写真は建水の富豪として有名な朱渭卿らが、清の光緒年間から30年間あまりかけて造った豪勢な邸宅。庭木が形よく植わった庭園や透かし彫りの施された建物などすべてに手間がかかり、年月を経た趣きが漂う。「朱家花園」との名で建水の中心部に今も、保存されている。
【ツバメの巣スナック(燕窩酥)】
実際には食べてもおいしくはない建水のツバメの巣でも、そのことを知らない観光客、とくにツバメの巣は高級食材だとすり込まれている中国人にとっては、建水に行けば、「あの食材」を食べられるものと確信めいた期待が湧いてきます。
その欲求に応えるためなのか、最近、建水名物として急浮上しているのが、「ツバメの巣スナック(燕窩酥)」です。見た目が白くてクルンと丸まっているあたりがツバメの巣にそっくり。
作り方は小麦粉(もしくは米粉)と砂糖をラードで練り上げて、薄い片にして油でサクサクに揚げたものですが、食感がよいことから建水の新たな名物となってきました。2006年に建水に行ったときは見かけなかったので、中国の観光客の食の期待値と、土産物で一儲けしたい現地の人の願望が形になったお菓子なのではないでしょうか。
ただ、いろいろとネット検索をすると、このお菓子は、建水の御菓子屋さんで100年以上前の清朝末期に生まれた建水特産品で、建水の城内で開業していた呉さんの経営する「栄香斎」が生み出したもの、としてまことしやかな誕生秘話まで紹介されています。
‘清の進士で、建水の名士として有名な朱渭卿が紅楼夢なみの宴会を催したときに呉さんも招かれて燕の巣のお粥をいただいた。その味に感激して「これはなんですか?」と問うと、朱渭卿は上機嫌で「おたくのお菓子とはだいぶ、違いますが、似たような形のものは作れるのではないですかな?」と作り方のヒントを教え、それをもとに編み出されたお菓子が燕窩酥、だという話。’
ご丁寧にも朱渭卿が建造した建水の歴史的観光地・朱家花園近くでツバメの巣スナックが販売されているとの解説もついています。
ところが私の調べたところでは建水で燕窩酥がさかんに宣伝されはじめるのが2007年、雲南で世界遺産に指定され、観光地としてもっとも有名な麗江でも2006年に街で見かけた特産品お菓子、として「燕窩酥」が紹介されている他、2012年には中国国営テレビのCCTVの人気料理番組「天天飲食」で重慶の冠生園というお菓子の有名店が近年編み出した創作菓子、として紹介されています。
香港、桂林、杭州でもサクサクのパイ生地菓子の特産品として作られているので、パイ生地菓子の本場が西洋で、そちらの文化と中国料理との融合、と考えれば、西洋文化がいち早く取り入れられ、食文化の先進地域だった香港、桂林、杭州あたりから生まれた菓子が、近年、建水でブームになっている、と考えて、まず間違いなさそうです。
雲南の食文化を考えていくと、必ず到達する特産品はじめて物語。たいてい、清の時代の進士が話の中に出てくるのは、権威づけの意味もあるのでしょうし、もし、物語が真実なら、文化人ゆえの博識が食に融合されている、ということなのでしょう。
こうして、今も中国の食文化物語は、作られていくのです。
(つづく)
*本年もお読みくださり、ありがとうございます。来年こそはもう少し、簡潔に話を進めていきたいなと思っております。よろしくお願いします。