万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

デジタル民主主義の条件とは-‘国民の声’という独立的なデータベースの構築

2023年05月03日 10時53分18秒 | 統治制度論
 ITやAIといったデジタル技術は、中国といった非民主国家では共産党一党独裁体制を支えるための先端技術として活用されています。また、民主主義国家にあっても、自己利益の最大化を追求するIT大手による事実上の独占状態が出現すると共に、これらの企業と政府との癒着により、民主主義が形骸化する危機に直面しています。何れの国家体制でありましても、世界権力のコントロールが及んでいますので、デジタル全体主義化は、今日に生きる人類が共通して抱える大問題なのです。

 それでは、デジタル技術は、民主主義の‘敵’なのでしょうか。原子力の技術が戦争にも平和にも使われておりますように(もっとも、原子力絶対悪論からは原子力発電といった平和的利用も許せない、ということになる・・・)、技術とは、しばしば‘使いよう’とも申します。使用目的によって、悪にもなれば、善にもなるのです。

 使用目的がテクノロジー利用の善悪判断の基準となるのであれば、ITやAIについても、多くの人々が合意し得る適切な目的を定めるべきと言えましょう。そして、それは、使用分野によっても違ってくることでしょう。例えば、教育の分野であれば、教育とは、様々な知識を身につけると共に、人々の能力を伸ばすことを目的としていますので、この基本目的に反するITやAIの使い方はしないほうが良い、ということになります。つまり、使用者の知的能力や思考能力等が向上する場合にのみ使用を許す、としなければならないのです。

 政治の分野においても同様です。そもそも、統治機能とは、集団形態で生きてきた人類が、集団並びに個人レベルでの安全、安心、安定等を得るために生まれてきたものですので、民主主義とは、統治の必要性を価値として再確認した表現とも言えます。否、人々の必要性を起源としながらも、統治権力が特定の個人や集団の利益のために濫用されてきた苦い歴史を経験してきたからこそ、今日、民主主義の価値が普遍的な価値としてその実現が希求されているとも言えましょう。しかしながら、民主主義とは、それが統治機構において制度化されなければ絵に描いた餅に過ぎず、言葉だけが遊離してしまうのです。

 この側面は、民主主義国家にあっても変わりはなく、国民による人事権の行使を意味する普通選挙制度も、民主主義を完全に実現するわけではありません。ましてや、今日、マスメディア等による世論の誘導や捏造も甚だしく、国民の声が政府や国会の場に届いているとは言いがたい状況にあります。結局、政党や政治家の支援団体、献金者、そして、資金力に抜きん出た世界権力等の意向に沿った政治が‘国民の負託に応える’という定型句の下で行なわれるのであり、海外IT大手による技術独占が進み、かつ、恣意的データ操作が可能となる政治のDX化は、この傾向に拍車をかけるかもしれません(不正選挙やデータの改竄・捏造リスクも・・・)。言い換えますと、民主主義国家といえども、現行の統治システムでは、政治と国民との間の距離は遠くなる一方なのです。
 
 普通選挙制度が民主主義を支えなくなっている今日、統治の正常化、即ち、国民のための政治という意味での民主主義を制度化するには、何らかのブレークスルーを要することは言うまでもありません。そして、その可能性を秘めているのが、IT並びにAIの‘使い方の転換’であるのかもしれないのです。即ち、政治分野におけるITやAIの利用を、民主主義の向上に資する方向へと逆転させるのです。

 このためには、あくまでも営利目的であるGAFAMやオープンAIといった民間企業によるサービスとして提供されるシステムは用いるのではなく、公的なデータ・ベースとして運用されるべきこととなります。しかも、同データベースは、国民並びに政府が共にアクセスできると共に、完全に政府からもメディアからも、かつ、民間企業等からの独立性が制度的に保障される必要がありましょう(技術的には、サイバー攻撃、並びに、不正入力や多重入力等を完全に阻止しなければならない・・・)。いわば、司法の独立性に準じる独立機関として扱い、全ての国民各自の声に対して如何なるバイアスをも排した中立性が確保されなければならないのです(権力分立・・・)。初期的なアルゴリズムバイアスについてはこれを設定せず、たとえそれがヘイトスピーチであっても、国民並びに政府がヘイトの実態を共に知る上でも書き込みを許す方が有益となりましょう。なお、国民からの政策要望については、AIが自動的に内容に即して政策分野ごとに分類してくれるかもしれません。

 詳細については詰めなければならない点が多々あるのですが、ITやAIも使い方を変えれば、デジタル全体主義ではなく、デジタル民主主義へと人類を導くかもしれません。チャットGPTも同様のアイディアを提案するのかもしれませんが、国民の入力により常時更新される‘国民の声’というデータベースの構築と統治制度化というアイディアは、一考に値すると思うのですが、いかがでしょうか。
 

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