雲南、見たり聞いたり感じたり

雲南が中心だった記事から、世界放浪へと拡大中

閑話休題・新刊紹介『人口の中国史』

2020-08-30 10:06:25 | Weblog
先日(8月29日)の東京新聞で宮藤官九郎さんが安野モヨコさんの作品について「世相ではなく真相を語っているから」今読んでも古く感じないと、その魅力を語っていました。真相をついた本というものは読書の時間を裏切りません。

8月20日に発売されたばかりの『人口の世界史』もそんな一冊だと感じます。いまや世界の人口が70億人に達したとされ、その5分の1を占める中国。その人口爆発が起きた原因をていねいにひも解いていきます。

中国とはなにか、文明とはなにかを定義づけた後に、中国の王朝ごとに区切って考えてもたどり着けない歴史の呼吸を、ある現象のサイクルとしてとらえました。それが「離合集散」ならぬ「合散離集」。伸びたひもが元に戻ろうとする力のイメージで「ゴムゴム」。

先史時代から人口をワードに切り込んでいくのですが、そこには当時の王朝がどのようにして人口を把握していたのかが重要になります。

王朝が人口を把握するとは、どういうことなのか。いまの時代にこそ知るべき歴史的必然でしょう。把握された戸籍や規模によって課される税。逃れる人々。こうして社会の仕組みが作られ、子を産み育てるという自然に仕組みにも規律が働いていく。

事実の積み重ねから生まれた歴史を読むと、ときに現代の表層を読む新聞などとは違った頭を整理ができ、ひらめきが生まれることもあるでしょう。

著者はもともと明清史の歴史家なので(王朝史を超越したエコロジカルヒストリー家を自認し、いまから21年前に初単著『森と緑の中国史』(岩波書店)を執筆。その本で自問していたものへの答えが今回の本。)第3章の明代あたりからギアチェンジしたかのように事実の濃度が増していきます。

話の核心をはやく知りたい方は第5章からページを開いて参照している章に立ち返って読む読書法もいいかもしれません。

戸籍から抜け落ちた人には税は課されない。だからこそ政権が安定すると戸籍の作成に取り組んでいく・・。読んでいたらマイナンバー制度を詳細に政府が作りたがる理由にも思い至りました。

歴史家が長い射程でとらえた言葉は、懐が深いので読者それぞれに引っかかるポイントも変わっていくことでしょう。「はじめに」を読むと、偶然にもコロナ禍による自粛期間中に書かれた模様。この本一本に仕事が集約されたせいか、近年の著者の本の中でも、より密度が濃く、読みやすい本になっているように思います。

上田信著
『人口の中国史―先史時代から一九世紀まで』(岩波新書) 
820円+税

※次週の更新はお休みします。毎日、酷暑が続きます。どうぞご自愛ください。
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語学留学でセブに行く54 シティーツアー③ シヌログ祭り

2020-08-22 16:32:18 | Weblog

写真上はサントニーニョ教会。内部もサンゴの白い石でできているせいか、明るい。軽石のようにふわっとした小さな穴が見えるところが大理石とは違っている。
写真下はその教会近くの木陰で結婚式向けの写真撮影をする様子。白い鵜ウェディングドレスが南国の光によく映える。

【サントニーニョを片手に踊る】
 サントニーニョ像といえば不思議なお祭りがあります。毎年1月第三週の日曜日にグランドフィナーレを迎えるシヌログ祭りです。

 セブ島どころかフィリピン最大の祭りとも称されていて、当日はフィリピン全土からダンサーが集結し、思い思いの衣装で手にサントニーニョ像を手に持って踊るのです。踊りの審査もあるそうです。

祭り期間中にはサントニーニョ教会に祀られている本物の像を船にのせて海を渡ったり、町をめぐったりする神輿の渡御も行われるとか。年に一回、ご神体を移動させることで神様にお遊びいただき、人々はその先ぶれや余興としてパレードをする、というのは日本の神社の大祭と構造は同じです。https://ceburyugaku.jp/69911/

