万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

国連の対北連絡窓口設置提案の狙いとは?

2017年12月11日 15時59分24秒 | 国際政治
訪朝の国連事務次長、北朝鮮高官に「連絡窓口の設置が急務」
軍事力行使も辞さずの米トランプ政権の構えを前にして、フェルトマン国連事務次長が北朝鮮を訪問し、李容浩外相に連絡窓口の設置を提案したと報じられております。その狙いは、果たしてどこにあるのでしょうか。

 国連側の説明に拠りますと、同提案の理由は、“関係国との衝突リスクを軽減するため”なそうです。この説明が正しければ、国連事務局は、連絡窓口の開設に、話し合い解決の最後の望みを託していることとなります。しかしながら、あくまでも核・ミサイル開発・保有に固執する北朝鮮が、これらの放棄を前提とした話し合いに応じるはずもなく、北朝鮮が話し合いの場に自ら姿を見せるとすれば、それは、既にICBMによる米国本土攻撃体制が完了した時点とする見方が有力です。この場合、連絡窓口の役割は、核・ミサイル保有を前提とした北朝鮮からの交渉提案の受け皿であり、アメリカとの交渉の橋渡し役となりましょう。狡猾な北朝鮮は、同連絡窓口を利用し、国連をバックにアメリカに対して譲歩を迫る展開ともなりかねないのです。

 あるいは、米朝間の偶発的な衝突を避けることが目的であるならば、これもまた、その効果は期待薄です。国連事務局は、米軍に対する指揮権を有していませんので、たとえ北朝鮮側から何らかの緊急連絡を受けたとしても、即応できるわけではありません。また、追い詰められた北朝鮮側が、軍事的戦略から先手を打つために奇襲をかけるに際しても、律儀に事前に国連に連絡するとは思えないのです。

 一方、報道の説明とは異なり、連絡窓口の開設は、米軍による軍事力の行使を前提として、北朝鮮に対して“降伏”の斡旋ルートの提供を含意しているのかもしれません。この目的であれば、開戦に先立って北朝鮮が白旗を上げる場合、並びに、開戦後に至り、戦局の悪化から降伏を申し出る場合の何れであっても、窓口を有する国連事務局は、アメリカ側に北朝鮮の降伏の意思を伝えるメッセンジャーの役割を担うと共に、戦後処理にも口を挟むチャンスを得ることにもなるのです(独裁体制の温存など、北朝鮮、あるいは、中ロに有利な提案をするかもしれない…)。

 何れにしましても、国連は、現在、北朝鮮情勢への関与を強めているのですが、その行動自体にも疑問がないわけではありません。国連に対する中ロ勢力の組織的浸透は既に指摘されており、国連事務局の動きは、必ずしも中立的であるとは限りません。また、北朝鮮の行動は、国連憲章第6条の除名処分に相当し、かつ、安保理でも既に制裁決議が成立しているにも拘わらず、制裁強化とは逆方向の宥和的な雰囲気が漂っているのです。北朝鮮が核・ミサイル開発・保有計画を放棄すれば、問題はいとも簡単に解決するにも拘わらず、何故か、両者は、「現在の状況が今日の世界で最も緊迫し、危険な安全保障問題である」との認識で一致したとも伝わります。フェルトマン氏は、北朝鮮に対して責任を問うこともなく、時間をかけた外交交渉による解決こそが唯一の道と語ったようですが、これでは、何らの圧力にもならず、北朝鮮の時間稼ぎに貢献することとなりましょう。

 加えて、国連=国連事務局ではありませんので、事務総局や事務総長権限による連絡窓口の設置提案では、具体的行動を取るための執行力も伴わず、北朝鮮問題の根本的な解決には繋がりません。平和的解決、しかも、話し合い解決を最優先とするばかりに、独裁国家北朝鮮に有利な状況を作り出すようでは、国連の本来の目的からしますと、本末転倒となりかねないと思うのです。

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