万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

陰謀論をめぐる理性vs.感情の問題

2024年03月26日 12時19分52秒 | 国際政治
 報道に依りますと、先日、英国皇太子妃が自らががんを患っていることを公表する動画ビデオを公開したところ、SNSなどで、生成AIによるフェイク動画説やワクチン・ターボがん説などの‘陰謀論’が沸き起こっているそうです。先だって公開された家族写真における修正の指摘に端を発したビデオ公開であったのですが、むしろ、疑惑が深まってしまったようなのです。

 公表されたビデオ画像には、確かに不自然さがあります。SNSのユーザーの人々が指摘している通り、野外の撮影ですので、当然、背景に写る木々や花々は風に揺れるはずなのですが、微動だにしていません。別の場所で撮影した動画の背景だけを入れ替えたのではないか、とする疑いも、あながち否定はできなくなります。とりわけ生成AIはこうしたフェイク動画の作成を技術的に可能としていますので、陰謀説、あるいは、フェイク説の主張にも合理的な根拠がないわけではないのです。

 ところが、同ニュース、YAHOOニュースでも配信され、多くのコメントが寄せられているのですが、その中に、驚くことに1.3万人もの圧倒的数の「共感した」を獲得したコメントありました。同コメントとは、「あの動画をAIだと言う人は絶対出てくると思っていた。確定的な自信や証拠があるなら別だけど、そうじゃないなら、カウンセリング受けた方が良いと思う。闘病中の女性を傷つけている可能性に思い至らないなんて人間としてとして虚しすぎるよ」というものです。

 このコメント、いささか問題含みのように思えます。何故、問題となるのかと申しますと、そもそも、日本国内にあってイギリスの王室の記事に1.3万もの数の「共感した」が押されたこと自体が不自然でもあるのですが(この数字、1.3万ジャストですので、千単位以下は切り捨てられているのでしょうか・・・)、以下の点で、自由な議論を阻害したい思惑が透けて見えるのです。

 第一に、同コメントの投稿者は、最初の一文において、AI作成説の出現を確信しています。‘絶対に出てくると思っていた’と述べているのですから。ということは、本人も、同動画の不自然さについては気がついており、この書き出しは、敢えて先手を打って‘陰謀論’への発展を抑えようとする強い意志が読み取れます。

 第二に、‘確定的な自信や証拠があるなら別’とも述べていますが、実際に、SNSのユーザー達は、フェイク説や陰謀説を主張するに際して、スロー再生の動画を提供するなど、具体的な根拠を示しています。しかも、上述したように、動画の背景のみが静止しているのは、誰もが確認できる事実です。提示されている明確な根拠を無視しているわけですから、投稿者は、鼻から議論をするつもりもなく、否、一方的に議論を遮断しているのです。

 第三に、「カウンセリング受けた方が良い」という表現は、相当に侮辱的、あるいは、挑発的な表現です。専門家による診断や治療を要するほどに、SNSのユーザー達は、精神に異常をきたしている(頭がおかしい)と言っているのですから。SNSのユーザー達は、動画に対する客観的な分析に基づいて疑問点を述べているのですから、理性的に対応しているのは、むしろSNSユーザーの人々です。

 そして、第四に指摘すべきは、最後の一文となる「闘病中の女性を傷つけている可能性」に思い至らないなんて人間としてとして虚しすぎる」という言葉の狡猾さです。病身の女性を慮っているようにも聞えるのですが、その実、この言葉は、第三点と同様にSNSのユーザーの人たちに対する人格攻撃を意味します。人格攻撃とは、しばしば、正当な議論から逃げるための手段でもあります。つまり、自らを道徳的な高みに置きつつ、周囲の人々の感情に訴え、したり顔で正当な意見や批判を排除しようとしているのです。このような感情に訴える態度は、巧妙な言論封じと言えましょう。それが、如何に自らにとって耳痛い、あるいは、不都合であっても、他者の意見に誠実に耳を傾け、理解しようとする方が、余程、人間的なのではないでしょうか。

 以上に述べてきた諸点からしますと、同投稿者は、感情論・同情論をもって陰謀説を封じる明確なる意図をもってコメントを投稿したものと推測されます(1.3万人数は、組織的同調圧力・・・)。そして、ここに、何故、コメント欄を利用しても陰謀説を封じなければならなかったのか、という別の問題も浮かび上がってくるのです(つづく)。

この記事についてブログを書く
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 自国民ファーストこそ民主主... | トップ | 王室皇室の情報公開と陰謀説 »
最新の画像もっと見る

国際政治」カテゴリの最新記事