雲南、見たり聞いたり感じたり

雲南が中心だった記事から、世界放浪へと拡大中

閑話休題・不思議な招聘状

2010-04-25 21:25:18 | Weblog
 新宿の工学院大学内「孔子学院」で「中国雲南省の魅力Ⅱ」という講座が開かれています。そこで私も5月12日(水)に話をすることになりました。

 4月28日(水)に話される古島琴子さんは、日本で一番きちんとした、わかりやすい雲南タイ族の歴史や伝承の本を出しておられます。(『攀枝花の咲くところ 雲南タイ族の世界』創土社、2001年。東京外国語大学の先生も絶賛の本です)私も雲南に行く前に熟読しました。

 驚いたのが受講料。一般一回2000円(学生500円)なのです。私の回の参加者は私が補填しようかとも考えましたが、それも厳しいので、来られた方には後ほど、米線料理を食べに行く、ということにしようかと思案中です。

 さらに驚いたのが、孔子学院からきた招聘状の文言。「講座設定後、申込者が少ない場合は直前に取り消すこともあります。その場合の講師料は発生しません。」の一言。ええー! 準備しても無駄な可能性もあるってこと? これって普通のシステムなのでしょうか?

 さて、「孔子学院」とは、2004年に中国政府の肝いりで始められた世界の人に中国文化を理解してもらおう、というプロジェクトの一環だそう。中国政府が運営費の20~30%のお金を出しているそうです。(ウィキペディアより)
 現状では、世界88カ国に554校が設立されている実際的な中国語学校なのですが、名前の「孔子」が宗教っぽいことから、東南アジアのイスラム教圏では「外来の宗教組織」と見なして、猛烈な反発を受けたこともあります(読売新聞2010年2月18日)。

 日本ではそういうこともなく、もちろん、今回も政治的なことは関係なく、ただ私の文章や話をごらんになったという一講師の方から、推薦したいとのメールをいただき、私もちょびっと参加することになりました。ありがたいことです。

 しかし、このシステムなら、アインシュタインのように、だれもいない教室で一人、黒板にブツブツ、ということは、避けられますね・・。

4月28日(水)「住み分けと共生-雲南省紅河州金平県の事例から-」(2) 講師:古島 琴子
5月12日(水)「米線」 私(今回は、米線に関する文献を網羅し、            なぜ過橋米線が雲南で発達したかに迫りま            す!)
5月26日(水)「発酵食品-保存食から寿司へ-」講師:小松 碧
6月9日(水)「大理ペー(白)族 -本主信仰・観音信仰とその祭りを中心に-」 講師:古島 琴子
6月23日(水)「民国時代の雲南」 講師:小松 碧

全6回(1回ごとの受講可能。/すでに1回目は4月14日に行われました。)
時間 14:00~15:30
場所 工学院大学 新宿キャンパス 中層棟4階

問い合わせ・申し込み:工学院大学孔子学院
〒163-8677 東京都新宿区西新宿1丁目24番2号 
電話:03-3340-0158  FAX:03-3340-0978
*来週は、更新をお休みさせていただくかもしれません。よいゴールデンウイークをお過ごしください。
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雲南の豆腐⑤

2010-04-18 21:11:27 | Weblog
写真は連日、通った豆腐屋さん。手前のビニール袋は私用の豆乳。まさに手渡される瞬間です。

【毛豆腐】
 文明開化以後、日本の大部分の地域で豆腐の味が移り変わる中、変わらぬ製法で作り続けられる雲南の豆腐のなかで、奇妙なものを取り上げてみよう。

 雲南では4・5月頃、乾期から雨期へと向かう。
(今年は歴史的な猛烈な日照りが続いて、雨期がこれほど待たれている年はないようです。)
 その一瞬の乾燥した薄暖かい日限定の2週間だけ、市場に並べられる豆腐がある。「毛豆腐」だ。達筆な毛筆で「建水直送」などとペラペラの紙に墨書きされ、いやでも目に留まる。

 和菓子製造の店にあるような薄っぺたい木箱で、箱の底は通気性のよい竹編みになっている。その竹編みの上に太さ1センチ、長さ5センチほどに切り分けられた豆腐が1センチほどの感覚で行儀良く並んでいる。驚くのは、その名の通り‘毛’だらけなこと。ふんわりとした白い毛(和名「毛カビ,mucor」)を隙間無く身にまとった姿は、どう見ても食べ物、というより「毛虫」だ。

