切りに仕立てたのでした。

 一椀に冷たい生魚と生肉と生ミーシエンをのせ、別の椀に黄色い油の浮いた鳥スープを用意し、ゆっくりと長い橋を渡り、くだんの官吏の前に置きました。
スープ椀に生魚や生肉、ミーシエンを入れると瞬時に煮込まれ、なお、スープは熱々の湯気を放っていました。

 人々は一口、食べると、その繊細にして鮮やかな味わいの虜となり、汚職官吏は驚いて目をぱちくり、口はあんぐり、となって、厨師の一本勝ちとなりました。
(『中国食品報』1984年7月27日)
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雲南の特産料理・過橋米線5

2008-11-07 22:39:45 | Weblog
写真は文山の「テュン肉米線」。朝食時には街の角角に、このミーシエンを出す店がやわらかい湯気を上げている。

これまで過橋米線初めて物語りの決定版である蒙自説、家譜に記され、歴史的にも追うことのできる建水説とご紹介してきましたが、あまり有力ではない説もありますので、触れておきます。これらは眉につばをつけてお読みください。

【文山説】
文山は建水より東に100キロほどのところにある古都で、雲南の南東部にあります。チュアン族やイ族が栄えた地域で、省都・昆明から見ると雲南省の南、つまり「デン南」の中心地として建水と並び称されるところでもあります。古来、青銅でできた「銅鼓」と呼ばれる3歳の子供ならすっぽりとおさまりそうな銅でできた独特の太鼓が出土する地域としても有名です。

そこの名物「テュン肉米線」(湯面に肉の浮いたミーシエン)を基礎に発展したという説が、文化大革命の影響から解き放たれ自由な言論がはじまったばかりの1980年代初めに「デン報」という雲南省発行の地方紙に掲載されました。

実際、私が訪れたときも文山ではミーシエンはよく食べられていましたが、文山の料理は全体に味付けが濃く、なかでも「テュン肉米線」はがっしりとした味付けで私の舌をなかなか寄せ付けませんでした。

醤油や酒、唐辛子とラードでくどいまでに濃く味付けされたキューブ状の血抜きも中途半端な豚肉を味の骨格として少しの刻み野菜の入ったあっさりスープに載せたミーシエン。

地元の人々はふうふう言いながら、あっという間に1椀を食べ干していましたし、昆明でも身体を使って働く人には安くておなかにたまると人気のメニューでした。でも、文山がミーシエン料理はデン南各地でつくられているので、ここが発祥、とする根拠が、かなり薄いと思われます。

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雲南の特産料理・過橋米線4

2008-11-03 15:38:11 | Weblog
写真は、昆明でよく見かける犬。近年は中型犬も増えていたが、3年前は小型犬を室内で飼うのが一般的だった。花鳥市場に行くと、犬猫用の首輪から洋服まで、ペット関連のグッズがずらり。2008年10月25日付け朝日新聞では、雲南弥勒県(昆明よりバスで30分の距離)で狂犬病が相次いだため、飼われている犬猫、1万1000匹以上を殺処分した、とのことである。かわいがりぶりを知っているだけに、胸の痛む記事である。ただし、我が家では狂犬病が当時からはやっていたため、けっして動物には近づかないように気を配ってはいた。
(以下の本文とは関係ない写真ですが、時事ネタなので載せました。)


【正統派のポイント】
さて現在、雲南の過橋米線専門店を食べ歩くと、生の薄切り肉以外に、唐揚げの薄切り肉をトッピングする店もときおり、見かけます。それらの店の看板で共通するのが「正宗・蒙自過橋米線」の文字でした。しかし、正統派の根拠が、まさか、あの、生肉や野菜よりも存在感の薄い、さりげなく置かれた「パリパリ唐揚げ」にあるとは、昆明で一年間、食べ続けていた当時は、思い至りませんでした。

振り返ってみると、醤油と酒でしっとりと味付けされたパリパリ唐揚げはさっぱりとしたミーシエンにアクセントを添え、なかなかの名コンビ。それが生肉を取り入れるよりも先に決まっていたと、はからずも蒙自説は語っているのです。

このように伝承に派手さがなく、唐揚げのなじみ具合が尋常ではない点からも建水説には元祖の風格が漂っているように、私には感じられるのです。

さらに2007年に蒙自県(人民政府県)長の陳強氏が家譜を所蔵する劉世清から聞いた話では、李景椿が店に来るときには、必ず豚の背肉を持参し、薄切りにするように毎回、指示したと、伝えられていたそうです。そのような、細やかな話まで口伝えされている点が、ますます実話めいています。

【山西省で善政した李景椿】
民国9(1920)年発行の「建水県地方志」をひもとくと、李景椿が実在したことがわかり、さらに驚きました。道光乙未の年に県でただ一人進士に合格し、その後、山西省宝徳州に赴任して、きちんとした政治をした、と評価される人物です。また同じ本の山川の項には、山、河、泉、井戸に続いて橋の説明があり、そこに我流のミーシエンを食べるために渡ったと本人が語っていた「鎖龍橋」が記されていました。

ただし、その橋は(建水)城より北に90里、つまり約45キロ地点の東山にあるとのこと。この距離では毎日、建水城内の店に通うには無理があるのですが。
 ただ、山西省は餃子の具も羊肉で作るほどの羊の産地。「羊のしゃぶしゃぶ」の本場でもあります。生肉を熱々のスープにくぐらせるアイディアを閃かせるには、李景椿が赴任した場所は格好の地だったといえるでしょう。

進士ともなったものが、召使のつくる朝食ではなく、外でふらりと買い食いするというのも不思議な気はしますが、聞き取り調査をした陳氏は、これこそ真実の話では、と推測しています。

おそらく街の名士に仮託された話なのでしょうが、だとしても過橋米線のルーツが、地元の食習慣から自然に生まれたものではなく、また近くにある南方の刺身文化からでもなく、はるかに遠い北方のしゃぶしゃぶ文化からもたらされたと、蒙自説がひそかに主張しているのも興味深いところです。 (つづく)


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