雲南、見たり聞いたり感じたり

雲南が中心だった記事から、世界放浪へと拡大中

雲南のハチミツ⑩

2015-03-28 09:49:19 | Weblog
写真はヒマラヤ山脈系の白馬雪山のとある高地にある桜草群生地。高地のため、紫外線が強いためか、色味が濃い。山々には様々な植物が生えている。日本にもある同種の植物の原産地が雲南、と記されていることが多いが、起伏に富んだ複雑な地形と、地殻変動で盛り上がった特殊な土壌とも関係がありそうだ。


●前回、カリウムが豊富というのは特徴ではない、ほかの作物にも自然界にも豊富に含まれているのだから、というご指摘をいただきました。
たしかにその通りです。話しが途中だったので誤解を招いてしまいました。その先をお聞きください。

【豊富な微量元素】
今日の話はものすごくマニアックなので、よかったら最後の結論だけお読みください。

さて、ヤハシ蜜の成分分析の全体的な詳細は見当たらなかったのですが、納西(ナシ)族や白(ペー)族が薬として用いていたという角度からヤハシ本体の成分分析はありました。ヤハシの植物の地上部部分を採取して粉砕し、分析したもので、蜜そのものではないのですが、参考にはなるでしょう。

2001年6月、雲南省大理州賓川県鶏足山で採取したのものでは、銅、亜鉛、鉄、マンガン、セリンの含有量が非常に高く、具体的には銅が4.83 mg/100g、亜鉛が7.5 mg/100g、鉄9.3 mg/100g、マンガン15.6 mg/100g、セリン0.16 mg/100gが検出されました。体に有害なカドミウムとアルミニウムは未検出でした(1)

このほかに目立つのはカルシウム15.35 mg/100g、ストロンチウム1.57 mg/100gゲルマニウム、ニッケル、コバルト、バリウム、リチウム、モリブデン、ケイ素、鉛など。

あまりに微量元素がありすぎるので、食べ過ぎたら毒にもなりそうですが、そこは薬なので正しく使えばほかのものとは明らかに違う効能があることとなるわけです。

この数値をほかと比較はしにくいのですが、参考までに。
日本のハチミツでは銅0.01 ~0.08mg/100g、亜鉛0.01~0.2 mg/100g、鉄0.15~0.3 mg/100g、マンガン0.01~0.04 mg/100g、セリン不明(2)
インド北部のハチミツでは銅0.025mg/100g、亜鉛0.29 mg/100g、鉄0.2 mg/100g、マンガン0.06 mg/100g、セリン不明。(3)

もともと、少数民族の腹部膨満感を解消するなどの消化器系に使われた薬ですので、代謝を促す物質が多いようです。

たとえばマンガンは血液を増やすための助けとして重要ですし、セリンはアミノ酸の一種で各種酵素の部分構造に含まれる重要な物質。代謝を促します。
 ストロンチウムは、カルシウムを骨に蓄積させるときなどに使われます。

日本の原発事故で放射性ストロンチウムが放出された際、とくに幼児の骨に蓄積されやすい、と報道されましたが(半減期は28.8年)、放射性を帯びなければ、危険どころか、カルシウムを歯や骨に蓄積させるために有効です。地殻の0.025%に鉱物の形で存在しているので、普段、人は塵や作物を介して取り込んでいます。
           (なお、つづく・・)

参考文献
(1) 楊永寿、肖培雲、菫光平「白族薬野坝子的微量元素分析」『微量元素与健康研究』(2002年第19巻3期、貴陽中医学院)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

雲南のハチミツ⑩ 豊富なカリウム

2015-03-22 12:55:47 | Weblog
なにも花に群がり蜜を採るのは蜜蜂だけではない。雲南は「蝶の王国」との異名をとるほどで種類では中国の各省最多の700種以上が見つかっている。蝶にまつわるロマンチックな伝説も数多い。写真は花に群がる雲南の様々な種類の蝶。(雲南民族村にて2004年撮影。)