 ただ、かわいらしい子供の人形を手に大人が踊るというのは、ご神体が愛されキャラなゆえに起こる現象といえましょう。
 たとえば手に大仏さまや観音様のミニチュアをもって踊るのは考えにくいですよね。日本にはお面や着ぐるみの伝統もありますが、昨今のゆるキャラブームはともかく、普通は鬼やきつねや獅子や龍、天狗などに神が変化したものが踊る、という風にワンクッション設けています。

 そもそも日本のご神体は圧倒的に祟りをもたらすもの。そのご機嫌をそこねないために神様をもてなす意味もあるので「祭りのパレードは神輿の前の先ぶれとして、邪気を払って神様が通りやすくする意味合いがあるものと位置づけられています」と『風土記』にも出てくる神社の宮司から聞いたことがあります。つまり、日本でご神体を模した人形を手に持って踊ったりしたら、天変地異がおきてしまいそう。

ところがサントニーニョはひたすらかわいい。呪わしさがない。

 マゼランがセブを訪れてから44年後に、スペイン艦隊がセブ島にやってきたときをはじめ、幾度か侵略者が街を破壊したのですが、マゼランが送ったサントニーニョ像はそのたびに無傷で発見されたことから、「奇跡」の像として、より一層信仰を集めるようになりました。

日本なら、大事にしないとまた街が破壊されるかも、という恐れが動機となりそうですが、そこがセブの市民の陽気さなのでしょう。

話はそれますが、日本が生んだキティちゃん。私にとってはあのおおきくて無表情な顔は、かわいさを通り越して怖さも感じます。でもサントニーニョ像は、どんなに見てもこわくない。しかも神秘性も損なわれてはいないのです。

マントの赤と縁取りの金、子供の姿からは、ひたすら温かいパワーを感じます。まあ、私と相性がいいのでしょう。日本にもこんな神様がいたらなあ。
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語学留学でセブに行く53 シティーツアー② サントニーニョ教会

2020-08-16 13:10:56 | Weblog
写真は、サントニーニョ教会近くのショッピングモールで購入したサントニーニョ様。大きさは手のひらサイズほど。ビロードの赤マントが印象的。
値段に応じて大きなサイズのものもある。

【セブで一番の歴史的建造物】
 たくさんの老若男女が赤いろうそくをともして、あれだけ熱心に祈っているのに(500年も!)よどんだ空気がみじんもない。人々の祈りもさっぱりしているし、教会がサンゴでできているせいか、白く、隅から隅まで明るさに満ちているのです。
 日本で神社といえば森の中にあって、荘厳で湿ったイメージがありますが、そのような日本で常識的に思っていた宗教的雰囲気が薄い場所ははじめてでした。

 こんなことを書くと、へんに思われるかもしれませんが、古来からある神社にいくと、時折、場の雰囲気を感じることがあります。有名なところでは島根県出雲大社裏手のスサノオのまつられているところ、長野県諏訪大社のとある場所、神奈川県鎌倉の鶴岡八幡宮前など。
 行くとゾクっとしたり、何か熱いものや澄んで冷たいものが通り過ぎるような錯覚を感じたり、どす黒い塊が見えるような気がすることも。ヨーロッパの教会でも、なんともいえない独特の空気を感じることがあります。

 ところがここは驚くほど、なんのしがらみも感じない。ご神体は色黒のかわいい子供のイエス様。1521年にマゼランがセブ島のおきさきに贈呈したという実物です。これをサント・ニーニョ(ニーニョ=スペイン語で男の子。幼きイエスの意味)といいます。
 本物をガラス越しに見ることができるのですが、澄んだ目をした人懐っこい子供のお顔があまりにも明るくて意表をつかれたのかもしれません。

 おみやげにこのサントニーニョ像のミニチュアを買って、セブの部屋に飾っていたのですが、部屋を掃除してくれる人がこの像を見るたびにうれしそうに「持ってるね!」とウインクしてくれる、というおまけがつきました。
 年かさの地元出身の女性は「このサントニーニョ様がいるから、セブは災害がないんだよ。台風だってここには来ないんだ」と胸を張っていました。愛されキャラの神様なのですね。
(つづく)
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語学留学でセブに行く52 シティーツアー① マゼランクロス 

