雲南、見たり聞いたり感じたり

雲南が中心だった記事から、世界放浪へと拡大中

一押しスープ・汽鍋鶏①

2009-10-25 11:32:32 | Weblog
写真は昆明の庶民の料理やの汽鍋鶏。見ると、鍋を重ねてとろ火で放っておくだけなのに、澄んだ、絶妙の味になる。

【5時間じっくり】
 寒くなってきました。いよいよ鍋の季節の到来です。雲南にも鍋料理は数々ありますが、なかでもお気に入りなのが「汽鍋鶏」。骨ごとぶつ切りにした鶏を水にさらして血抜きし、雲南でよく見られる建水特産の、中心に空気を通す煙突をもった赤土鍋「汽鍋」にぎっしり詰めます。
 それにしょうがの薄切り、ネギのぶつ切り、塩、こしょうを入れ込んで、ちょっとの水を入れ(本格派の人は入れない)、料理屋ならその鍋を積み重ねて、煙突のてっぺんに蓋をする。それらをまとめて火にかけ、5時間、じっくり蒸し上げます。

 中心の煙突を通った蒸気が、ドーナツ状の鍋にほどよい対流をおこし、煙突から出た蒸気がまた鍋に還元され、澄み切ったおいしい鶏のスープとなるのです。

 味は、雲南名物料理随一、と思えるほど絶品です。小さなレンゲで掬うと、無駄のない引き締まった鶏の澄んだスープがのどを通り、やがて内からポカポカと暖まってくるのです。汗がどこどこ出てくる場合もあります。鶏肉を食べる用にたっぷり肉を入れた店もあるのですが、たっぷり運動させた肉のしまった地鶏の固めの薄い肉がへばりついたようなものの方が、よりおいしく感じました。

 この料理のポイントはいったん、鍋を火にかけたら、決して水を継ぎ足さないこと。ある人がお客さんがまもなくくるというのに、汁がうまく出ない、と焦って水を足したら、あっという間に黄金色の澄み切ったスープが白く白濁してしまったとか。味も本来のものとはほど遠くなってしまった、ということです。
コメント (4)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

三七・栽培の歴史

2009-10-18 14:00:56 | Weblog
 写真は文山州の古くからの政治・経済の中心都市・広南の市場にて。民族衣装もまばゆいおばあさん達が、ネズミ、ウサギなどの形をしたかわいらしい饅頭を買って、みんなで品定め。なんでそんなに真剣なの? と驚くほどの気迫があった。
 一個〇.五元のお饅頭の傍らの漢方売りの店では、三七は一個売りではないけれど「二〇元~五〇元」という、一般住民には法外な値段。漢方がいかに高級品かを思い知らされる。
 
【野生種の消滅】
 明代(1368-1644年)には、あまねく知られた三七。いつごろから栽培されているのでしょうか。

 清の道光年間(1820-1850年)の雲南巡撫・呉其浚による『植物名物図考』には三七について

「生育されており、野生はない」(蓋皆種生、非野卉也)
「土司(地元における最高の地位の人)が利殖のために、栽培に勤めている」(土司利之、亦勤栽培)

などと書かれていて、当時、すでに野生種はなく、雲南では高値で取引される三七の栽培が盛んだったことがわかります。

 文山州科委員が編纂した『文山科技』という雑誌をみると「一九五六年に全州で調査をしたところ、馬関、西畴といった深山の密林に野生種があった。それは人工のものとは違って、地下茎と根が棒のように長く伸び、きめも粗かった。」とあります。残念ながら、現在では野生の三七はその後、見つかっていないとのことで、野生種を確かめる方法はありません。

 この点、高麗人参は、少ないとはいえ、野生種が存在し、高値で取引されています。(吉林省長白山で、1989年に見つかった推定年齢500年のものは国宝に指定され、今年7月に同山で見つけられたものは9月8日に326万元〈約5200万円〉で売却されている。)

 高麗人参は年数が高く、形が大きいほど薬効が高いため価値も高くなるのですが、三七の場合、薬効が高いのは3~10年ほどの短い期間しかないため、地元の人も野生のものを見つける情熱が薄いだけなのかもしれません。
薬効のある期間が限られているなど、考えてみれば、じつに不思議な漢方の植物です。 (三七の章おわり)

