雲南、見たり聞いたり感じたり

雲南が中心だった記事から、世界放浪へと拡大中

雲南のシルクキャンディ-・絲窩糖(スーウオータン)4

2017-12-22 11:48:55 | Weblog
写真は大理で見かけたお菓子。喜洲破酥粑粑。甘いものとしょっぱいものがあり、そば粉が原料。平たい鉄の皿の下に細かい炭火が置かれており、その上で、よく粉を練った円盤状のものの中にあんを入れた「餅」を丁寧に焼いていた。裏表を丁寧にひっくり返し、両面がかるいきつね色になれば、できあがり。外側がパリッ、なかがふわっとしている。持っている道具は竹製のトングのようなもの。道具を使っているというのに、結局は素手で持ってしまうところも屋台らしい。

これは香ばしい肉まんのようなもの。日本では餅といえば、お米をついたものだが、中国では、米であろうと小麦であろうと、トウモロコシであろうと、穀物をついたり、粉にして水に溶いたりしたものを丸めたものであろうと、すべて「餅」と呼ぶ。さらには雲南では「バーバ」とも呼ぶ。
【時空を超えた菓子】
「窩絲糖」は具体的にどんなお菓子を指しているのでしょう。それを指し示すよい詞が、
同じく『瑶華集』(19-1「摸魚児」)にありました。

詠窩絲糖和其年韻 汪懋麟

問東華、當年膳部,於今食品誰理。餦餭粔籹金盤供,羊棗依稀同嗜。新豐市。空零落、一匙社飯春風底。物猶如此。感頭白廚人,窩兒舊式,味與蔗糖齒。 輕拈出,萬縷冰絲誰記。肯教方法偷製。試看顆顆團成處,想像烏雲髻子。誰相似。似寒具、油酥纏臂黃金荔。閒情佚事。須曝日漿翁,夢春餅媼,一一話來細。

「餦餭粔籹」とは、屈原の『楚辞・招魂』にも出てくるお菓子です。

“粔籹蜜餌,有餦餭些。”
 という箇所があるのです。
ここに後漢の王逸の注があり、

“言以蜜和米麵,熬煎作粔籹。”
 と書かれています。

 訳すと「蜜で米線(米で作った細い麺)を作ることを指す。これを水気がなくなるまで煮詰めたものを粔籹という。」

 つまり、私が雲南でもよく見た「絲窩糖」(スーウオータン)と材料、作り方がそっくりです。見た目も、すぐに思い浮かびます。

 はやる気持ちを抑えて、さらに汪懋麟の詩を見てみると、
「味與蔗糖齒」
(味は蔗糖が、「歯」。年齢の意味では通じないので、歯に付くことでしょうか? )
 とか
「輕拈出,萬縷冰絲」
(軽く、ねじりだすと、たくさんの冷たい糸(シルクのこと、という解釈もあり)を紡ぐ。)と書かれており、より具体的な描写があります。

 これらも、「絲窩糖」(スーウオータン)となんら矛盾しない描写です。

 どうやら、このお菓子は『楚辞』にも出てくる象徴的なお菓子のようです。
 なんと、紀元前3世紀には、存在していたお菓子なの? とは即断せず、まずは冷静に
 次回、この詩の意味をより深く考えてみます。
                              (つづく)


※当ブログのアドレスが来年2月から、
現在のhttpの後に s が加わったhttps://blog.goo.ne.jp/madoka1994になるそうです。現在、両方のアドレスで表示されていますが、来年2月からは上記のアドレスに統一されるそうなので、もし、登録されておられる方は、お手数ですが、ご変更をお願いします。
(私もしなくっちゃ!)

※次回の更新はお休みします。いろいろあった一年ですが皆様、よい年越を!
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雲南のシルクキャンディ-・絲窩糖(スーウオータン)3

2017-12-16 11:27:05 | Weblog
写真は大理の洱海にうかぶ小島・天鏡閣(観音閣)。大理に伝わる伝承「望天夫」に描かれる石騾子がこの島を指し、南詔国の時代に唐と戦った天宝の戦いに大敗し、この島に建物を立てたのがはじまり、と言われている。大きな湖に浮かぶ、島にはどの地域にも落人伝説が流れているようだ。

【宮廷の美女の・・・】
前回の詞の題のすぐ横に付く注の後に続く本編には次のように書かれています。

「裊春燈、赤瑛盤內,絲絲縷縷難理。平生說餅題糕興,慣與羣兒爭嗜。銅駞市。曾趁徧賣餳、小擔簫聲底。何曾見此。總輸與筵前,輕鬆纖軟,弱雪不勝齒。

摩挱罷,髣髴夢華小記。依稀南內遺製。當初赭帕低籠處,分賜龍孫鳳子。今何似。似宋嫂魚羹、又似楊妃荔。天家往事。也不信宮娥,曉寒呵手,搓得恁般細。」

 大意は、春の賑わいのある市場。そこにいつも「餅」とか「糕」などのお菓子があり、子ども達が競って食べている。銅駞の市にいくと、ムシロを敷いて座って売っている老婆がいる。かつては美女だったろうに年には勝てない(中略)。

