万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

緊急事態宣言期間を抗感染症社会への移行準備期間に

2020年04月10日 12時46分58秒 | 日本政治

 4月8日における緊急事態の宣言は、凡そ一か月後の5月6日には解除される予定です。しかしながら、感染者数の増加が止まらずに遂に5000人を超える中で、同解除日を以って日本国の新型コロナウイルス禍が完全に終息していると信じる人は、それ程には多くないかもしれません。各国の研究機関等が公表してきた様々な調査結果やデータ等も、一か月以内における新型コロナウイルスの完全撲滅は不可能に近いことを示唆しています。

 強硬的な措置によってウイルスの拡散速度が落ち、かつ、爆発的な拡大は防げたとしても、仮に新型コロナウイルスの感染リスクが長期・恒常化するとしますと、緊急事態宣言の意味や同期間の人々の過ごし方も自ずと違ってきます。一か月といった短い期間に疫病が終息するならば、人々は、嵐が過ぎ去るのをじっとして待っているだけで事済みます。解除後には経済はV字回復するでしょうし、数週間もすれば新型コロナウイルス禍の記憶も次第に薄れ、何事もなかったかのように普段の生活に戻ってゆくことでしょう。しかしながら、解除後にあっても感染リスクが依然として高く、油断をすれば直ぐにでも感染が再拡大するともなりますと、そっくりそのままコロナ前の状態に戻ることは難しくなります。

 政府を含め、誰もが未来を正確に予測することはできないのですが、様々な方面からもたらされる情報を客観的に分析した末に、長期化の方がより可能性として高い場合には、そのリスクに備える必要があるように思えます。緊急事態宣言の期間が延長されるにせよ、解除されるにせよ、感染者の激増による医療崩壊を避け、治療可能な状況を維持するために、今後とも人々の外出回数が減少することは確かですし、人と人との間に一定に距離を置く行動様式は半ば慣習化することでしょう。働き方改革の流れにあって既に普及傾向にあったテレワークや自宅勤務も、それが可能な職務においては一般的な勤務形態として定着するかもしれません。

 抗感染症の時代には、経済や社会も、人々の行動様式の変化に合わせてゆく必要があります。全ての人々が何らかの影響を受ける当事者ともなるのであり、各自が自らの行動を抗感染型に変えると共に(ソーシャル・ディスタンスの確保…)、危機への対応を迫られることにもなるのです。インターネットが幅広く利用されるようになるのでしょうが、全ての人々が自宅に籠る孤立型の社会への全面的な移行も困難です。そこで、一般のオフィスや学校等の教室では、室内の人数を減らすと共に、机と机との間を離すようになるかもしれません。その一方で、抗感染型の社会の到来は、新たな市場が現れたに等しく、企業規模に拘わらず、メーカー各社も、抗ウイルス製品の開発に取り組むことでしょう(自宅待機中の課題とし、アイディアを競う社内コンペティションを開くとか…)。今日では3Dの技術も手伝って、既にこの動きは全世界的に始まっているそうです。

 その一方で、緊急事態宣言にあって営業自粛要請の対象となる事業分野や訪日観光客のインバウンドを収益源としてきた観光業等は、マイナス影響を直接的に被ります。廃業の危機に直面するのですから事態は深刻です。転業や転職を余儀なくされる場合もありましょうが、全く工夫の余地がないわけでもありません。例えば、飲食店は、テーブルの間隔を広げたり、室内に仕切りを設ける、あるいは、ケータリングやテイクアウトを始めるといった策もあります。配達コストが問題となるならば、乗客の激減に苦しむタクシー事業者等と協力し、複数の飲食店が共同でウーバー式のケータリング・システムを運営することも一案となりましょう。イベント業も、無観客の放映でも視聴者を楽しませる方法もあるはずです(がらんとした会場やホールではなく、コンピュータ・グラフィクスを利用したり、臨場感を持てるような特設スタジオなどを用いる…)。また、ホテル等の宿泊業についても、都心部であれば、個人向け、あるいは、企業と契約を結び、遠方に住みながら出社せざるを得ない人々を対象に格安料金で空き部屋を提供すれば、通勤時の満員電車問題の解決にも役立ちます。

 そして何よりも、リトマス試験紙のように簡易に新型コロナウイルスの陰性・陽性をその場で即時に判定できる検査方法が開発されれば、日常的な経済や社会生活に伴う対人接触による感染リスクを相当数防ぐことができましょう(もっとも、画期的な治療薬やワクチンの開発の方が早いもしれませんが…)。現在のサーモグラフィー方式ですと、発熱した感染者のみを識別することはできますが、無症状者を識別することができません。入店時等のみならず、航空機、電車、バス、タクシーなどに乗る際に全員が検査を受ければ、比較的に安全が確保されることになるでしょう。こうした水際作戦的な手法の方が、中国のように感染予防を名目としてより徹底した国民完全監視体制を敷くよりも、個々のプライバシーを保護することもできましょう。

 一過性の危機ではない可能性が高い以上、緊急事態宣言の一か月間は、その先に向けた準備期間、あるいは、移行期間とみなす方が安全なように思われます。本稿で述べた案は現場を知らない的外れで非現実的な提案なのかもしれないのですが、それぞれが知恵を出し合って協力すれば、コロナ後の経済や社会は、コロナ前の悪弊が是正されてより善い方向に修正されているかもしれません。来るべき時代に備える方が、ひたすらに政府からの給付や支援を待つよりも、より建設的なのではないかと思うのです。

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