2020-08-09 12:20:39 | Weblog

写真上はセントニーニョ教会の八角堂、写真下はその中に立つマゼランクロス。

【シティツアー】
入学したての頃に話は戻ります。最初は右も左もわからず、日本と違って散歩できる道もなく公共の交通機関も使いにくい環境に絶望していました。これを救ってくれたのが学校主催のシティツアーでした。

行った結果、知り合いもでき、セブ島の大まかな観光ができて、視野が広がり、その後の一人歩きがぐんと楽になりました。

申し込みは簡単。学校の掲示板に案内が出ていたら事務室で申し込むだけ。参加費は1000ペソ(約2000円)。2週間に一度、迎えられる新入生に合わせて開催されます。

誰にとってもシティツアーの満足度は高いようで、休み時間に英語で書かれた案内チラシを読んでいると、台湾出身の親切な大柄の男性が「これは行くといいよ!」と自分の体験談を交えて熱心に話してくれました。

学校のない土曜の朝8時半、学校のロビー前に泊まっているバン2台に乗り込んで出発。ツアーガイドは学校の先生と現地の旅行会社の男性の計2名です。英語初心者向けにゆっくり話してくれるので、ガイドが英語でも難しく考える必要はありません。

ギラギラの日差しの中、歩くぐらいの速度で進む恐るべき渋滞の道路を抜けると一時間半ほどで第一の立ち寄り場所のサントニーニョ教会に到着。(距離にして14キロ。道路事情の悪さがわかるでしょう)

【セブ一番の歴史的建造物・サントニーニョ教会】
車のドアを開けるのも嫌になりそうなくらい暴力的な日差しの中を降りると、入口付近に八角堂がありました。天井には空が描かれ、中心部には「マゼランクロス」と呼ばれる木製の十字架が飾られていました。
 歴史上、初めて世界一周航海を成功させたマゼランがセブ島で400人の島民に洗礼を行ったときに使ったものとされ、信仰の対象となっています。おばあさんが赤いろうそくをもって熱心にお祈りしていました。

ガイドの先生が「この十字架を削って持っていると万病が癒えるんだよ」と説明してくれたのですが、目の前の十字架は、削った後もなく、きれいなまま。あとで調べると、とっくの昔にレプリカが立てられていたのでした。

教会内部に入ると、人がいっぱいいました。1565年に創建されたフィリピン最古の教会で18世紀に再建されたとのことですが、南国らしく、明るさに満ちています。
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語学留学でセブに行く51 

2020-08-01 11:49:10 | Weblog



写真上はレチョンのつけ汁が入った容器。日本のしょうゆは青みの混ざった茶色だが、こちらは、それより薄い色だが、緑がかった黒目な色なことが、おわかりいただけるだろうか?
写真下はレチョンを売る店のまな板と包丁。これで丁寧にそいでいく。時には、骨を切断することも。

【甘くてすっぱいレチョンのつけ汁】
あめ色のパリッとした皮目を重視するあたりなどからして、料理法を洗練させる過程で中国から貿易などで渡ってきた漢族の影響が感じられます。焼き方そのものは中国料理の影響、豚の腹に香草をまぶすのはスペイン料理の影響が感じられます。https://www.ab-road.net/europe/spain/segovia/guide/gourmet/07679.html

レチョンで、感激したのは、肉そのものに塩が効いた、素朴な味もさることながら、添えられたつけ汁。ちょっとすっぱみのある茶色い液体でした。

レシピを見ると、焼いたレバーから絞り出す汁を原料とし、家庭ごとに異なるレシピが存在する、ということ。http://midori509.jugem.jp/?eid=278

。簡単なものでも、しょうゆと酢をベースに唐辛子やカラマンシー(フィリピンの柑橘。和名は四季橘)などをスパイスするとか。
詳しい配合はわかりません。が、フィリピンは歴史が交易では中国、メキシコ、侵略ではスペイン、のちにアメリカと様々な文化の料理が合わさって、最終的に素朴で、やさしい味に到達していったのは、国民性なのでしょう。

また、豚を禁忌とするイスラム教だと豚の料理は広まらないのですが、フィリピンではキリスト教が主な宗教だったため抵抗なく受け入れられたことも大きい。さらに棚田との相性がよい豚の飼育法があったことから、ごちそう料理として今では定番となった、といったところでしょうか。
(レチョンの章おわり)
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