*三七の話が、雲南の地下の話にまで突入するなど、脱線続きでしたが、ようやくおわりです。お付き合いくださり、ありがとうございました。
 次回からは、また、おいしいものオンパレードにするつもりです。肩の力を抜きまくってくださいませ。
 ここで読んで、近くの雲南料理の店に行くもよし(最近、増えて、不況下でも結構、繁盛しているのですよ。)、旅行もよし。ただ、そんなとき、こちらにご報告いただけると、励みになります。よろしくお願いします。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ゲルマニウムがヘン? (三七わりこみ話)

2009-10-12 10:40:10 | Weblog
 写真は文山州の三七畑の周辺にて。紅い大地がどこまでも続く。犬や牛、豚の放し飼いも多かった。ちなみに写真の右すみの黒い固まりのようなものは、犬の頭である。

【サポニンがレアメタルを引き寄せる】
 そこで、本題の「三七」です。「三七」の主成分はなんといっても15種類のサポニン。(なかには止血作用のある三七だけに確認されている「田七ケトン」というサポニンも)サポニンとは、天然の界面活性剤。昔はサポニンが含まれた「ムクロジ」などを泡立てて使っていたという話もある天然の泡立ち物質です。

 界面活性剤というのは、石けんや洗剤にかかせない物質です。家庭科の時間に習ったことを思い出してみましょう。本来「水と油」と言われるほどなじまない汚れとなる「油」と洗うための「水」をくっつけ、汚れを吸収して剥がれ落とす役割があるのです。ここが重要なのですが、つまり界面活性剤であるサポニンは、水溶液が媒介すれば、なんと土壌内の金属を吸い取る役割を持つのです。

 日本特許庁のホームページに「金属イオン捕捉剤及び土壌の浄化方法」(2001-40326,2001年2月13日公開)というのがありました。これはある植物のサポニン水溶液を蒔くと、土壌内の鉛、カドミウムなどの重金属とよく反応して、土壌の金属イオンを捕捉する、というもの。

 これと同じ作用が三七にももたらされているというわけです。張之申らの研究では三七の根の成分を詳しく調べると、ナトリウム、マグネシウム、カリウム、カルシウム、バナジウム、マンガン、鉄、亜鉛、ひ素、ルゼジウム、アルミニウムなど13種の金属元素からなっているとのこと。また三七そのものは広西、広東、四川、江西、福建などでも栽培はされているのですが、あきらかに雲南産のものが、これら金属元素を根に含む割合が多かったのでした。特殊な土壌と、特殊なサポニンのなせる技なのでしょう。

 また単位面積あたりの生産量も雲南文山周辺が突出していて(約2割高)、その理由は山地のため気温差が大きく、気候冷涼な環境もあるのだろうと、研究は結論づけています。(黄鑫編著『三七』天津科学技術出版社、2005年10月)

 気候、風土が三七の薬効成分を最大限に引き出す場所、それが雲南省文山チュアン族自治区だったのです。三七の持つ性質から考えると、文山がたとえば、環境汚染はなはだしくなると、風土の申し子「三七」は、それらの成分を一身に吸収してしまう、おそろしい植物、ともいえます。それだけに、今後ますます適切な管理と検査態勢はかかせなくなってくるでしょう。実際、見学した「三七」畑は、山間の冷涼な田舎にばかり展開していました。一見すると、とても大切に育てられた、高級漢方、ということがわかる環境ではありました。

 ただし、上記の通り「三七」には必ず一五種類のサポニン及び一三種の金属元素が含まれていることは確かなのですが、確実に「有機ゲルマニウム」が含まれていることを言及した学術論文は今のところはなし。「など」の部分に入っていることもある、計測の困難な微量を、少し過大に評価しすぎたものが多いのかもしれません・・。
コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ゲルマニウムがヘン? (三七わりこみ話)

2009-10-01 10:44:12 | Weblog
写真は文山州のイ族の村にて。観光で売り出したいと若者は伝統的、といわれる村本来の伝統とはあまり関係のない踊りを熱心に披露してくれた。

