万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

本当は米朝首脳会談では解決しない‘核問題’

2018年06月10日 14時13分44秒 | 国際政治
 本日の日経新聞の朝刊一面には、日本国政府がプルトニウムの保有量を削減するようアメリカから要請を受けているとする記事が掲載されておりました。プルトニウムは核兵器の原料となるため、核拡散の防止がその理由となりますが、この記事、北朝鮮の核問題が一筋縄ではいかない複雑性を秘めている現実を物語っております。何故ならば、北朝鮮の非核化問題は、表面に現れた国際社会における‘核問題’の一部でしかないからです。

 アメリカとしては、北朝鮮に対してCVIDによる「完全な核放棄」を強く求めた手前、同盟国を含め、全ての諸国が核兵器を保有するリスクを排除しなければ公平性に欠ける、ということなのでしょう。あるいは、米朝間の事前交渉において、「完全な非核化」の受け入れ条件として、北朝鮮側、あるいは、その背後に控える中国が、朝鮮半島のみならず、日本国をも潜在的な可能性も含めて‘非核化’するようアメリカに要求したのかもしれません。何れにしても、アメリカとしては、ダブル・スタンダードを避けたことになります(もっとも、最悪のケースは、米朝首脳会談でアメリカがCVIDを徹底できず、北朝鮮の核保有を事実上認める一方で、日本国だけが‘非核化’されてしまう展開…)。

 ところが、この問題は、これで決着しそうにはありません。第一に、たとえ北朝鮮の「完全な非核化」が実現したとしても、非核保有国が核で脅迫されたり、実際に核攻撃を受けるリスクは‘ゼロ’とはならないからです。核保有国である中国やロシアは、国際法を順守する意思も、核による先制攻撃の可能性も否定してはいませんし、実際に、中国のミサイル基地に配備されている核兵器は、日本国の主要都市等に照準を合わせているとする指摘もあります。日本国に限らず、中国の周辺諸国にとりまして、同国の核は常に安全保障上の脅威なのです。つまり、現行のNPT条約は、非核保有国に対しては厳しい一方で、核保有国に対しては極めて‘甘く’、核保有国の行動規範、あるいは、外部的な監視体制を強化しないことには、非核保有国は、自らが核の脅迫や攻撃を受けるリスクから逃れることができないのです(本来、核兵器禁止は、核保有国の脅威を解消させた後、NPTの改正によって実現すべきであった…)。

 第二に、国連安保理常任理事国以外に存在する、‘事実上の核保有国’の問題があります。アメリカが、ダブル・スタンダードの排除を徹底するならば、イスラエル、インド、並びに、パキスタンに対しても、非核化を求める必要があります。イランの核開発は、イスラエルに対する対抗措置として理解されていますが(不思議なことに、イランは、何故か、イスラエルの核保有を自国の核開発の根拠として強く主張していない…)、国境を接しているか否か、あるいは、対立関係の如何に拘わらず、非核保有国は、公式の核保有国の他にも、非公式の核保有国からの核の脅威に晒され続けることとなるのです。

 来る6月12日において、北朝鮮のCIVDによる「完全な非核化」に目途が付いたとしても、それは、核問題の幕引きとはならず、非核保有国への核拡散防止が表面であれば、その裏面である‘核保有国問題’に国際社会は向き合わざるを得なくなります。日米ともに、‘ポスト北朝鮮問題’、即ち、‘悪しき核保有国問題’に対してどのように対応するのか、戦略を練り合わせる必要があるのではないでしょうか。

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