コックバーンズの蔵の中にて。天井や壁にフワフワのカビがびっしり。代々受け継がれたこれらのカビがポートワインをよりおいしくしている。
【多い、スコットランド出身の創業者】
ワイナリーの名前は「コックバーンズ(COCKBURN’S)」。一人、15ユーロという、なかなかな金額を払い、すでに待っている若者二人と観光客の夫婦らとともに案内人が現れるのをしばし待つことになりました。
待合室にある展示スペースでは5分程度のビデオが繰り返し流れていました。
ドロワ川上流域の傾斜地で栽培されたぶどう畑の映像やそこから絞り出したブドウ液を樽詰めし、一冬を越した後にその樽を小舟(ラベーロ)に積んでポルトへと運ぶ白黒の映像です。リフティングに最適なんじゃないかと思われるような急流を、水しぶきを全身に浴びながら大岩にぶつからないように上手に操船する屈強な男たちの光景は迫力満点。昔の映像がよくぞ残っていたものだと感心しました。
こうしてドロワ川を下ってポルト南岸域につくとワイナリーへと運ばれます。そこで発酵中のワインにブランデーを注いで酒精強化ワインにして(アルコール度数を高めて発酵を止めるので、甘味が残る)さらに寝かせまろやかにして、17世紀以降海上輸送しても開封しても品質が保たれるお酒となってイギリスへと大量に輸出されていったという解説。さらに映像ではポートワインともに笑顔で食事をとるイギリスの中・上流階級のだんらんを描いた絵や、蔵の歴史などが流れていました。
この蔵は1815年にスコットランドからきたコックバーン兄弟が始めたのだとか。当時、イギリスからポートワイン造りにポルトに来る人々は多かったようで、ポルトではスコットランド出身の創業者を持つ蔵が多く存在します。
何回目かの映像を見ていると、ようやく案内人が現れました。
待合室横の大きな扉を開けると、ひんやりとした空気が流れ、あっという間にワイナリーの中です。どうせ英語の解説だし、と距離をおいていると、客が少ないせいか案内の人は全員の目をちゃんと見て話しだすので、否応なく、きちんと聞かざるを得ない状況に。
樽は、ここで修理します、といって、作業部屋を見せたり(木の樽づくりの道具が置かれ、たがで固定する前の製作中の樽が置かれていた。日曜のためなのか、誰も作業員はいなかった)、温度管理には細心の注意を払っています、と蔵の中で温度計を指したり、と、とても丁寧に解説してくれます。
立ち姿も美しく、きまじめそうな青年。コックバーン一族の末裔らしいこの人は、若いながらもひげをたくわえ、ハンサムな顔は紅潮し、誇りに満ちていて、まるで今日、初めて語ってるんじゃないか、と思われるような真剣さ。
日本の工場見学とは一線を画する雰囲気に、ちょっと驚きました。
最後に3種類のワインの試飲がついていました。
ポートワイン独特のアルコール度数の高さと甘味、香りを放っていたのですが、お昼にレストランのオーナーからいただいたフェレイラのワインがあまりに別格すぎて、そのことしか記憶に残っていないのが残念。ちなみにフェレイラはポルトでも最古参の地元出身者が創業のワインセラー。午前中にフェレイラに寄った時「2時から見学できますよ」と伝えられていたのですが、お昼を食べてから戻るつもりが別の蔵に寄り道してしまい・・・。コックバーンの熱意が感じられてよい見学となりました。こういうきままさが、また旅の楽しみなのです。
ワイナリー出口にて。