【人体に必要な微量元素が豊富】
前回、玉川大学ミツバチ科学研究所に問い合わせ中、と書いたところ、遅くなりました、との丁寧な文面で先日、ご回答をいただきました。
やはり、というべきか、残念ながらヤハシ蜜の成分分析の論文はなかった、とのことでしたが、中国の養蜂業やハチミツに関する論文をいただくことができました。感謝です。

さて、話しを戻しましょう。
ヤハシの成分の特徴についてです。なぜか、ヤハシ蜜の全貌がわかるような資料はないので、細切れにつないでいきます。

まず『月刊 蜜蜂雑誌第7号』(雲南省農業科学院、2010年7月)にヤハシ蜜の分析が出ていました。1994年に雲南省楚雄州武定県で採取したヤハシ蜜からは硫黄、リン、ホウ素、マンガン、マグネシウム、亜鉛、ナトリウム、カルシウム、カリウムの9種類の鉱物元素が見つかり、中でもカリウムが47.2mg/100gと高かった、と書かれています。

これは日本のハチミツの2倍強の値です(「各種ハチミツの微量元素分析による採蜜年度の判別」『日本健康医学会雑誌』22(3)、2013年10月、東京農業大学短期大学)ほかの元素ものきなみ高い値を示しています。

ただカリウムが高いものは、ヤハシ蜜に限ったことではなく、中国、北インド、ポルトガル、スペインの国々もかなり高め。北インドでは48.9~93.2 mg/100g。スペインで40種のハチミツを分析した結果は43.4~193.5 mg/100gだったのでカリウムの高さは地域性があるようです。つまりヤハシ蜜はカリウムの高めのハチミツ、ととらえればいいでしょう。

ちなみにカリウムは日本でも野菜や果物にも昔から普通に含まれています。
体には塩気に含まれるナトリウム、小魚などに含まれるカルシウム、野菜などに含まれるカリウムが神経、筋肉、細胞の水分の代謝などに必要なのですが、現代では塩分が多く、カリウムが少なめになりがちな食生活の人が多いのだとか。

 そのため、ネットでざっと調べると、「現代人に不足する栄養を補う」という名目でカリウムサプリが山のように売られていることがわかります。そのカリウムが多い、というのは、重要な特徴の一つ、といえるでしょう。
              (つづく)
※今回は健康雑誌のようで、読みづらくてすみません。きれいな写真でなごんでください。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

雲南のハチミツ⑨

2015-03-15 09:15:50 | Weblog
写真は昆明のスーパーの食用油コーナー。魚用、野菜用など、用途を示唆する油があったり、菜種油、米ぬか油、落花生油、アーモンド油トウモロコシ油、ごま油など様々な種類が当たり前のように売られている。雲南では菜種油が家庭用としては主流だった。いずれも日本では考えられないほどの大容量で売られている。

日本でも取り上げられる下水などから精製する、危険な地溝油は、食堂などで流通しているので、スーパーのものは別物だと信じたい。2005年当時の人々はスーパーのものや、なじみの市場のおばさんが目の前で搾ったものを桶に入れて売る店などが繁盛していた。食用油はデリケート名問題なので、また別の機会に取り上げたい。
(2010年夏撮影)

【60年以上前からヤハシ蜜に熱視線】
中国の文革が終わってまもなくの1979年に『雲南養蜂』(1979年第3期、雲南省農業科学院)に発表された論文に、ヤハシ蜜は雲南省の重要な野生蜜源植物と書かれていました。
なんと収入の80%をこの蜜が占める州すらあったとか。

さらにヤハシは菜の花同様に油が採れました。こちらは料理用というより香油です。両方とも市場で売られていたそうですが、ヤハシ蜜はヤハシ油の9倍以上の価格だったそうです。そのように重要な植物なのだから、今あるヤハシの根を掘り起こしたり、焚きつけに使ったりせずに収量を増やす努力をするべき、などと書かれていました。