【質問がありまして・・】
 雲南の漢方薬・三七②の回で「三七の主な成分は有機ゲルマニウムやサポニンなど」と書いたところ、
「ゲルマニウムといった微量元素は、普通の土壌に含まれているとは思われないけど、三七は、いったいどうなっているのか? たとえば肥料で蒔いたりして、そこから微量元素を選択的に取り込む仕組みがあるのか?」
 という、難解だけど、なにか三七の本質をスルドく突いているような質問を受けました。

 そこでまず、ウェブに「有機ゲルマニウム」と入れて検索すると、出るわ出るわ、健康食品などのオンパレードです。
 ゲルマニウムとは、そもそも、普通の状態では電気を通さず、温度が上がると電気を通すようになる「半導体」物質です。古くはトランジスターラジオ、現在では太陽電池、光ファイバー、あとはペットボトル樹脂用触媒などに使われています。
(犬塚英夫『人工結晶』岩波新書、1962年9月、ウィキペディア「ゲルマニウム」の項ほか)

 純粋なゲルマニウム物質である「無機」ゲルマニウムは食べると、有害。
 一方、「有機」とつくと「炭素とゲルマニウムの化学結合を含む有機金属化合物」となり、現在、こちらが食べるほうに含まれると、珍重される傾向があるようです。また体にネックレスとして身につけたり、「ゲルマニウム岩盤浴」などの健康グッズに使われています。
 ただし、医学的には健康によいかとどうかの実証は、私の見たところでは見あたりませんでした。今のところ「健康的な雰囲気」語といったところでしょうか。

【世界的にもまれな物質】
 いまや日本の産業にはかかせない、このゲルマニウム。日本ではほとんど採れません。世界的にも、稀少なものです。
 ところが、中国の、雲南には確かにあるのです。中国はゲルマニウム埋蔵量、生産量ともに世界一、そして雲南省は埋蔵量では内蒙古自治区についで2位といいます。
(「ゲルマニウムに関する基本資料」有限会社UMC中村創一郎、2008年2月20日更新)

 雲南では鉛、亜鉛の副産物として、無数の小規模工場で精製されているそうです。なかでも上海A株上場企業である雲南に本拠を置く「馳宏亜鉛ゲルマニウム」1社だけで、世界のゲルマニウム生産量の10%を占めているというから驚きです。この会社は、先月9月23日に、世界最大の埋蔵量を誇る内蒙古のフフホトの大型鉛ゲルマニウム鉱山を買収したとの報道があったばかり。世界企業となるべき戦略がはっきり見えるため現在、株価は高値を更新中。
(新浪http://biz.finance.sina.com.cn/stockreport.php?symbol=600497)
 
 さてゲルマニウムに限らず、雲南は鉱物資源の宝庫。埋蔵量で見ると、鉛、亜鉛、ゲルマニウム、カドミウム、タリウム、珪藻土、錫、亜鉛、リン、マンガン、ニッケル、ストロンチウム、インジウム、リン鉱石、ひ素、白金属、カリウム、銅、コバルトが中国3位以内に入るというとてつもない埋蔵量を誇っています。銀鉱床も数知れず、です。

 なぜ、これほど鉱物資源が豊富なのかというと、インド大陸がアジア大陸に衝突した力でできたヒマラヤ山脈系の造山活動のためとのこと。ヒマラヤ山脈系列として雲南省北部からずーっと雲南省南部まで衝撃は伝わり、本来、あまり地殻表面には現れない物質が表に出てしまった、というわけなのです。

 そのため清の時代には貨幣価値が変動するほどの銅が雲南でとれ、また民国時代には、欧米列強が個旧の錫山目指して争奪戦を繰り広げた結果、鉄道をベトナムから敷設するという大事業が成し遂げられ、最近ではレアメタル、と世界経済を動かす鉱物の争奪戦地帯、という恐ろしい土地となっているのです。
(2009年10月1日読売新聞では、レアメタルより稀少な「レアアース(希土類)」が江西省を中心に中国が世界の生産量のほぼ97%を占める、という記事も。ハイブリッド車のモーターも江西省でしか採れないレアアースのディスプロシウムを獲得できないと、一台たりとも作ることすらできない状況になってしまうのだそうです。)
 ゲルマニウムをはじめ、レアメタル、レアアースの多くを日本は、中国の輸入に頼らざる得ない状況となっているというわけです。

(つづく。次号、この話が三七へと結びつきます。お楽しみに!)

コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする