万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

AIは政策立案に役立つのか?-デジタル民主主義の可能性

2023年05月02日 10時46分23秒 | 統治制度論
 チャットGPTをはじめとした生成AIの登場は、政治のあり方にも多大な影響を与える可能性があります。とりわけマイナス面が強調されているのですが、その反面、民主主義の制度化という課題に対してプラスに働く可能性がないわけではありません。昨日は、国会答弁での導入に関する本記事をアップしましたが、本日は、AIが政策立案に活用された場合について考えてみることとします。

 AIが政策立案に利用された場合、まずもって予測されるのが、国民がAIに支配されてしまう未来図です。人類の頭脳を越えた超越的な能力を備えた、神の如き存在としてAIが君臨し、国民は、AIが自動的に作成した政策に従うのみの存在となりましょう。

中でも最悪のシナリオとされるのが、AIに搭載されているデータ・ベースが特定の少数者、すなわち世界権力によって掌握されている世界の出現です。この世界では、同世界権力によって恣意的に情報が取捨選択される一方で、同権力は、遺伝情報、資産状況、健康状態、学歴・職歴、家族関係、交友関係、思想や宗教、さらにはAIへの忠誠度などを含む、全ての他の人類の個人情報を把握しています。このため、AIの名の下で、少数者支配に対して批判的、あるいは、抵抗を示す国民は、キーのタッチ一つで社会から排除されてしまうのです。世界権力による支配装置となったAIは、太陽光発電の推進であれ、ワクチン接種であれ、昆虫食であれ、増税であれ、移民奨励であれ、世界権力に利益をもたらす政策を全人類に押しつけてくることでしょう。『1984』年では人前に決して姿を現わさない‘ビッグ・ブラザー’が独裁者として描かれていますが、ビッグ・データを搭載したインビジブルな‘AI様’こそ、近未来の独裁者であるかもしれないのです。デジタル全体主義の世界では、民主主義という価値が消滅することは言うまでもありません。

 デジタル全体主義の未来像は、極少数の世界権力、あるいは、グローバリストがAIテクノロジーの開発を主導し、かつ、それを独占した場合に発生リスクが上昇します(中国等の非民主国家では、政府が率先してAIを支配の道具としている・・・)。実際に、ITであれAIであれ、これらの技術はグローバリストの手によって開発されてきました(もっとも、元は軍事技術であった・・・)。例えば、目下話題となっているチャットGPTについても、データ入力の手段としてのプロンプトの使い方は、AIに対してユーザーが質問するという形式です。この形式ですと、回答を受け取るユーザー側は、常に受け身となるのです。

 それでは、AIテクノロジーの主導権を大多数の人類の側が握ったとしたらどうでしょうか。AIが民主主義の制度的な発展に貢献するとしますと、先ずもって、今日のAIの開発状況を是正してゆく必要がありましょう。そして、民主的制度に進化をもたらすツールとして期待するならば、各国政府は、生成AIをはじめとしたAIを民間のイノベーティブなビジネス・チャンスとみなして推進するよりも、経済分野と分離し、政治の民主化の文脈における政治向け技術の研究開発に乗り出すべきかもしれません。それは、検討されているような単なる行政事務の簡素化や国会答弁での活用といった国民管理や支配の道具としてではなく、国民と政治とを直接的に結ぶ民主的政治インフラとしての活用に力点を置くべきではないかと思うのです。

 この文脈から政策立案におけるAIの可能性を考えてみますと、先ずもって、政府や個別の政策に対する個々の国民の政治的意見を集積したデータ・ベースが構築されれば、政府は、大量の情報を瞬時で処理するAIの高度な能力、すなわち、世論集約能力並びに文章化能力により、国民の政治への具体的な不満や要望、そして、改善点を知ることができます。国民が必要とするところが分かれば、自ずと、民意に即した政策を立案することができるのです。

 今日の議会制民主主義にあっては、世界権力をはじめ様々な方面からの圧力や介入により政府と民意とは乖離しがちですが、この問題は、国民の政治的意見のデータ・ベース化により解決される可能性がありましょう。民主化シナリオには、幾つかの条件を整えると共に、問題点を克服する必要もありますが、デジタル全体主義を回避するためには、現行の支配の道具とする方向性を、民主化の道具-デジタル民主主義-とする方向に転換すべきではないかと思うのです(つづく)。

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