 期間限定なのは、伝統的な製法では、最適生育温度15度で、乾燥して雑菌が付かない時期にしか作ることができないため。それが雲南の中部では、春の乾期の名残のこの時期なのだ。もちろん、設備を整えて、最適温度と湿度を保てば、作ることができるはずだが、市場で売られる毛豆腐は、昔ながらの製法なのだろう。

 さすがの様子に、自分の口に入れる勇気が出ないまま、季節は終わってしまったので、食する機会を逸してしまった。

 地元の人はこの豆腐を使ってそのまま炒めたり、煮たり、さらに塩分で味付けを施して発酵させる、ということだ。

【おまけ】
 ちなみに毛豆腐の写真は何度も撮ったのですが、撮るたびに、信じがたい理由でフィルムがオシャカになってしまい、手元にはありません。残念です(以下は信じがたい理由のうちわけです。お暇な方はどうぞ。)

1 市場脇に見慣れた緑色の「Fujicolor」の看板があった。色の浅黒いおじさんと、太ったおばさんが、うっすら埃をかぶったガラスケースの上で、いつも頬杖をついて座っていた。そこで昆明で撮った写真の現像を頼んだら、3日後、すべてが透明になってしまったフィルムを渡され、手で追い払われた。血の気が引いた。

2 今度は、街中の一等地の写真館で、中国で買ったスライドフィルムの現像を頼んだ。スライドだよ、と何度も念を押した。ところが、やはり何の手違いか、現像は失敗。写真館でへたり込む。頑張って怒ってみる。迫力負け。

3 以後、日本から来た賓客に現像のフィルムを渡し、日本で現像してくれるように頼む。これはうまくいったが、そのころには天然の毛豆腐の季節は終わっていた・・。
 その半年が経った頃、ようやく日本並みに技術を持つ現像スタジオを見つけ、バスを乗り継いで現像をお願いするようになった。また、デジカメも使うようになり、どちらかの画像が残るようにはなった。(ああ、思い出しても涙がにじむ。初期のメイ作写真は永遠に彼方へと逝ってしまったのでした。)

参考文献:中国食物事典 洪光住監修、田中静一編著、柴田書店、437p

*いつもお読みくださりありがとうございます。読者の方から「山口の豆腐は本当においしいのですか? 実際に食べたのですか?」との質問をいただきました。私がおいしいと思ったのは、ざっくりいうと、中国山地の山間で作られる豆腐です。岡山、広島、山口の小さな豆腐屋のもの。営業で全国各地を渡り歩いた男性が開いた蕎麦屋や、なんとか客足を取り戻そうとがんばる寿司屋の主人が副菜を求めて探した豆腐、などで出会いました。そういえば、漫画『美味しんぼ』の初回の豆腐あての豆腐も、そのあたりでしたね。
 よい水と、昔ながらの生搾り製法が生き残っているためでしょう。

*今回もながーい文章にお付き合いいただきまして、ありがとうございます。感謝です。

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雲南の豆腐の横道・本州一の豆腐は?

2010-04-11 14:16:55 | Weblog
写真は雲南名物・過橋米線にかかせない「豆腐皮」。中国風ゆばの細切りである。

【豆腐の横道・生搾り法の豆腐】
しかし、生搾り法のほうがおいしいことが明らかなのに、日本では大半の店がそうでないのはなぜか、というと理由は簡単。歩留まりがよいことと、生の状態で絞ると、おからになったものよりもはるかに力が必要で、面倒くさいからなのだ。

 ちなみに、日本では沖縄の他に以前から生搾り法の店が残るのは九州地方と中国地方だそうだ。(前出の添田孝彦さんの本より)
 偶然にも私が今までも料理屋で、これは、と思う豆腐の産地を料理屋の主人に尋ねた時にも、山口県か岡山県の山間地との答えばかりだった。製法を意識してなくても、舌でちゃんと分かるほど、味が違うのだ。味が丸いのだ。

 なんと戦前より中国文学研究者として京大などで教鞭をとっておられた青木正児のエッセイに「山口県の豆腐の良いのに驚いた」と書かれてあるのを発見した。しかも「山口の豆腐は日本一」と朝日新聞の連載に書くほどに入れ込んでおられる。(彼は相当な豆腐好きで、各地の大学で教鞭をとっては当地の豆腐のうまいところを探して酒のつまみの湯豆腐にしていた。そのため、家中の者が右往左往させられていたようだ。)

