万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

GXとはグローバル環境利権なのか

2023年01月18日 13時21分03秒 | 統治制度論
 日本国政府をはじめとして世界各国の政府が推進しているGXには、疑って然るべき点がいくつもあります。その筆頭となるのが、現段階では、ゼロカーボンの目標を達成するためのテクノロジーが存在していないという代替技術不在の問題です(未来技術のスケッチを見せられているに過ぎない・・・)。この件については、昨日の記事で沈没船のたとえ話として説明したのですが、さらにお話を膨らせますと、GXはなおさらに怪しくなってまいります。

 昨日の記事のたとえ話とは、「嵐が来ると脅かす船長が、危険であるからといって新しい船への乗り換えを乗客に勧め、渋る乗客に対してはさらなる乗船料の支払いを強要したものの、いざ、乗客達が代わりの船に乗り移ろうとしても、新しい船は遥か遠くにその船影が見えているに過ぎないようなもの」というものです。このお話では、船長の意図は嵐による遭難を回避し、乗客の命を救うところにあると推測されます。しかしながら、必ずしも、船長の意図は、船長としての使命感と人としての良心に基づく人命救助ではない可能性もないわけではありません。

 それでは、どのような場合には、船長の善意が疑われることとなるのでしょうか。こうした疑いが生じるケースとは、本当のところは、間違いなく絶対に船を転覆させるような嵐が来るわけでも、乗り換えるべき新しい船があるわけでもない場合です。この場合、船長は、乗客の命を救うように見せかけながら、乗客から高額の乗船料を徴収し続けることができるからです。つまり、乗客達は、新しい船が到着するまでの間、高額の乗船料を払い続けなければならないのです。

 このたとえ話をGXに当てはめてみますと、GXを推進している側は、二酸化炭素によって地球温暖化が進み、必ずしも人類が生存できない状態に至るわけではないことを知りながら、マスメディアなどを介して大々的に地球温暖化の危機を宣伝していることとなります。そして、地球温暖化による人類滅亡を回避するために、即座にGXに移行するように人々に訴えているのです。カーボンプライシングの制度も、既存の設備や製造方法を維持している企業に対してはコスト負担を重くする、GX促進装置に他ならないのかもしれません。

 実際に、現在の技術は、GXの目標を達成できるほどのレベルに至っていません。幾つもの超えなければならない壁が立ちはだかっているのです。この結果、企業の側は、二酸化炭素の排出量を減らしたくても手段がなくて減らせない状態に置かれ、結局、GXを推進する側が描く未来技術が実現する日が訪れる日を待ちながら、炭素税を納め続けると共に、排出権取引市場にあって排出権を高額で購入し続けなければならなくなるのです。

なお、排出権取引制度では、初期条件として大きな排出枠を割り当てられた企業は労せずして‘濡れ手に粟’となるものの、僅かな枠しか配分されなかった企業には、常に重いコストがのしかかります(公平な排出枠の配分は困難では・・・)。このため、同制度は、‘地球を救う’という大義名分の下で、搾取の一種となりかねないリスクを内包していると言えましょう。そして、GXを推進する側は、内心にあってはゼロカーボンの実現を望んではおらず、永遠に排出権取引市場から利益を吸い上げたいと考えているのかもしれません。空気に交換価値が付与され、それが取引市場の開設により莫大なお金を生み出すのですから。

 ここに、GXの推進に対しても、警戒すべき理由を見出すことができます。地球温暖化の真偽については科学的な検証を要しますし、何よりも、現状にあって、安価で安全、しかも安定供給し得る技術もなく、永続的に一部の環境利権を持つ勢力を利するシステムとなりかねないのですから。この指摘はGXに内包するリスクの一つに過ぎませんが、真に枯渇が予測される化石燃料の使用を減らし(地球温暖化とは無関係・・・)、新たなエネルギー源を求めるならば(‘善意の船長’のケース)、まずは、代替技術の確立を急ぐべきと言えましょう。仮に150兆円を投資するのならば、その全額を官民の技術開発に投資すべきですし(あるいは、現段階では150兆円規模の投資を必要としない・・・)、同技術が実用化するまでは設備投資は控えるべきかもしれません(企業は、借金地獄に落ちかねない・・・)。そして、省エネ製品を普及させたいならば、開発費への支援として中小企業を含めた税負担の軽減をはかるべきなのではないでしょうか(負担増のみを意味するカーボンプライシングはもっての他・・・)。

 GX移行推進法案につきましては、年末に短期間で纏められたとも報じられていますが、本当のところは、カーボンプライシング制度の導入などは既にグローバルレベルでは決定済みであり、日本国政府は、同決定の‘執行機関’に過ぎないのかもしれません。折しもスイスでは、世界権力の‘フロント’もされるダボス会議の年次総会が開催されており、気候変動対策やエネルギー安全保障についても議題となるそうです。日本からの出席者としては、河野太郎デジタル相の名が上がっていますが、いよいよもって、GX移行推進法は怪しいのではないかと思うのです(つづく)。

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