 南内の名残もまれに残るのみ。かつては紅い帳のなか、籠のなかにいるようなところで「龍孫鳳子」、つまり皇帝の子を宿すこともあったろうに。いま、漁りするばあさん方もまた、楊貴妃のようなこともあったろうに。何事も月日は過ぎ去る。いまでは、彼女らがかつて宮廷に使える女性達だったなど信じられるはずもなく、明け方から寒さでかじかむ手をさすっている。

 つまり、題名のわりには、食べ物の具体的な記述はなく、食べた感想も特にありません。

 ただ、この詞の書かれた明末清初という時代背景から、明の宮廷にいた人々が満州族の清に追われて、南へ南下して行くときに太湖に浮かぶ西山に隠れ住んだようです。日本の平家の落人伝説と同様の事態です。

 つまり「窩絲糖」は明の華やかな文化の名残の象徴として描かれているようです。ということは、宮廷のお菓子ということになります。「窩絲糖」は具体的にどんなお菓子を指しているのでしょう。それを指し示すよい詞を見つけたので、次回、ご紹介しましょう。
                 (つづく)
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雲南のシルクキャンディ-・絲窩糖(スーウオータン)2

2017-12-09 12:05:12 | Weblog
 雲南の大理は日本の平安時代ごろには、大理国(937年~1253年)の中心だった。山に囲まれ、山からは清流が流れ、様々な民族が行き交っていた。ここで絲窩糖をよく見かけた。
 写真は観光地化が進みつつあった大理の中心街を流れる蒼山から下る清流で白菜のような野菜を洗う人。水はたっぷりと流れていて、水道水よりもはるかに洗いやすいようだった。(2005年撮影。)


【清時代の江蘇省あたりの詞に】
 これはどこの地方のお菓子でいつごろからあるのだろう、と調べていると、400年ぐらい前の詞にこのお菓子を発見しました。

「絲窩糖」(スーウオータン)ではなく、「窩絲糖」(ウオースータン)の名前で文字の順序が逆なのですが、同じ酒席で作られた詞にさらに詳しく書かれたものがあるので、それもともに読んでみて同じかどうか考えてみようと思います。

明末清初の頃に多くの人の尊敬を集めた文人、陳維崧(天啓5(1625)[没]康煕21(1682)。

 明の時代に科挙(中国の官僚となるための試験。この試験を突破するために一生を費やす人も当時はたくさんいた。)で状元、つまり成績一位で突破した人です。その後、清の時代となり満州族の支配となった中国で職を辞し、隠遁生活をしていました。

 この人の詞に《咏窩絲糖》という題のものがありました。(『瑶華集・上』中華書局より・巻19-1「摸魚児」)
「窩絲糖を詠う」という意味の題の下に陳自身でつけた注に

「糖出大内遺制,今西山一老中監尚能為之,后恐遂失伝矣。」と書かれています。

 糖から作られた昔ながらのお菓子が今では西山のある地域でのみ残されている。まもなくその伝統が消えてなくなってしまうことを恐れている、というものです。

「遺制」とありますが、これはいったい、どういった由来の伝統的お菓子なのでしょう。
                               (つづく)
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雲南のシルクキャンディ-・絲窩糖(スーウォータン)1

2017-12-02 15:04:03 | Weblog

 大理の街角や昆明で見かけたのが、この写真の食べ物です。

 手のひらサイズの小袋を買って口に含むと、なんとも懐かしい味に包まれます。鼻をくすぐるきなこの香りに、この糸を束ねたような形状からくるシャリシャリとした食感と優しい甘さ。嚼むと、歯の裏にくっつく感じが水飴っぽいような。

 店の人に聞くと「スーウオータン」と表題の食べ物の名前を告げられたのでした。

家 に帰って調べると、予想通り原料は麦芽糖。これに上手に熱を加えてよく練ることで、白濁させ、糸状に引き出したものをクルクルと束ねてできあがり。黄金色に光る絲窩糖もあり、その場合は上にきなこなどをまぶしてあります。

 雲南では一般的ですが、中国のウィキペディアにははっきりと四川銘菓の「窩絲糖」と書かれていて、別名を「繭糖」というお菓子と書かれていました。元の名を「素窩絲」と言ったとも。雲南では四川に近い宣威ハムで有名な宣威付近がつとに有名で、2015年には昭通市の「十大風味小喫」に選ばれています。

 作り方は以下の通り。

1. 大麦を発芽させた麦芽とトウモロコシを臼で細かくしたものを合わせて適度な温度で発酵させる。つまり麦芽の持つアミラーゼがトウモロコシのデンプンを甘い糖に分解させます。
2. これを絞り出し、この糖水をとろ火にかけ煮詰めます。
3. あら熱をとってからきなこを播いた上において、何度も引っ張って、最終的に頭髪ほどに細くする。

 日本にも似たお菓子は昔からあり、アミラーゼに分解させるデンプンとなるものがもち米だったりします。宣威でも、トウモロコシの他に緑豆や落花生を使うこともあります。
 また、白砂糖が容易に手に入る時代のためか、麦芽糖2:白砂糖1の割合で白砂糖を加えるようにもなってきました。この後、麦芽糖と同量のきなこや挽いた落花生を入れてとろ火で煮るのです。

 髪のように細くするまでには3人がかりで引っ張っては折りたたむの動作を15回繰り返すとのこと。糖が固まる前に粘度の高い物体を素早く引っ張り合うわけです。単純な作業ですが、重労働です。
   (つづく)
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