先日発生したイスラエル、並びに、米軍によるイラン攻撃は、イランによる核開発の阻止を目的として行なわれました。両国に対する非難の声は止まず、同攻撃を決断したとされるトランプ大統領も釈明を迫られることともなりました。ところが、この釈明、広島並びに長崎の原爆投下を正当化してきた‘戦争早期終結論’であったことから、少なくとも日本国内では、火に油を注ぐ状態ともなっています。そしてこの発言、NPT体制の崩壊をさらに加速させるのではないかと思うのです。
このように考える理由は、同発言は、戦争における勝敗の最大かつ最終的決定要因は、核保有の有無にあることを白日の下にさらしてしまっているからです。そもそも、何故、イスラエルが対イラン攻撃を急いだのか、と申しますと、イランによる核保有が、中東におけるイスラエル優位体制を揺るがし、自らの安全保障を脅かすからに他なりません。言い換えますと、イスラエルは、国際社会からの批判を十分承知の上でイランを攻撃せざるを得ない立場に置かれていたことを示しています。核兵器の保有こそが国際社会における軍事バランスを固定化し、国家間の軍事的優劣の決定要因であるとする認識なくして、イスラエル、並びに、同国に手を貸したアメリカの決断はあり得なかったことでしょう。この文脈からすれば、トランプ大統領の上記の発言も、戦争の早期終結と言うよりは、‘イランの戦争遂行能力あるいはイスラエルと並び得る力を破壊した’という意味合いとして理解されます。
核保有国の認識が核保有のもたらす絶対的優位にある一方で、逆の立場からしますと、現状は、決して望ましいものではありません。NPTにおいて核保有を認められていない非核兵器国にとりましては、軍事的な絶対的劣位を意味するからです。核保有国を‘極’として国際社会全体を見れば、NPT体制とは、極少数の諸国のみが核を保有する多極構造であり、それは、主権平等の原則を有名無実化させているとも言えましょう。核保有国から核の傘の提供を受けている同盟国も、それが喩え条約の文面において双務条約であったとしても、軍事力のパワー・バランスにおいては決して対等な関係とはならないのです。
しかも、非核兵器国は、ヒエラルヒーにおいて下位に置かれるのみならず、攻撃を受けるリスクも高まります。また、相手国が核保有国の場合、通常兵器において戦局が優位に展開しても、核兵器の使用により瞬時に優勢は覆されてしまうのです。この点は、既にウクライナ戦争で指摘されています。‘持たざる側’は核の抑止力を欠いており、無力と言えるほど、‘持つ国’に対する抑止力が脆弱なのです。この文脈からすれば、トランプ大統領の先の発言は、先に核兵器を開発・保有した側の勝利宣言にも聞えてきます(核保有国の先手必勝・・・)。第二次世界大戦にあっても、末期における日本国を含む激しい原子爆弾開発競争の結果、同競争を制したアメリカが勝利を手にしているからです。第二次世界大戦では核兵器が実際に使用されましたが、核を使用しなくとも、相手国を核を持たない状況に置いておけば、それは、自ずと自国の勝利を意味するのです。
理不尽までに核保有国が有利となる今日の国際社会に鑑みれば、NPT体制は、論理上、既に破綻しているとも言えましょう(支離滅裂になっている・・・)。NPTから脱退すれば、条約違反を根拠とした攻撃リスクがなくなりますので、非核保有国にとりましてはより安全であり、かつ、核保有国に対する抑止力を備えることができるからです。イランがNPTからの脱退を宣言しても、最早、誰も驚かないことでしょう(ただし、条約の手続き上は三ヶ月前に国連安保理に対して理由を付して脱退を通知する必要がある・・・)。
もっとも、トランプ大統領の発言をよそに、イランは、イスラエルに対して勝利宣言を行なっていますし、イランの核施設に対する重要部分を温存させた攻撃、並びに、イランからの在カタール米軍基地への報復攻撃もどこか中途半端な観もあります。急転直下、イスラエルとイランとの間には停戦の合意も成立しており、どこか申し合わせたパフォーマンスのようにも見えてくるのです。イランがNPTからの脱退を表明しなければ、さらに怪しさが増すことでしょう。今般の一連の出来事は、戦争ビジネスや石油利権を握り、核独占体制を維持したいグローバリストの茶番劇である可能性も排除はできず、真相を見極めるには、各国の今後の動向を注意深く観察する必要がありましょう(つづく)。