万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

金融工学の限界―コンピュータ任せは危険

2013年10月07日 15時32分40秒 | 国際経済
 先日、ヒッグス粒子の存在が、遂に確定されたとの報道がありました。この報道を前にして、ふと頭に浮かんだことは、金融市場で広く採用されてきた金融工学の限界です。

 私は、物理学の専門家ではないのですが、宇宙物理学には量子論というものがあり、この考え方の延長線上には、量子コンピューターの構想があるそうです。現在のノイマン型のコンピュータの基本設計のほとんどは、プログラム内蔵方式のデジタル・コンピュータであり、インプットされた過去のデータに基づく単線的な計算には長けています。一方、量子コンピューターとは、”量子力学的な重ね合わせを用いて並列性を実現する次世代のコンピュータ”とおよそ定義されており、既存のコンピューターではなし得ない、高速の並列処理を実現することが期待されています。ところで、人間の脳の働きは、実は、量子コンピューター型ではないか、とする説があります。計算速度や正確さにかけては人間よりもコンピューターの方が遥かに優れていますが、如何に優れたコンピューターであっても、コンピューターに、複数の要素が複雑に絡み合う政治を任せることは不可能です。そして、経済は?と申しますと、”経済は生き物”とも称され、多数の人間の判断に基づく活動なのですから、やはり、量子コンピューターの働きに近いのではないかと思うのです。少なくとも、現行方式のコンピューターでは、経済活動を正確に把握し、将来の動向を予測することは不可能なのです。金融工学の限界は、コンピューター技術の限界でもあります。

 量子コンピュータは未来技術の一つなのであり、現在は、研究段階に過ぎませんが、たとえ技術が確立したとしても、個々の消費者の行動から企業の経営者の判断や投資家の運用先まで、経済活動を全面的に把握し、将来を予測できるか、と申しますと、これにも疑問符が付きます。しかしながら、量子コンピューターの可能性は、現在の金融がよって立つ金融工学の危うさに対する警鐘とはなるのではないでしょうか。投資判断は、並列処理に優れた脳を備えた人間が行った方が、安全であるかもしれないと思うのです。

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コメント (6)
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