万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

日中平和友好条約を踏み躙る中国-40周年を祝うより遵守要求を

2018年10月25日 10時49分38秒 | 国際政治
日中平和友好条約40年 関係改善加速させる考え
本日10月25日、安倍晋三首相は中国を公式に訪問し、翌26日には習近平国家主席と、並びに、李克強首相との会談に臨む予定です。今年は、日中平和友好条約の締結から40年を迎える節目の年でもあり(1978年10月23日発効)、安倍首相も、日中関係改善の流れを改善させたい意向を示しています。いわば、日中平和友好条約40周年記念が訪中の意義として強調されているわけですが、それ程同条約が重要であるならば、今般の訪中の目的は、日中友好の深化であるはずもありません。それは、同条約の条文を読めば容易に理解されます。

 まず、日中平和友好条約の第1条には、以下の如くに記されています。

「1.両締約国は、主権及び領土保全の相互尊重、相互不可侵、内政に対する不干渉、平等及び互恵並びに平和共存の諸原則の基礎の上に、両国間の恒久的な平和友好関係を発展させる。
2.両締約国は、前記の諸原則及び国際連合憲章の原則に基づき、相互の関係において、全ての紛争を平和的手段による解決し及び武力又は武力による威嚇に訴えないことを確認する。」

果たして、当該条約の締約国である中国は、これらの条項が定める行動規範を誠実に守って行動しているのでしょうか。同国は、昨今、トランプ大統領が指摘したため政治問題化したアメリカのみならず、日本国に対しても、政界、財界、官界、学界、教育界、マスメディア、あるいは、宗教界等における様々なルートを巧みに操って、積極的に内政干渉を試みています。尖閣諸島問題に至っては、堂々と武力による威嚇に訴えており、非平和的手段による解決を目指しているのが現状です。そもそも、中国が同水域において軍事的行動を採らなければ、今般の訪問における‘目玉’の一つとされる「海空連絡メカニズム」の創設など必要がなかったはずなのです。

また、続く第2条は、反覇権の原則を定めています。

「両国は、そのいずれも、アジア・太平洋地域においても又は他のいずれの地域においても覇権を求めるべきではなく、また、このような覇権を確立しようとする他のいかなる国又は国の集団による試みにも反対することを表明する」

中国が、同条に違反していることも明白です。習主席は、オバマ政権時代に米中太平洋二分割をアメリカに持ちかけていますし、一帯一路構想とは、アジアのみならず、ユーラシア大陸さえをも越えて全世界に中国の覇権を確立する試みに他なりません。

 日中平和友好条約は5条から成り立っていますが、行動規範に関する最重要な部分を構成する第1条と第2条において中国側に重大な違反があるにも拘わらず、同条約の40周年を祝うのは、本来の姿とは真逆です。日中関係の基幹となる同条約でさえ蔑にされているのですから、一事が万事、今般の首相訪中で如何なる合意が成立したとしても、中国がそれを誠実に遵守する保証はどこにもありません。安倍首相が北京にあって中国側に強く求めるべきこととは、中国側が日中平和条約の基本精神へ回帰し、それが定める行動規範に従うことなのではないでしょうか。

南シナ海問題で露呈したように、中国は順法精神に欠ける無法国家であり、かつ、自国を世界の中心と見なす中華思想の国家です。先日、INF全廃条約からの脱退理由として、トランプ米大統領はロシア側の違反を挙げましたが、二国間条約における一方の条約違反は看過できない重大問題です。中国側が日中平和条約に違反している限り、経済分野と雖も、国際法違反に対する制裁を検討する、あるいは、米中対立にあって同盟国としてアメリカと歩調を合わせこそすれ、日本国の名誉にかけても、中国の違法、並びに、反倫理的な行為に手を貸すような協力関係は、ゆめゆめ築いてはならないと思うのです。

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4 コメント

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安倍信者が頑固な盾になっています (ベッラ)
2018-10-26 03:40:14
こんにちは、倉西先生、素晴らしい掘り下げです。
私は安倍首相のあまりにも増長した傲慢で独りよがりの
政策がずっと続いてきていたことに何年も気になっていました。
今回も阿比留などというジャーナリストが安倍擁護しています。
私は安倍談話・日韓合意はもとより、とんでないことを
とんでもないと言い続けてきました。

しかし安倍信者は「今、安倍を打倒してどうする?」
と話が飛躍する限り、安倍さんに真の忠告など
政権与党や安倍信者には期待できませんでした。

「マスコミが悪い」といいますが、私に言わせれば
異常に「安倍擁護」し、安倍を批判したり忠告する
チャンスを奪ってきたように思えます。

今回のチャイナ行は、世界からも一切支持されないでしょう。こうして安倍さんの驕りを放置またはおかしな
信心のようなもので擁護し、異なる意見を抑えつける
保守系チャンネルの責任者をはじめ、擦り寄る政治家の「公認欲しさの保身」、安倍さんには個人的になんの恨みもないのですが、やっぱり彼は国を考えるような人物ではなかった。

