万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

中国の対北制裁デットラインこそ警戒すべきでは

2017年04月28日 09時50分13秒 | アジア
核実験なら独自制裁=中国が北朝鮮に警告
 北朝鮮が狂気に駆られた暴力主義国家であるとしますと、その後ろ盾である中国は、したたかな無法国家と表現すべきなのかもしれません。緊迫する朝鮮半島情勢を前に、その中国は、制裁に関するデッドラインを北朝鮮に伝達したそうです。

 中国が示したデッドラインとは、”北朝鮮が、再度、核実験を実施したならば独自制裁を科す”というものです。この意味するところを読み解きますと、中国は、自国、並びに、北朝鮮のために姑息な逃げ道を造っているとしか考えられないのです。

 第1に、中国は、対北制裁の条件として核実験の実施を一方的に設けております。北朝鮮に対して独自制裁を宣言しているのですから、この条件付けは、中国が北朝鮮に対して厳しい態度で臨むと共に、アメリカの要請にも応えているように聞こえます。しかしながら、中国側のデッドラインは核実験の再開ですので、北朝鮮が何もしない限り、中国も何もしないことを意味します。つまり、このデッドラインは、中国による対北支援に逃げ道を与え、アメリカから要求されている制裁強化を体よく回避しているのです。中国が、注目されている石油輸出の完全停止に踏み切るとも思えません。

 第2に、年当初の核実験は水爆実験とされていますが、今後に計画されいる核実験とは、核兵器の破壊力の増大を目的としたものと推測されます。現状として北朝鮮が、水爆より威力は劣るものの、各方面から指摘されているように数十発程度の通常の核兵器を既に保有しているならば、結局、北朝鮮の核保有は既成事実化されます。中国のデッドラインは、北朝鮮による核保有の容認を意味しかねないのです。

 第3に、中国からの”警告”は、北朝鮮にとっては”渡りに船”であり、核実験を停止している間は、準備期間となり得ます。ロシアやその他友好諸国との関係を強化し、国際的制裁網からの抜け道を確保すると共に、生物化学兵器、大型潜水艦、長距離弾道ミサイル技術など、核以外の分野における軍事力増強に専念する時間的猶予が生まれます。中国のデッドラインは、北朝鮮の軍事的脅威を逆に高める結果も予測されるのです(*29日に北朝鮮は、中距離ミサイルの発射に失敗しましたが、核実験再開でなければ制裁を免れると判断したのでは…)。

 第4に、中国のデッドラインは、アメリカの先制空爆を牽制する意図も隠されているかもしれません。国際社会に対して、中国が対北制裁に積極的な姿勢で臨み、かつ、北朝鮮が核実験を実施していないにも拘わらず、単独で対北空爆に踏み切ったとして、アメリカを非難するための布石を置いているとも考えられるのです。もっとも、中国の批判に同調するよりも、北朝鮮が独裁体制の下で核を保有しているという現実を直視すれば、アメリカの空爆を支持する諸国の方が数において優るものと予測されます。

 第5として、北朝鮮は、核実験を経ずして、他国を核ミサイルで攻撃する可能性も否定はできません。つまり、制裁を受ける前に、北朝鮮は、甚大な被害を他国へ与えるかもしれないのです。実際に北朝鮮は、中距離ミサイルによる核攻撃を示唆することで、日本国を含む周辺諸国を威嚇しています。”遅きに失する”ということにもなりかねないのです。

 以上から、米軍による空爆を含めた北朝鮮問題のデッドラインを核実験の再開に定めたい中国の思惑が浮き上がってきます。果たして、国際社会は、中国が暗に設定したデッドラインにに追随するのでしょうか。中国の思惑通りにデッドラインが定まれば、朝鮮半島情勢は膠着状態に陥り、米軍は、朝鮮半島に釘付けとなりましょう。時間の経過が北朝鮮優位に情勢を傾かせるとしますと、アメリカのトランプ政権が、中国の対応に満足するとは思えないのです。

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