昨年の夏頃から始まった米価高騰は、目下、国民に生活苦をもたらしています。野菜等の他の食品の値上がりもあってエンゲル係数も上がる一方であり、日本国政府に対して対策を求める声も相次いでいます。こうした状況を受けて、政府もようやく備蓄米の放出に踏み切ったのですが、その手法を見てみますと、政府の‘本心’が透けて見えるようで、そら恐ろしくさえなります。
先ずもって驚かされたのは、入札方法です。今般の21万トンの備蓄米放出の目的は、米価を下げることにあります。政策目的ははっきりとしていますので、合理的かつ常識的に考えれば、最も価格を下げる効果が期待される方法が採られるはずでした。政策の立案・実施に際しては、合目的性が強く求められるのは当然のことです。この側面は、政府に限らず、あらゆる組織にも言えることでしょう。ところが、今般の政府による備蓄米の放出方法を見ますと、合目的性の要件が満たされているとは思えません。何故ならば、高値落札を原則として入札を実施したからです。
最高額を提示した入札参加事業者が落札する仕組みでは、米価を下げる効果は限られてしまいます。報道によりますと、14日に実施された14.2トン分の入札に際しての落札価格は、直近の1ヶ月の事業者間取引価格を‘やや下回った’程度に過ぎなかったそうです。‘直近’の2月から3月にかけての時期には米価は上昇を続けていますので、現状の取引価格と然程には変わりはないこととなります。
米価の下落を目的とするならば、最高値落札ではなく、最安値落札のほうが遥かに高い効果が期待されます。事業者間に、米価の安値競争が生じるからであり、政府調達に際しては一般的に用いられている方法です。もっとも、今回のケースでは、政府が買手ではなく売手となり、政府調達とは立場は逆となりますので、安値売却には批判の声もあるかもしれません。しかしながら、公益、すなわち、政策目的の実現という観点に照らせば、備蓄米の安値売却が国民の利益となるのですから、後者を選択すべきであったと言えましょう。備蓄米の購入に際しては国費が使われていますので、安値売却では‘国民’の損失となるというのであれば、少なくとも購入時の価格での売却、あるいは、入札の最低価格を購入時価格に設定した上で、入札を実施すべきでした。また、米価暴落による農家の経営破綻を恐れているのであれば、落札価格の下限を設定すれば、このリスクは回避できます。
因みに、備蓄米の放出方法については、無償で全国民に配布すべきとする意見もあります。確かに、無償配布であれば全ての世帯にお米が届きますので、国民生活は助かります。政府は、全くこの手段には関心がないようなのですが、それでは、有事に際してどのようにして国民に備蓄米を配ろうとしているのでしょうか。この点は、疑問となります。
いささか脱線しましたが、政府、あるいは、農林水産省も口達者で、最高値落札に対する批判を予測してか、予め予防線を張っています。今般の備蓄米の放出の目的は、「流通の目詰まりの解消」にあると説明しているからです。お米の価格は需給のバランスで決まるので、高値であれ安値であれ、流通量さえ増やせば自然に米価が下がるという理屈です。つまり、備蓄米放出によって即時的に米価を下げる効果はなくとも、長期的には米価を下げる効果があるのであるのだから構わない、という言い訳を、最初から準備しているのです。
しかしながら、この説明では、合目的性に照らして最適の方法を、意図的に避けたことを認めたことにもなります。A案が最適でB案がこれに劣る場合、B案の効果を説明はできても、何故、より効果的なA案よりB案が優先されたのか、その説明にはなっていないのです。つまり、政府は、国民には正直には言えない何らかの別の目的があり、敢てA案を選択せずにB案にもっともらしい理由を付けて採用したと考えざるを得ないのです。
お米の供給不足につきましては、先ずもって(あ)減反等による失政説と(い)利益目的の人為説に分かれます。さらに(い)の人為的不足説については、(A)巨額損失を抱えた農協犯人説、(B)先物市場での投機に関連した価格操作、(C)相対取引に介在する転売ヤーの介在、(D)官民一体の輸出優先策、(E)将来的な高値売却を目的とした農家の売り渋り・・・など、様々な説が飛び交っています(そもそもお米が不足しているのかどうかさえも判然としない・・・)。何れにしましても、落札価格を見る限り、備蓄米放出効果は限定的かつ遅効的になりそうですので、政府が本気で米価を下げるつもりはないことだけは確かなようなのです。全ての落札事業者も公表しないのですから、秘密主義的な態度は、どこかにやましいところがあるからなのでしょう。そして、この態度は、政府の本心が、自らを含めて上記の供給不足の犯人と疑われている人々、あるいは、特定の勢力を護ることにあることを強く示唆しているとも言えるのではないかと思うのです。