万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

中国の統治体制の優越性は劣位性

2019年11月01日 18時46分59秒 | 国際政治
中国では、第19期中央委員会第4回総会において「国を治めるシステムと能力の現代化」に関するコミュニケが採択され、‘「中国の特色ある社会主義制度と統治システム」の「巨大な優越性」を誇示し、先端技術を駆使しながら2035年までに統治体制の現代化を図り、党の支配を一段と強化する方針を示した’と報じられております。本方針は、‘ITやAI等の最先端技術を用い、2035年までにより一層の徹底した国民監視・管理システムを張り巡らし、何としても中国共産党による一党独裁体制を堅持する’との、内外に向けた宣言として理解されます。11年後の2035年の中国には、生体内チップの埋め込みや脳波の探知技術により、共産党が個々の国民の脳内活動や思考までも科学的にコントロールして管理する、牢獄よりも過酷な社会が出現しそうです。

それでは、「巨大な優越性」とは、一体、何を意味しているのでしょうか。上記のコミュニケの表現からしますと、まずは先端技術、即ち、テクノロジー面での‘優越性’を意味しているのでしょう。つまり、中国は、他の諸国が追い付けない程の超越したレベルのテクノロジーを手にすることで、他の諸国に抜きんでると述べているのです。劇的に計算速度が速まる量子コンピュータなども、こうした技術の一つなのでしょう。そして、開発された情報・通信分野における先端的なテクノロジーが国家機構そのものに組み込まれることで、‘特色ある社会主義制度と統治システムの’巨大な優越性‘が実現するのです。つまり、同コミュニケのロジックは、世界最高レベルのテクノロジー⇒統治システムへの投入⇒社会主義体制の優越性⇒共産党一党独裁の正統化というものなのでしょう。しかしながら、このロジック、よく考えてみますと統治の正当性の観点からしますと破綻しているように思えます。

何故ならば、統治の正当性を支え、真に評価基準となるべきは、人々が必要としている統治機能を果たす実行力、並びに、責任能力であるからです。つまり、基本的にはテクノロジーレベルの高低は、統治の正当性とは無関係なのです。ところが、現代の中国のロジックは、マルクスが提唱した共産主義理論におけるプロレタリアート独裁、即ち、労働価値と平等性に基づく正当化とも違い、テクノロジー上の優越性が共産党による一党独裁体制の正当性を支える根拠とされています。この論理は、中国が低テクノロジー国の状態にあれば、共産党も権力を失うことを意味しますが、少なくとも、今日の中国共産党は、世界最高の性能を誇るマシーンと化した統治システムを以って自らの統治を国民に受け入れさせようとしているのです。

もっとも、統治の正当性が機能上の実行力、並びに、責任能力であるならば、それが防衛力を遥かに超える攻撃力であったとしても、世界大二位の軍事力を以って中国の防衛を確かにしているのだから、共産党は‘巨大な優越’を有しているとする擁護論もあるかもしれません。しかしながら、統治機能とは、防衛に限られているわけではなく、特に重要となるのは国民の基本的な権利や自由を護るという保護機能です。

自由主義国と全体主義国との違いはこの機能に対する考え方において際立っており、全体主義国家にあっては同機能がすっぽりと抜け落ちているのです。そして、保護機能においてこそ、民主的選挙制度を有する自由・民主主義体制は、全体主義国家の統治システムに遥かに優っています。国民の選択によって政権を交代させることができない一党独裁体制では、政権が同機能を放棄したり、停止した場合、それを回復させることはできないのですから。言い換えますと、全体主義体制とは、それが如何に先端的なテクノロジーを駆使した統治システムであったとしても、重大な機能上の欠落がありますので‘巨大な劣位’を抱えているのです。しかも、正当性の根拠となるご自慢のテクノロジーは、国民に対する人権弾圧や自由の抑圧という云う反比例的な逆機能を強化しているのですから、修正されるどころか同欠陥は悪化する一方です。

このように考えますと、中国の自画自賛としての統治システムの優位性は、国民に対して果たすべき統治機能が一部欠落していることにおいて劣位性でもあります。おそらく、中国にとりましての「統治」とは、上からの一方的な人民支配の意味なのでしょう。そして、中国発の統治テクノロジーが他国にも拡散する中、全人類全体を俯瞰しますと、真の意味での統治が劣化するリスクが高まっているように思えるのです。

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コメント (2)
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