万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

米中貿易戦争は自由貿易主義の必然?

2018年03月25日 16時08分17秒 | 国際政治
米制裁に猛反発 中国、強硬姿勢の背景とは
 今月の19日と20にかけて、アルゼンチンのブエノスアイレスで開催されたG20財務相・中央銀行総裁会議では、仮想通貨に対する規制が合意されると共に、トランプ政権の鉄鋼・アルミニウム製品に高率の関税を課す輸入規制を受けて、アメリカ以外のメンバー国は、反保護主義で足並みを揃えたそうです。特に、輸入規制のターゲットとなった中国は激しい反発を示しておりますが、米中貿易戦争は、自由貿易主義の必然的な結果なのではないかと思うのです。

 通商政策をめぐる今般の対立は、アメリカvs.他の諸国の構図として描かれていますが、80年代の日米貿易摩擦に際しては、日本国は、孤立無援の戦いを強いられ、日本国に味方して自由貿易の原則を擁護する国はついぞ現れませんでした。日米貿易摩擦が発生した要因とは、アメリカ市場を席巻する勢いのあった円安を伴う日本製品の圧倒的な国際競争力にあり、凡そ30年前の貿易戦争は、自動車や半導体産業等の日本国側の自主規制、円高容認、巨額財政支出を伴う内需型経済への転換、対米投資と米国内生産(米国人雇用)の拡大等によって終結したのです。言い換えますと、自由貿易の原則を放棄し、一種の管理貿易的手法を採用することで、日米間の貿易不均衡を是正したのです(この時、日本国が自由貿易主義を貫いたならば、日米関係は破局的な局面を迎えたのでは…)。

 当時と比較しますと、今般のアメリカの貿易規制は、日本国のみではなく、他の諸国にも広く及ぶことから、アメリカの通商政策に対して自由貿易の堅持を求める声も強いのですが、自由貿易=互恵的利益とする古典的な自由貿易理論の前提を疑ってみますと、国家間の貿易摩擦の発生は、理解に難くありません。貿易障壁の全面的撤廃という意味での自由貿易主義、あるいは、グローバリズムを極限まで突き詰めますと、“ルールがないのがルール”という放任主義に帰結せざるを得ないからです。放任主義が原則となる世界とは、弱肉強食を許す世界であり、あらゆる分野において競争力に優るもののみが勝利の果実を手にすることができます(自由貿易・グローバリズムの実態は不均等分散型…)。例えば、AIや情報通信といった先端分野では、全世界から人材、資金、技術等を集めてプラットフォームをも握ることができる米中の巨大企業が全世界の市場を二分するかもしれません。

放任主義において国家間の予定調和的な相互利益を期待するのは不可能であり、実際に、相互利益が実現するならば、アメリカが巨額の対中貿易赤字を記録することも、中国が最大の対米貿易黒字国となることもなかったことでしょう。この事実を一つとっても、自由貿易原理主義や行き過ぎたグローバリズムが、如何に現実と乖離しているのか分かるのです。

 以上に述べたように、米中間の貿易不均衡が自由貿易の必然的な帰結ならば、現実を理論に合わせるのではなく、理論を現実に合わせるべきです。そして、それは、自由放任主義から“規律ある自由”への転換という“自由”の定義の変更であり、グローバリズムもまた、自国の国民保護のために一定の規制をルールとして認めるルール志向型のグローバリズムへの移行ではないかと思うのです(ナショナル企業やローカル企業が生き残るためにも、独占や寡占を許さない競争法等の分野でのグローバル・ルール造りも必要では…)。しかも、日米貿易摩擦は同盟国間の紛争でしたが、米中両国は、政治・軍事的な対立関係が既に表面化してきており、最早、経済分野に限定した対処は不可能な段階にあります。放任主義を是とする自由貿易主義、並びに、グローバリズムは、経済のみならず、防衛や安全保障上のリスクといった政治における現実からも修正を迫られているように思えるのです。

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