万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

日中同盟が成立しない理由

2008年10月24日 16時53分37秒 | 国際政治
日中、ホットライン開設で合意 首相、胡国家主席と初会談(共同通信) - goo ニュース
 金融危機に端を発し、アメリカの政治的なプレゼンスの低下が、安全保障にかかわる議論にまで及んできているようです。それでは、日米同盟が終了し、日中同盟が成立するというシナリオは、あり得るのでしょうか。

 第一に、日本国が防衛上の脅威とみなす国とは、まずは、領土問題を抱えている相手国です。具体的には、北方領土のロシア、尖閣諸島の中国と台湾、竹島の韓国と北朝鮮であり、中国も、この意味において警戒の対象国となります。さらに、中国の国際秩序や国際法に対する態度を見てみますと、自国の国内法において一方的に係争地を領土編入しており、国際法を無視した拡大主義の傾向を見て取ることができます。加えて、中国は、共産主義のイデオロギーの下で、多民族主義を採用していますので、朝貢体制の外にあった日本国とて、安心してはいられません(実際に、沖縄については、日本国からの切り離しを望んでいるとも・・・)。このことから、中国こそ防衛上の最大の脅威であり、日本国は、日中同盟に多くを期待できないことが分かります。

 第二に、世界大戦タイプの戦争を想定してみますと、日中同盟の発動とは、すなわち、アメリカを中心としたNATO軍との戦争を意味しています。ロシアやイスラム諸国がどちらの陣営につくかは不明ですが(おそらく親中国…)、この場合には、米中対立に、日本国も巻き込まれることになります(実際に、中国の潜水艦が太平洋への進出を窺っているとも・・・)。しかしながら、たとえ中国側陣営が勝利しても、日本国の独立が守られる保障はありません。何故ならば、中国側陣営は、西欧に起源をもつ現在の国際法や国際秩序に抵抗する形で形成されますので、たとえ戦争に勝ったとしても、日本国の主権が尊重され、独立が維持できるとは限らないからです。チベットとの間で非合法的に締結された「17条協定」でさえ、反故にされたのですから。日中同盟は、法なき世界へと逆戻りするステップとなるかもしれません。

 以上に、防衛と陣営対立の両面から簡単に日中同盟における日本国の国益を検討してみましたが、この展開が予測される以上、日中同盟が成立するとは考え難いと思うのです。
 
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8 コメント

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軍事同盟の可能性 (chengguang)
2008-10-24 20:25:19
現今の日本が、他国と軍事同盟を対等に結べる状態にあると思えません。軍事同盟とは少なくとも共に共通の敵と戦うことを意味しています。
NATOの条約はこれよりももう少し踏み込んでおり、同盟国が攻撃された場合は他のNATO 諸国が軍を派遣することになっています。このためNATOは新たな加盟希望国に対し、加入の許諾に慎重になっているのは、ご存知の通りです。
今のNATOの状態なら、日本とも軍事同盟を結ぶかもしれません。それは平和国家であることと、例え攻撃されても、間に合わなかったと言えば済むほど遠い極東にある国家だからです。グルジアの場合はこういう譯にはいきません。
日中軍事同盟の当面の可能性は、それ故日本側に無いのではなく、中共側に無いのです。(日本を取り込むことでアメリカに対抗すると言う政治的取り込みについては、前説しましたように独立国家の意味からも、慮外の裡に置いています。)
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chengguangさん (kuranishi masako)
2008-10-24 21:20:17
 コメントをいただきまして、ありがとうございました。
 日本国の同盟政策としましては、1.日本国憲法の改正、2.アメリカの賛成、3.NATOの同意、の条件が揃えば、NATOへの加盟も検討すべき課題であると思います。ただし、chengguangさんのご指摘のように、いざ、という時に”間に合わない”ということでは困りますので、日米同盟を基軸としながら、NATOにも加盟するという、安全保障の二重体制を追求するという方法もありましょう。何れにしましても、自国を確実に防衛し、覇権主義国家の拡張政策を抑止することを、日本国の同盟政策の基本とすべきと考えるのです。
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政治は、ポリティカル・エコノミー・・ (冬水)
2008-10-25 09:19:34
 金融ハルマゲドンを前にして、安全保障などより、「おまんまを、どうやって、食っていくか」の方が、重要。
 政治学と言うのは、政治経済学なのだと私は思う。だから、年金や医療問題の方が、大問題。各国とも、金融ハルマゲドンの次に来る、世界恐慌の中で、どうやって、国民を食べさせるか、思案しているだろう。
 アメリカ国民は、株も債券も暴落しているから、年金を失い、健康保険は、もともとないから、医者にも罹れず、食うこともできず、ソ連市民のようにゴミ箱を漁ることになりかねない。
 アメリカ以上に、アイスランド、グルジア、ウクライナ、パキスタン、ハンガリー、インドネシア、韓国などは、国家ごと破産の憂き目に遭いかねない。
 わが国も、舵取りを誤まれば、年金は70歳以上、医療費は、暴騰で、医者に罹れずになりかねない。
現役の人は、60歳退職から10年、無収入で、塗炭の苦しみに遭いかねない。
 かくのごとく、民衆が、おまんまを、どう食べるかを考えるのが、政治学だろう。
 まずは、失敗例の反省が、政治学には必要。医療を見れば歴然。
 研修医に自由に研修病院を選ばせば、エージェントのいないプロ野球選手のようになり、将来の就職への不安から、大都市のステイタスの高い病院を選ぶのは当然。医局が持っていた、医療資源分配機能を無視するから、かくのごとき、事態が生じる。
 墨東病院は、研修医が一人で当直をしていたのだ。だから、断るのは当然。
 医療、主食の米には、公的な部分があり、自由市場には馴染まない部分があった。それを無視するから、あの女性は、命を失ったのだ。
 自公政権の、特に、小泉・竹中の失政のせいである。
 安全保障より、かくのごとき、生活不安を招いた失政の研究の方が重要である。
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冬水さん (kuranishi masako)
2008-10-25 10:05:57
 コメントをいただきまして、ありがとうございました。
 政治とは、国家の安全保障も、国民生活の安定も、同時に対処すべきものと考えております。どちらも大切なのです。
 ただし、国民生活については、市場経済は、個々人の活動によって動いていますので、政府の役割には限界があります。共産主義国のように、統制を経済したところで、経済のパイが拡大するわけでもなく、むしろ、国民全体の生活水準が下がることは、歴史が証明しております。この事実から考えますと、民間の活力を生かすしか、失業問題の根本的な解決策はないのではないか、と思うのです。
 もっとも、医療や農業については、公的な側面が強く、冬水さんのおっしゃるように、完全なる市場化には馴染まないかも知れません。こうした分野においては、どの程度、政府が関わるべきか、今後とも、大いに議論すべきと思うのです。
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安全保障が大切なら・・・ (冬水)
2008-10-25 12:57:24
 なぜ、インドとの同盟を主張されるのですか?インドは、核兵器を、いわば非合法に所有しているのですよ。このインドに経済協力して、どうして、北朝鮮やイランに核を放棄せよと迫れるのですか?
 インドが、民主国家だからですか?では、パキスタンはどうします?まともな。民主国家ですか?
 アメリカもダブルスタンダードだから、北に、現状を容認せざるをえなかったのでしょう?
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冬水さん (kuranishi masako)
2008-10-25 16:48:56
 コメントをいただきまして、ありがとうございました。
 NPT体制の理想からしますと、インドの核保有は、冬水さんのおっしゃる通り、ダブル・スタンダードに当たりましょう。しかしながら、インドの核保有は、北朝鮮と比較しますと、以下のような相違点があります。

