万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

中国は南シナ海から名誉ある撤退を

2016年07月14日 15時07分57秒 | 国際政治
「緊張高める」と中国批判=南シナ海人工島への飛行―米
 今月12日に示された南シナ海問題に関する仲裁裁定に対して、中国は、あくまでも無視を決め込む意向のようです。しかしながら、当判決により、中国は、南シナ海全域に対する法的根拠を失ったのですから、これまでと同様の既成事実化作戦がとれるはずもありません。

 中国贔屓の識者からは、中国が仲裁裁定を無視したところで、何も起こらないとする楽観的な見解も示されています。しかしながら、中国の仲裁裁定無視が、国際法秩序の破壊に加えて、南シナ海における違法な軍事要塞化の完成と、全域に対する中国の主権的管轄権の成立を帰結する限り、国際社会が黙認するとは思えません。特にスプラトリー諸島においては、中国が軍事要塞化を図っている諸礁は、何れも武力で奪うか、一方的に占領したものです(例えば、1988年のスプラトリー諸島におけるベトナムとの海戦…)。今般の裁定は、中国が、国際法上の法的権原なくしてこれらの諸礁を不法に占領している現状を法的にも明確にしましので、中国には、同諸礁から撤退し、原状回復を行う義務が生じます。乃ち、中国は、原則として、造成した人工島を解体するとともに、駐留している軍や民間人を引き揚げさせなければならないのです。つまり、中国が現状を維持することさえも、違法行為となるのです。

 中国による南シナ海の軍事拠点化は、中国本土から遠距離にあるという点から、防衛的な目的であるはずもなく、”中国の夢”の実現、即ち、アジア一帯における支配圏の確立と海洋支配であることは疑いようもありません。いわば、”世界支配”を狙った戦略の一環であり、しかもそれは、国際法に違反して遂行されているのです。となりますと、仮に中国が仲裁裁定を”紙くず”として破り捨てますと、国際社会は、この行為を国連憲章違反とみて(義務不履行は国連海洋法条約違反でもある…)、当然に、経済制裁を含め、中国に仲裁裁定を履行せしめるための動きを強めるものと予測されます。また、仮に、武力による強制執行が行われた場合でも、仲裁裁定が存在する以上、たとえ安保理決議が成立しなくとも、それは、国際法上、合法的な行為と見なされることでしょう。

 中国が、歴史に汚名を残さない唯一の方法は、南シナ海からの名誉ある撤退を決断し、自発的に実行することです。それとも、あくまでも軍事力で”中国の夢”を実現する道を選ぶのでしょうか。決断の時期は迫っていると思うのです。

 よろしければ、クリックをお願い申し上げます。


にほんブログ村

 
 

この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 南シナ海仲裁裁定の重大な意... | トップ | 南シナ海仲裁判決ー誰が公海... »
最新の画像もっと見る

国際政治」カテゴリの最新記事