この雑誌は役人の内部資料だったので、北京政府の方針に沿った研究の結果だったはずです。
2012年になって『雲南養蜂』の後継誌である『雲南農業大学学報』で山口喜久二氏がヤハシ蜜に着目し、論文としては彼も加わった研究チームがヤハシ蜜の分析を行ったのも、このような蓄積から生まれたのでしょう。

(話は逸れますが、中国で植樹をして沙漠化を食い止める日本のNPO団体「緑の地球ネットワーク」が大同でその活動を開始したのも、元はといえば、1950年代から文革期にかけて大同でポプラを大量に植樹する活動が中国共産党の指導の下で行われていたためだったと日本側の責任者に聞いたことがあります。〈http://www.k4.dion.ne.jp/~gentree/images/GEN03.pdf〉地元の人にわずかながらでも知識と経験があり、植樹の土壌があったため、最終的に地元主導でうまく緑の再生事業がうまく進んだ、というわけです。)

ただ、この論文では水分、蔗糖、ブドウ糖、アルカリ、酸などの大まかな分析にとどまり、いずれも中国の定めるハチミツの規定よりも粒ぞろいで優良の品質を確保していること、また抗生物質や農薬検査でもいずれも未検出だったということが技術的に述べられているだけでした(『雲南農業大学学報』2012年第27巻6期p914-p917)

「玉川大学ミツバチ科学研究センターがヤハシ蜜の成分分析を行い、結果、ニュージーランドのマヌカ蜜と同等の成分が含まれていた」

と中国のヤハシ蜜の広告文に見つけたのですが、日本のもので裏付けはできていません。(玉川大学のミツバチ科学研究所に問い合わせているのですが、一週間以上たっても連絡がつかないのです)

さて、日中あわせて、さすがに蜜源として集中しているのは雲南だけとあって、ヤハシ蜜に関する論文は雲南に集中していたのでした。
(つづく/次週はヤハシ蜜の効能です)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

雲南のハチミツ⑧ 皇蜜の由来2

2015-03-08 14:43:08 | Weblog
写真は雲南から東南アジアや沿海地域、チベット高原を越えて北京などに馬の背に乗せて運搬するときの荷台。荷台の前方から固めた塩、器、漢方などの植物系がくくられている。
馬の左右に等分に荷物を振り分けることと、しっかり固定させることが重要。(大理近くのかつての茶馬古道の要衝の地・雲南駅の茶馬古道博物館にて撮影(2005年2月撮影)

【日本、オーストラリアが輸出の中心】
以前にも書いた通り、中国の販売会社の方では広告に精通しているだけに、突っ込みどころはなく、由来もなにも不確かなところはすっ飛ばして、野坝子(ヤハシ)のハチミツの白く固まったものの商品に「皇蜜」という名をつけただけでした。

 製品の希少性だけで十分、商品価値があると見ているわけです。ほかのヤハシ蜜を扱う中国の広告も、やはり「硬蜜」と書かれています。
 雲南北部のシャングリラのハチミツ会社のホームページには、日本の市場では、ニュージーランドのマヌカハチミツと同等の効能があるとして、高値で売られていて、「精霊の蜜」「皇蜜」と呼ばれる栄誉を受けている、と書かれていました。

ちなみに2週前にお伝えした蜜語蜂業科技開発有限公司の「皇蜜」の一番の取引相手は日本とオーストラリアとのことです。
(珠江網〈雲南省曲靖市の新聞記事〉、2014年6月8日よりhttp://news.zjw.cn/html/2014/qujingxinwen_0608/121038.html)

【ヤハシ蜜の特性1】
ここしばらく「ヤハシのハチミツ・皇蜜」について書いていたところ、成分についての質問をいただきました。

 各販売会社は「ヤハシという蜜源植物自体が、特殊な成分を含んでいる」(薬蜜本舗http://www.yakumitsu.jp/pdt/koumitsu/)というだけで、何が、どうほかと違うのかはまったく触れられていません。そこで独自に調べてみました。