政権の終りのはじまりです。
今回の対中国政策、どう考えても異常です。
またきくところによれば、河野外務大臣も実は
親中なのでは?国連の常任理事国入りを熱望しているとか、ある議員から伺いました。

ここまで来る前に良識派の安倍さん支持の政治家や
支持者が厳しい態度で指導すべきだったのです。

三宅先生は安倍さんには厳しい批判をしていました。
私も同じです。それを「反安倍」「安倍おろし」といういつもの決まり文句で決めつけ、批判する人を同調圧力で黙らせようとしました。
水や食料の安全の問題、国土の問題、絶対に必要なスパイ防止法への取り組みなどスルー、
「憲法改正」を愚かな保守たちの餌にしながら、その
いいかげんな内容を見るとこんな改正は一対なんだ、と、ただ「変えた」という実績だけが目標なら日本が危ない、保守にはとんでもない低劣な縄張りもあり、
それが地方議員などに立候補し当選しています。
これ以上はとても書けませんが・・・・
返信する
ベッラさま (kuranishi masako)
2018-10-26 07:29:23
 コメントをいただきまして、ありがとうございました。

 私は、安倍政権は、何らかの国際組織の意向に従って政策を遂行しているに過ぎず、いわば、’代理人’なのではないかと疑っております。同国際組織の常套手段とは、保守、あるいは、愛国者に見せかけてその逆の破壊的行為を実行する、というものであり、ドイツのヒトラー政権なども、この手法であったのではないかと推測しております。何故ならば、左派が実行すれば、国民から’売国奴’として罵られますが、保守が行えば、すんなりと目的を達成できるからです。となりますと、日本国は現在、大変危険な状態にあるのではないかと思うのです。日本国を救うために、国民は、こうした巧妙に仕掛けられた仕組みこそ、見破る必要があるのではないでしょうか。
返信する
本当は真逆〜 (萬葉集)
2018-10-26 10:19:25
毎日、タイムリーな記事を有難うございます。
いつも楽しみに拝見しています。
今回もあまりテレビで報道しないので、色々探すと、まるぞうさんという方のブログに詳しく書いてありました。

安倍総理の外交のすごい所は、陰陽のバランスの絶妙なところだそうです。
みんなは全勝を求めますが、違います。
半分の表面上の面子は相手勝たせてあげるのです。

アメリカ政府は、中国が溜め込んだ外貨ドルを吐き出させるのが目的です。
そうすれば、中国は内部分裂します。
戦争で若い命を落とさずに済みます。
アメリカは本気で中国経済を潰しに来ています。
今回の大規模な通貨スワップ協定に応じる、そしてお礼はパンダ。

今年一月から日本の大手メガバンクが、中国で中共から人民元を借りて、人民にお金を貸すのを始めました。
経済が崩壊に向かっているので、人民たちは借りたお金を返せない。
お金を回収出来ないメガバンクは、中共に頭を下げるが、中国は、人民元で返せと、メガバンクを倒産させるかも。
敵地に商売にいって、人質に取られたメガバンク。。。
メガバンクと日系企業を救う為の救済処置として、表面上は余裕のある今、中共スワップを提携。
それはトランプ氏も許可済み。
①ドル建てで貸す事
②日銀が主体となって、日本企業撤退費用として貸す事
③最大3兆円が限度

おばさんの私もとってもよく分かりました。
テレビや新聞でも、こんなふうに解説してくれたら良くわかるのに。

安倍総理は国益のため政治を続けています。
世界の危機の今、安倍総理でよかった。
何処の国とも仲良く、信頼される外交を展開しています。
日本は幸運です。
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萬葉集さま (kuranishi masako)
2018-10-26 20:24:22
 コメントをいただきまして、ありがとうございました。

 安倍首相の訪中において打ち出されました日中協力につきましては、私は、萬葉集さまよりも警戒感を抱いております。日中通貨スワップに再開につきましては、みずほ銀行と三菱UFJ銀行の二行が発行しているパンダ債が焦げ付く恐れがあるため、その救済に充てる為との説明もあるようです。しかしながら、ネット情報に拠りますと、二行が発行しているパンダ債の額は300億程度ともされ、仮に、邦銀撤退に際して人民元を調達するための手段であるとしても、スワップ枠の3兆円までパンダ債を発行できることとなり、やはり、パンダ債の発行を助けているようにも見えます(なお、ロイター等の報道によりますと、ドルではなく、中央銀行間の日本円による為替スワップなそうです)。また、AIIBの裏口とも言える第3国でのインフラ金融支援にもこれらの邦銀が参加しており、中国事業からの撤退を予定しているとも思えません。十分な情報を得られておらず、正確な判断は難しいものの、萬葉集さまのように手放しで礼賛するにはまだ早すぎるのではないでしょうか。
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