万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

NPTが悪で核武装が善では?-第三次世界大戦の抑止

2024年06月17日 12時03分35秒 | 国際政治
 本日6月17日の東洋経済オンラインにおいて、第三次世界大戦の可能性について、池上彰氏が‘第三次世界大戦が起きない理由’を語る記事が掲載されておりました。同氏の説明に因りますと、ロシア・ウクラナ戦争であれ、イスラエル・ハマス戦争であれ、軍事的な抑止力によって第三次境大戦への連鎖的拡大が制止される、ということのようです。ところで、この見解は、幾つかの重要な真実を暴露しているように思えます。

 第一の真実は、戦争の最大の抑止力は、核兵器であるというものです。NATO諸国がロシアと直接に戦う事態に至れば、当然にロシア・ウクライナ戦争は、集団的自衛権の発動により第三次世界大戦へと発展することが予測されます。しかしながら、このNATO参戦は、ロシアによる核兵器使用の脅迫によって封じられているというのです。言い換えますと、ロシアの核兵器が第三次世界大戦を防いでいるのであり、核兵器の保有は、絶対悪ではなく、現実にあって平和に貢献していることとなります。

 その一方で、イスラエル・ハマス戦争については、核兵器ではなく、アメリカが地中海に派遣した二隻の空母の地中海展開がイランの参戦を防ぐ役割を果たしているとしています。ロシアとは異なり、国際法を遵守する立場にあるアメリカは、露骨に核兵器の使用を示唆できませんので、通常兵器が抑止力を発揮しているのです。もっとも、本当のところはイスラエルが密かに保有する核がイランの動きを抑えているのかもしれませんし、イランも秘密裏に核開発に成功していたとすれば、両国の間で核の相互抑止力が働いたのかもしれません。

 第二の真実は、核兵器国と非核兵器国との間で戦争が起きた場合、通常兵器による戦争が長期化するというものです。池上氏は、‘第三次世界大戦は起きない’としながらも、‘両戦争が収束に向かう’とも、‘程なく和平が成立する’とも述べていません。実際に、両サイドから和平の提案が試みられ、実際に和平会議等が開かれておりますが、両当事者が同じテーブルに着く直接交渉の場さえ実現していません。第三次境大戦の回避=戦争の終結ではないのです。

 しかも、通常兵器による戦争にあっては、戦争を終わらせる決定権を持つのは、事実上、核保有国のみです。NATOの軍事支援により、たとえウクライナが戦局を優勢に展開したとしても、最終的には、戦術核であれ、戦略核であれ、ロシアの核兵器使用によって情勢をひっくりかえされてしまいます。しかも、核攻撃の対象はウクライナ領内となりましょうから、仮にNATOが報復として核による反撃に及んだとしても(自国に対する核攻撃の可能性を考慮すれば、必ずしも核による反撃が行なわれるとも限らない・・・)、最初の核による一撃を受けるのはウクライナなのです。この残酷な真実は、非核保有国の不条理で悲劇的な立場をよく表しています。

 これらの二つの真実が偽らざる事実であれば、NPT体制こそ、核兵器国と非核兵器国との間、あるいは、非核兵器国間において戦争を引き起こすとともに長期化させる悪しき要因であり、むしろ核兵器の保有こそ、戦争を回避する最大の手段と言うことになりましょう。非核兵器国も核兵器を保有すれば相互抑止力が働いて、何れの諸国も、最早、戦争に訴えようとはしなくなります(少なくとも、完璧なミサイル防衛システムあるいは専守防衛用の指向性エネルギー兵器が配備されるまでは・・・)。人の理性に照らせば暴力は悪なのですから、戦争そのものが基本的には悪である以上(たとえ正当防衛としての自衛戦争であっても、無辜の人々が犠牲となり、国土が荒廃し、かつ、国内では戦時独裁体制に移行しかねない・・・)、絶対悪と見なされてきた核兵器であっても、それを防ぐ手段を善とする見方もあり得ましょう。この結論は、論理的に間違ってはいないように思えます。

 そして、第三の真実は、回避あるいは防止する手段や機会がありながら、何故か、戦争が‘起きてしまう’と現実です。このことは、政治家というものが恐ろしく愚かであるのか、あるいは、戦争が意図的に計画されているかのいずれかであることを意味します。第三次世界大戦も、それが仮に起きるとすれば、戦争ビジネス並びに世界支配を目的とする後者である可能性が極めて高いのではないかと思うのです。

この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 日本国は核武装・中立政策へ... | トップ | 中国の核自衛論は日本国の核... »
最新の画像もっと見る

国際政治」カテゴリの最新記事