1.中印戦争や印パ戦争が背景にあり、かつ、中国もパキスタンも核保有国であること。
2.インドは民主主義国家であり、核のボタンが、気まぐれな指導者の手の内にはないこと。
3.北朝鮮は、国連軍と休戦状態にあり、恒常的に軍事体制を維持していること。

 以上の点から言えることは、軍事独裁国家である北朝鮮の危険性は極めて高く、もし、かの国が核を保有すれば、印パ関係のように、日本国も核によるバランスを考慮せねばならなくなることです。しかも、北朝鮮は、明確に日本国を仮想敵国に定めていますので、その必要性は、さらに高まると言えましょう。インドとの安保協力は、両国の間に敵対関係がない、ということにおいても、安全なのです
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あえて、北朝鮮を擁護してみる・・ (冬水)
2008-10-25 21:53:55
 北朝鮮は、アメリカ、そして、潜在的には、チャイナの核の脅しを受けている。
 共産主義国家の指導者が、気まぐれに核のボタンに手を付ける事はなかった。
 アメリカは、常に戦争をしているが、北朝鮮は、朝鮮戦争以来、行っていない。
 あなたの言い分は、要約すれば”北朝鮮は共産主義の独裁国家だから、核を持ってはいけない”となる。

 北の核は、日本向けではない。何故なら、通常のノドンミサイルで、若狭湾を攻撃すれば、同じことになる。しかも、国際社会から受ける非難は、全然、違う。
 さらに、北を支えているのが、日本における朝鮮人社会。自分で、自分の足を、ハンマーで叩くほど、愚か者ではない。
 そう、北への送金こそが、日本の安全保障になっている。だから、送金は止めない。
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冬水さん (kuranishi masako)
2008-10-26 10:06:35
 コメントをいただきまして、ありがとうございました。
 私が、北朝鮮の核保有に反対する理由は、共産主義の独裁国家であることに加えて、地域のパワーバランスを壊し、日本国の安全を脅かすからです。つまり、極東において、NPT体制が崩壊するということです。
 冬水さんは、日本からの送金を、北朝鮮の資金源である故に止めるべきではない、とお考えのようですが、その資金が、核開発やミサイル開発に使われ、我が国を脅迫する手段になるとなりますと、それこそ、現実的な安全保障上の脅威となります。”癌”も小さなうちは、外部からの投薬や治療で対処できますが、命にかかわるほど大きくなりますと、手術して切除するしかありません。日本国は、もはや、増殖を続ける”癌”に養分を送り続けることは、できなくなるのです。
 
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