万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

北朝鮮の観光PRの謎-資金と技術はどこから?

2019年04月09日 13時58分35秒 | 国際政治
北朝鮮への独自制裁 2年間延長を閣議決定

最近、北朝鮮は、自国に外国人観光客を呼び込むべく、積極的に広報活動を行っているそうです。海外向けの観光PRを意識しての動画も制作されており、観光地として自国をアピールしています。しかしながら、ここで一つの謎が生じます。厳しい経済制裁を科せられている北朝鮮は、一体、どこから観光資源開発のための資金や技術を入手しているのでしょうか。

 国連安保理で成立した対北制裁決議では、人の移動に関する項目として、これまで北朝鮮の外貨獲得手段となってきた同国労働者の海外での雇用については契約の更新が禁じられたものの、観光分野については制裁対象に含めませんでした。このため、国境を接する中国をはじめとした諸外国からの観光客の流入は途絶えず、これらの人々が北朝鮮内で落とす外貨は経済制裁の抜け穴とも指摘されてきたのです。北朝鮮が、今般、観光事業に力を入れるのはこのためであり、観光事業は、僅かに残された貴重な外貨獲得の手段なのです。

 その一方で、北朝鮮には、冷戦終焉後も重い鉄のカーテンに閉ざされた国とする暗いイメージが染みついてきました。その実像を見ても、国民が恒常的な飢餓に苦しむ国であり、地球上に現存する最も残酷な全体主義国家にして世襲独裁国家でもあります。人権軽視は自国民のみならず外国人にも及び、日本人拉致事件に留まらず、観光目的で同国を訪れた米国人大学生は、絶対不可侵とされる独裁者に対する不敬の廉で死に至らしめられているのです。こうした実情を知れば、たとえ割安な観光地であったとしても、誰もが北朝鮮を訪問することを躊躇することでしょう。一歩、足を踏み入れたら最後、二度と帰国できないかもしれないのですから。

 北朝鮮によるPR動画の制作の意図は、外貨不足を解消するための暗黒イメージの払拭にあるため、そこに映し出された同国の姿は、前者とは全く以って正反対です。首都平壌にはICカード用の自動改札システムを駅に設置した地下鉄が運行され、街行く‘平壌市民’もスマホを手にしています。新設されたレジャーランドには、人工の波が打ち寄せるプールも設けられ、そこでは‘平壌市民’の家族連れに混じって多くの外国人観光客も戯れているのです。過去とは異なる新時代の幕開けを印象付ける狙いが読み取れるのですが、この動画の色調が明るければ明るいほど、その不自然さも際立ちます。厳しい経済制裁下に置かれているはずの北朝鮮が、自力で‘未来都市?’を実現できるはずはないからです。

 しばしば北朝鮮は劇場国家とも揶揄されてきました。恰も映画の撮影スタジオの如く、海外向けに公開された映像の多くは、パネルに描かれた絵を背景とした作り物に過ぎなかったからです。レジャーランドといった狭い空間の施設であれば、こうした手法も使えるのでしょうが、先進国と比較しても遜色のない新型車両のIC改札の導入ともなりますと(新型車両の導入は2016年元旦から…)、相当の資金とIT関連を含む高度な技術を要します。長らく先軍政治を敷いてきた北朝鮮では、サイバー攻撃関連のIT技術は有しているのでしょうが、米朝首脳会談の開催地にも旧来の鉄道を利用するぐらいですから、交通関連のテクノロジーのレベルについては怪しい限りです(1973年の地下鉄の開通に際してはロシアの技術支援を受けおり、エスカレーターは中国製とされる…)。それにも拘わらず、平壌においてインフラのIT化が進展しているとしますと、親北諸国による資金、並びに、技術支援を推測せざるを得ないのです。

 仮に、PR動画が映し出したように、‘北朝鮮市民’が何不自由なく日常生活を満喫しているのであれば、経済制裁は、全く効果がなかったこととなります。つまり、‘動画が真実であれば動画を制作する必要もない’という大いなる矛盾を秘めているのです。その一方で、この件ではっきりしたことは、経済制裁を以って北朝鮮の非核化を成し遂げようとするならば、観光事業、並びに、技術移転を制裁対象に含める必要があると言うことです。米朝首脳会談が始まって以来、交渉の扉を閉じないためにトランプ大統領は制裁強化には消極的な姿勢にあり、国連安保理も静観を決め込んでいます。しかしながら、北朝鮮が秘かに核・ミサイル開発を継続している以上、CVID方式による北朝鮮の非核化を実現すべく、国際社会は、対北制裁に関する次なる一手を考えてもよい時期に至っているのではないかと思うのです。

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