万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

中国が対北禁油に踏み込まない理由とは?

2017年04月21日 08時51分04秒 | 国際政治
安保理、北朝鮮を非難=米ロ一転合意、追加制裁警告
 朝鮮半島情勢は一触即発の状況にありながら、関係各国の思惑が入り乱れ、混迷の度を増しております。対北空爆も辞さない構えの米トランプ大統領も、拳を振り上げた格好で、一先ずは、中国の対応を注視しているようです。

 一連の動きの中で注目されるのは、中国と北朝鮮との関係です。アメリカ政府は、北朝鮮に対する中国の影響力に期待し、より強硬な経済制裁を求めており、中国もアメリカの要請に応える形で石炭の輸入を止めています。ただし、北朝鮮に対する石油の輸出は継続しており、禁油措置なき制裁では、核・ミサイル開発阻止への効果は期待薄です。中国が禁油に踏み込めない背景には、幾つかの理由が推測されます。

 第1の推測は、北朝鮮の金正恩を背後から操っているのは中国自身であり、本気で北朝鮮に核・ミサイル開発を阻止する意思がないとするものです。表面上はアメリカの要望に応えるように見せながら、その実、石油供給を継続することで、中国の傀儡、並びに、”秘密兵器”として北朝鮮を温存させたいのかもしれません。中国にとりまして、石油供給のルートこそ、北朝鮮を操る重要な”糸”なのですから。

 第2に、中国は、自らの体制維持のために、北朝鮮に対して禁油措置を採ることができないとも推測されます。何故ならば、北朝鮮の軍部と元瀋陽軍との間には密接な連携関係があり、対北朝鮮の制裁レベルを上げれば、”瀋陽軍閥”が北京政府に反旗を翻さないとも限らないからです。この推測は、内乱を誘発しかねないために習政権が対北禁輸を躊躇っているとの見立てです。

 そして第3の推測は、中国が、北朝鮮から核で威嚇されている可能性です。長距離弾道ミサイルが開発途上にありながら、太平洋を隔てたアメリカを核で威嚇するぐらいですから、隣国である中国に対する脅迫効果はさらに高いと北朝鮮は見るはずです。既に、中距離ミサイルを保有していますので、北部に位置する首都北京は日本国よりも近距離にあり、余裕で核ミサイルの射程内に入るからです。

 それとも、先の北朝鮮のミサイル発射に際して指摘があったように、アメリカによるサイバー攻撃やEMP爆弾の使用等により、北朝鮮のミサイルシステムは破壊されており、北朝鮮問題は、既に”戦後処理”の段階に入っているのでしょうか。この最後のシナリオは確かに望ましいのですが、仮に事実であれば、敢えて事実を伏せる理由を探す必要があります(安全保障上の軍事機密、あるいは、極秘戦略?)。

 最後の憶測を除いては、何れの推測であっても、中国が対北禁輸を決断するには高いハードルがあり、高度、かつ、複雑な”読み”やリスクを覚悟した”賭け”を要します。8世紀、唐の時代には、皇帝の命を受けて中国北東部に派遣された安禄山軍が、突如、首都長安に向けて踵を返して進軍したため、皇帝玄宗が帝都からほうほうの体で逃げ出すに至った歴史的事件-安禄山の乱-もありました。古来、極東地域は、中国にとりまして”鬼門”でもあります。結局、中国は、”動かない”、あるいは、”動けない”公算も高く、アメリカによる空爆が、俄然、現実味を帯びてきます。ロシアの動きも活発化しており、中国による対北禁油措置の行方は、北朝鮮問題の一つの山場となるのではないかと思うのです。

 よろしければ、クリックをお願い申し上げます。


にほんブログ村 政治ブログへ
にほんブログ村
コメント (4)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする