雲南、見たり聞いたり感じたり

雲南が中心だった記事から、世界放浪へと拡大中

ツバメとコウモリ5

2013-12-28 14:17:33 | Weblog

写真は建水の富豪として有名な朱渭卿らが、清の光緒年間から30年間あまりかけて造った豪勢な邸宅。庭木が形よく植わった庭園や透かし彫りの施された建物などすべてに手間がかかり、年月を経た趣きが漂う。「朱家花園」との名で建水の中心部に今も、保存されている。

【ツバメの巣スナック(燕窩酥)】
 実際には食べてもおいしくはない建水のツバメの巣でも、そのことを知らない観光客、とくにツバメの巣は高級食材だとすり込まれている中国人にとっては、建水に行けば、「あの食材」を食べられるものと確信めいた期待が湧いてきます。

 その欲求に応えるためなのか、最近、建水名物として急浮上しているのが、「ツバメの巣スナック(燕窩酥)」です。見た目が白くてクルンと丸まっているあたりがツバメの巣にそっくり。
作り方は小麦粉(もしくは米粉)と砂糖をラードで練り上げて、薄い片にして油でサクサクに揚げたものですが、食感がよいことから建水の新たな名物となってきました。2006年に建水に行ったときは見かけなかったので、中国の観光客の食の期待値と、土産物で一儲けしたい現地の人の願望が形になったお菓子なのではないでしょうか。

ただ、いろいろとネット検索をすると、このお菓子は、建水の御菓子屋さんで100年以上前の清朝末期に生まれた建水特産品で、建水の城内で開業していた呉さんの経営する「栄香斎」が生み出したもの、としてまことしやかな誕生秘話まで紹介されています。

‘清の進士で、建水の名士として有名な朱渭卿が紅楼夢なみの宴会を催したときに呉さんも招かれて燕の巣のお粥をいただいた。その味に感激して「これはなんですか?」と問うと、朱渭卿は上機嫌で「おたくのお菓子とはだいぶ、違いますが、似たような形のものは作れるのではないですかな?」と作り方のヒントを教え、それをもとに編み出されたお菓子が燕窩酥、だという話。’

ご丁寧にも朱渭卿が建造した建水の歴史的観光地・朱家花園近くでツバメの巣スナックが販売されているとの解説もついています。

ところが私の調べたところでは建水で燕窩酥がさかんに宣伝されはじめるのが2007年、雲南で世界遺産に指定され、観光地としてもっとも有名な麗江でも2006年に街で見かけた特産品お菓子、として「燕窩酥」が紹介されている他、2012年には中国国営テレビのCCTVの人気料理番組「天天飲食」で重慶の冠生園というお菓子の有名店が近年編み出した創作菓子、として紹介されています。

 香港、桂林、杭州でもサクサクのパイ生地菓子の特産品として作られているので、パイ生地菓子の本場が西洋で、そちらの文化と中国料理との融合、と考えれば、西洋文化がいち早く取り入れられ、食文化の先進地域だった香港、桂林、杭州あたりから生まれた菓子が、近年、建水でブームになっている、と考えて、まず間違いなさそうです。

 雲南の食文化を考えていくと、必ず到達する特産品はじめて物語。たいてい、清の時代の進士が話の中に出てくるのは、権威づけの意味もあるのでしょうし、もし、物語が真実なら、文化人ゆえの博識が食に融合されている、ということなのでしょう。
 こうして、今も中国の食文化物語は、作られていくのです。
(つづく)

*本年もお読みくださり、ありがとうございます。来年こそはもう少し、簡潔に話を進めていきたいなと思っております。よろしくお願いします。
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ツバメとコウモリ4

2013-12-21 10:23:09 | Weblog

写真はタイ・バンコクの市場で売られていた中国料理の高級食材となるツバメの巣。おわんのような形をびっちりと重ねて並べ、丸いケースに収められて売られていた。
 
【ツバメの種類が違った!】
 これだけツバメの巣採りがさかんな地域なら中国料理の高級食材であるツバメの巣の産地として昔から有名だったに違いない、ことに西太后もよく食されていた珍味なので選ばれればさぞかし! と考えるのは自然でしょう。