 まず、ヤハシ(野坝子 Elsholtziarugulosa Hems L.)は学名で調べると、どうやら中国西南部の四川、貴州、雲南、広西などに分布するのみの植物であるということ。
 とくに雲南中北部地域に集中していることがわかりました。この植物は昔からその地方に住む彝族、白族、納西族、苗族、リス族などで幅広く薬として用いられていて、風邪や咽頭炎、消化不良、腹部膨満感、下痢、急性腸炎、潰瘍、中耳炎などに幅広く用いられていたそうです。

 明の成化5年(1465年)浙江省の「遊龍商人」や江西省の「安福商人」のグループが共同で楚雄の姚安県に入植して、農地の開拓を始めています。
 彼らの得意な分野が漢方(明末清初の人・顧炎武《天下郡国利病書》より)。

 おそらく、このあたりの特産品としてヤハシも入っていたことでしょう。その漢方は中国各地だけでなく、日本、フィリピンにも交易路を持っていたということですから、日本にも当時、伝わっていたのかもしれません。       (つづく)
                      
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

雲南のはちみつ⑦ 皇蜜の由来1

2015-03-01 11:02:05 | Weblog

写真は雲南農業大学でミツバチの管理やハチミツの採取の実習を行う学生。(2005年3月撮影)

【「硬蜜」が「皇蜜」に?】
次に「皇蜜」という名の由来です。不思議な名前ですよね。山口氏が経営する蜂蜜専門店 薬蜜本舗(http://www.yakumitsu.jp/pdt/koumitsu/)によると、

「歴代皇帝に献上されたと伝えられる」から、と書かれています。

そこで、いつの時代にだれが献上したのか、調べようと雲南ゆかりの詩も含めて文献をあさってみました。見当たりませんでした。私と同様の疑問を持った人がいたようで、日本の国会図書館のレファレンスサービスに「皇蜜」の調査依頼が出ているのを発見しました。以下、引用します。

「質問:蜂蜜販売会社のホームページに下記の情報が掲載されています。

『中国雲南省にはヤハシという植物があり、この花の蜜をミツバチが集めて作ったハチミツは普通のハチミツと違い固形化することから硬蜜ともいい、歴代の皇帝に献上されたことから皇蜜とも呼ばれるようになった。』
中国において「硬蜜」が皇帝に献上されたことを記録した古記録や歴史史料を探しています」
(2011年11月29日 レファレンス事例詳細より)」

この質問に対して、国会図書館は諸橋轍次『大漢和辞典』や中国学術雑誌全文データベース、雲南の地方志、『中国薬学大辞典』、『中国歴代貢品大観』など18種類以上のデータベースを検索し、結果、記載が見当たらないことを回答。

 ただ、『楚雄彝族自治州志』の「野坝子」の項目に「素有“雲南硬蜜之称”」(「もともと“雲南硬蜜”という呼ばれ方はあった」:筆者訳)という記載はあった。ただ、その硬蜜が皇帝に献上された、という記述は見当たらなかったと記しています。

さて、日本語で考えると「硬」と「皇」は同じく「コウ」と発音しますが、中国語では「硬」は「イン」、「皇」は「ホワン」と読みます。こう考えると、「硬」に「皇」の字を当てるのはじつに日本的な発想ですね。

山口氏がヤハシ蜜の地元で「硬(い)蜜」と言ったのを通訳から日本語で聞いて、「皇(帝の)蜜」と考えてしまった、または、そもそも食物の由来話は、根拠のないものにさらに尾ひれをつけたものが多いので、地元の人が話す内容を鵜呑みにしてそのまま書いてしまった、というところでしょう。

ちなみにこのレファレンスサービスの質問を知ったためなのか同社のホームページの文言が断定調から伝聞調に変化し現在(2015年3月1日)に至っています。
(つづく)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする