万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

中国モデルの「IT革命」は中国限定では?

2018年05月23日 17時21分48秒 | 国際政治
本日のダイアモンド・オンラインに「中国で「IT革命」が進んでいる3つの理由」と題する興味深い記事が掲載されておりました。この記事を読みますと、他国が‘中国モデル’を採用するのは、大変、難しいように思えます。

 同記事の分析に依れば、中国をして「IT革命」を躍進させた主たる要因は、(1)割り切り・切り捨て的な発想、(2)端末としてのスマホ+個人ID+銀行口座のリンケージ、(3)14億人の巨大市場を背景とした巨額資金の流入の3者なそうです。そのさらに奥には、習近平国家主席を頂点とする一党独裁体制における、強引とも言える国家戦略が潜んでいることは言うまでもなく、「IT革命」も、同体制を支える国家プロジェクトしての性格を帯びています。

 中国の目を見張るような躍進を前にして、「中国モデル」が全世界に広がるとの観測もありますが、これらの3つの要因を見る限り、このモデルは、中国限定のように思えます。何故ならば、3つの要因の何れもが、共産党中国という国家固有であるからです。

 第一に、(1)の割り切りや切り捨て的な発想は、中国人の実利的な国民性もありますが、共産革命によって一党独裁体制を樹立した同国との間に高い親和性を見出すことができます。共産主義では、自らが“過去の悪しき残滓”と認定したあらゆるものを廃絶する、あるいは、消滅させることには躊躇しませんし、むしろ、歴史や過去の否定を肯定的に捉えています。保守派のみならず、弱者への配慮を訴える勢力が存在する自由主義国では到底不可能な割り切りや切り捨てができるのも、中国の国柄によります。

 第二に、中国が実現した(2)のリンケージも、中国共産党による国民の徹底的な監視・管理という政治目的の下で推進されています。否、経済的利便性よりも、むしろ、政治的な有用性の方が、同システムが全国規模で敷かれた真の理由かもしれません。中国では、「物乞いをする人間ですらスマホを所持」しており、スマホを持たない自由がない、といっても過言ではないのです。また、様々な特典を提供することで、重要な個人情報を入力させているとも指摘されていますが、自由主義国であれば、個人情報保護の観点から反発や抵抗を受けることとなりましょう。

 そして、14億の巨大市場を背景とした巨額資金の流入も、中国ならではです。インドを除いては、中国に匹敵する人口規模を有する国はありません。しかも、中国では、政府の後援の下で、‘ネット業界の巨人’とも称される百度、アリババ、テンセントの3社が、海外資本をも含む潤沢な資金力を発揮して新興企業を次から次へと買収し、プラットフォーム型の独占と経済支配に邁進しているのです。

以上に述べたように、3つの要因が中国のみが揃えることができるとしますと、他の諸国がこのモデルを真似しようとしても、真似ができません。むしろ、目下、議論すべきは、中国モデルを自国に導入すべきか否かではなく、拡張する中国中心の経済圏に自国が飲み込まれる危機的事態の回避ではないかと思うのです。

よろしければ、クリックをお願い申し上げます。

にほんブログ村 政治ブログへにほんブログ村

コメント (4)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 米朝首脳会談はお流れでも悪... | トップ | 日大アメフト悪質タックル問... »
最新の画像もっと見る

4 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
スマホ決済は金融業を大きく変える (Unknown)
2018-05-24 14:08:54
日本では 銀行は一等地に豪華なビル、また銀行員も高価な服装,靴などを可能にする給与を支払うので、金利,手数料が高いのですが、日本では小商売での日銭金融という高利貸しに当たるものを中国ではなくすることになります。アリペイなどが、支払い状況から小口金融をするでしょう。小商売での仕入れ資金,賃金支払い資金などを。したがって小商売での起業が簡単になり、中には大きく発展するものも出てくるでしょう。そういう経済活動の活性化も狙っていると思います。
返信する
Unknownさま (kuranishi masako)
2018-05-24 20:38:40
 コメントをいただきまして、ありがとうございました。

 中国は、国策としてグローバル市場において圧倒的な競争力を持つ巨大企業を育てておりますし、通販市場も拡大しておりますので、小商売に関しましては、どれほど政府が支援を行うのか、疑わしい気も致します。雨後の竹の子のようにスモール・ビジネスが育っても、大手に買収されてしまい、フランチャイズ化する可能性もあるように思えます。今しばらく、動向を観察する必要があるのかもしれません…。
返信する
人口規模が大きい効果 (Unknown)
2018-05-25 04:33:14
東野圭吾氏の中国での印税は7億円,村上春樹氏は3億円です。両氏ともに日本での印税収入よりずっと多いのです。やはり人口規模が大きいことが影響しています。日本の作家は中国人の好み,趣味を考慮して書いたほうが儲かると思います。
電動自転車も小さな規模でしたが、今では大企業に成長しています。平壌でも電動自転車が普及してきています。やはり人口規模が大きいことは小商売でも大企業になる可能性があります。やはりアリペイなどの小口金融は日本でも見習ったほうが良いと思います。日銭金融という高利貸しのカモにするよりも。
返信する
Unknownさま (kuranishi masako)
2018-05-25 07:37:13
 コメントをいただきまして、ありがとうございました。

 Unknownさまは、中国の方と推察いたしますが、いかがでございましょうか。実のところ、Unknownさまのコメントの内容こそ、日本国が恐れ、警戒している事態ではないかと思います。規模のみを追求すれば、中国企業、並びに、その背後に控える中国共産党によって、日本国の経済・金融のみならず、日本文化までもが中国化してしまう事態です。中国は、こうした他国の警戒感を理解していないのではないでしょうか。
返信する

国際政治」カテゴリの最新記事