中でもより珍重されたのが赤い巣で、これは岩石からの鉄分が含まれる場所で採取されるものなのだとか。となると、赤い大地の雲南の、建水にある燕子洞のツバメの巣は、一級品まちがいなし、と、地方志などを紐解いては調べたのですが、そのような記述は見あたりませんでした。

結論からいうと、ツバメにも様々いて、巣も様々なものがあったのでした。
我々がよく知る日本の軒先で見かける巣は泥や草、ワラを唾液で捏ねて作ったもの。これは、常識的に考えて、とてもじゃないけど食べられそうにありません。この巣はスズメ目ツバメ科のツバメのものです。

 一方、食用の巣は海沿いに生息するジャワアナツバメ(インドショクヨウアナツバメなどと呼ばれる)がつくるもの。アナツバメの巣は、ほぼ巣全体がオスの唾液腺の分泌物でできているのだそうです。
この唾液は、れんこんや魚の粘膜などに含まれる「ヌルッ」とした感触が特徴のムチンが主成分。それにシアル酸という、人間の初乳などに多く含まれる、ウイルスが体内に入るのを防ぐ効果があるとされる物質が含まれています。近年ではこれらの薬用効果も注目を集める理由となっているようです。

この、食用の巣を作る、小さな痩せたツバメが属するのがアマツバメ目アマツバメ科。生物学の分類で目の段階から系統が違うのですから、巣の性質がまったく違うのも当然といえます。

以前、日本のツバメの巣を見ながら、
「中国の人はツバメの巣を食べるというけど、一体、どうやって食べるんだろう」と思っていましたが、ものが違うというわけですね。

 そして残念ながら昆明周辺の富民や、雲南省中西部の建水のツバメの巣は、日本のツバメの巣に近く、泥や草を唾液腺で固めたもので食用には、まず不向きなものなのでした。

民国期に書かれた羅養儒著『雲南掌故』には、この地で採れるツバメの巣を「土燕窠」と呼び、「肉薄く、形も小さく、色も白くなく、なによりまずい。たいていの人は緬燕(東南アジア産のツバメ)の巣で腹を満たす」と書かれています。

では雲南のツバメの巣を採取してどうしているのかというと、昔から美肌効果のある泥パックとして人気があるのだそう。日本でいうところの「うぐいすのフン」のようなものでしょうか?
                         (つづく)
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ツバメとコウモリ3

2013-12-08 16:12:50 | Weblog
燕子洞の遊歩道。水面すれすれに歩くので迫力満点。

【イッテQにも】
 建水の燕子洞では1990年から毎年「ツバメの巣まつり(燕窩節)」が行われます。春、夏と洞窟を忙しく飛来する燕の巣を地元の人が立秋時期の8月8日から3日間、実際に採取する祭りです。高いところでは50メートルもある絶壁の暗がりに松明をともし、命綱もそこそこに登り、軽やかに移動していく様は「スリル満点のおもしろさ」と燕子洞のホームページでは謳っています。

このように祭り自体は3日間だけですが、派手な黄色や赤のポリエステルの半袖、ズボンの衣装を着た地元の人が、壁をゆっくりとつたうパフォーマンスは一年中、見られるそうです。

私はちょうどお祭りの日にいったのですが、各種パンフレットやホームページの宣伝とは裏腹に、驚くほどじみーに、現地の小柄なツバメの巣採りの名手と思われるおじいさんが大きな年季の入った籠を腰につけ、暗い洞窟の壁にへばりつくようにして、ひっそりと登り進んでいました。おそらく本人にはひっそりしていよう、という意志はないのですが、岩登りそのものは派手な演出をしなければ、意外と地味な行動なのです。

 最近では、観光客に保険料さえ払えば、鍾乳洞の壁のぼり体験ができるようになりました。日本のテレビの「世界の果てまでイッテQ!」でイモトアヤコさんが、この洞のぼりを体験していました。キリマンジャロ登山などの記録を持つことになる鉄人が、暗さと臭さと湿り気と高さの恐怖に泣きながら高い壁にしがみついて移動していたので、ご存じの方もいるのではないでしょうか。
(つづく)

*来週は更新をお休みします。
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