 やがて古巣の京都に帰ると今度は「豆腐が悪くて腹が立つ」、と京都中の豆腐を物色して、ようやく川向こうの鞍馬口の豆腐で、ほっと落ち着いた、とエッセイは終わる。ちなみに青木氏も山口の豆腐に出会うまでは、精進料理の発達している京の豆腐が日本一、と思っていたそうだ。そして旨さの理由は、豆と水にある、と結論づけている。(「豆腐腐談」『洛味』1959年)

 どうやら山口の豆腐は戦前から突出しておいしかったらしい。(沖縄の豆腐は遠すぎて、普通は食べられない。)おいしい水と、手間のかかる生絞り法が旨さを引き立てるのだろう。

 そもそもは日本でも、私が中国で味わった生搾り法で豆腐が作られていたのが、明治以降から大量生産の時代になり、関東を中心に現在のつぶした豆のまま煮る製法へと変わっていったという。そんな中、新技術が伝播せずに残った地域に生搾り法の店が残った、というわけだ。

 ともかくも戦前から今まで美味い豆腐の場所が変わらないので、つい、取り上げました。

*横道に逸れました。来週からは本道を行きます。
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雲南の豆腐④

2010-04-04 17:39:20 | Weblog
                  
写真は昆明西側の西山区西園路にある「鉄木真小肥羊香鍋店」(上)とその鍋の具材(下)。昆明でも鍋料理は人気で、その名脇役として豆腐はかかせない。なめらかで、ちょっぴり固めの豆腐が皿に山盛りで出てくる。
 ちなみに「鉄木真」とはテムジン、すなわちチンギス・ハーンのこと。この鍋料理店の特徴は、内モンゴル自治区シリンゴル草原の生後6ヶ月の羊肉を用い、鍋のスープには当帰、クコの実、党参、桂円(竜眼というライチに似た果実の干物)、草果、カルダモンなどの漢方薬ともなる果実を丸ごと、ゴマ油風味スープ、もしくはパイタン(白湯)スープに丸ごとぷかぷか浮かべた贅沢さが特徴。
 店員には、まず、スープを指定し(2種類を指定すると、太極図の形に2分割された鍋が出てくる。最近では日本でも見られるようになりました。)次に肉2皿、豆腐1皿、青菜1皿、椎茸1皿、トマト、臓物・・、などと具材を指定しての注文となる。
 ロールのように丸まっているのが羊肉で、内モンゴルからの冷凍物。
 この店はスープも、味もすばらしい上に、値段がお腹いっぱい食べて3人で1500円弱と格安のため、高級料理店のなかでは、昆明でも2007年より2009年まで常に昆明美食店の上位店として君臨している。オススメ。(同じ内容を東京で食べると一人当たり4000円弱の高級料理となり、手が出ません。)

【中国の豆乳がおいしいわけ】
 おから入りで煮ると、豆のいろいろな成分が溶け出してより、おいしくなるようにも思えるのだが、じつは豆の青臭さや、雑味が混じり、味の純粋さが奪われる。なにより、泡が大量に立ってしまう。そこで、日本では、たいてい消泡剤(グリセリン脂肪酸エステルやカルシウム塩や食用油)を入れて、泡を鎮めてから、ニガリを入れることとなる。

 この消泡剤がくせもので、どうしても味を曇らせる原因となるのだ。日本でもなかには消泡剤を全然、入れない店もあるが、たいていは入れる。

 中国では、「日本では苦手な豆乳がなぜ、これほどおいしいのだろう」と毎日、500ミリリットルをゴクゴク飲んでいたのだが、この工程の違いが味の違いとしてくっきりとあらわれてしまっていたようだ。

 ちなみに、日本でもまったく中国と同じ作り方をしている県が一つだけある。沖縄だ。生絞り法なので、消泡剤は必要ない上、海が不衛生と言われるまでは、海水をニガリとして使っていた。しっかりと重しをかけて水を絞るのも中国と同じ。県内で作られた豆腐は消泡剤不使用率100%だそうだ。(添田孝彦『日本のもめん豆腐』幸書房、2004年。にある全国調査の統計より)。

 この豆腐が沖縄の豆腐チャンプルーなどの特産料理の源といっても過言ではないように、豆腐は中国の庶民料理の源、といっていいのではないだろうか。


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