万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

戦後の国際秩序への挑戦者は中国-国連憲章を無視する国

2013年10月09日 15時45分57秒 | 国際政治
日本は中国にも敗北=歴史認識でけん制―駐米中国大使(時事通信) - goo ニュース
 本日のNHKは、昨日、中国の崔天凱駐米大使が、ワシントン市内で講演し、記者の質問に日本批判を以って答えたというニュースを、再三、報じていました。”日本はアメリカの原発投下で負けたのではない。中国を含む連合国に負けたのであり、敗戦国である日本国は、連合国=戦勝国を中心とした体制である現在の国際秩序に挑戦してはならない”ということのようです(もっとも、you cannot challenge...と聞こえましたので、もしかしますと、日本ではなく、アメリカ宛の発言である可能性も…)。

 込められたメッセージを端的に纏めれば、”敗戦国である日本は、中国の言うことを聞け”、すなわち、”尖閣諸島における中国の言い分を認めよ”ということなのでしょうが、中国は、戦後の国際秩序の基本を全く理解していないようです。そもそも、蒋介石率いる中華民国は、戦略上の打算で連合国側で参戦したに過ぎず、国連の設立を明記した大西洋憲章を理解した上で参戦であったのか、怪しいものです。中華民国は、1945年10月に国連が成立するに際して加盟国となりましたが、共産党政権たる中華人民共和国が国連に加盟したのは、1949年10月の建国を経た1971年8月に至っての事です。効力の怪しげなアルバニア決議で常任理事国の地位は得たものの、現在の中国は、いわば新参者なのです。一方、戦後秩序の基本的な枠組みとして発足した国連は、連合国=戦勝国の組織との批判を浴びながらも(敵国条項の存在…)、敗戦国にもメンバーシップを開放し、全世界の諸国を包摂する普遍主義を追求してきました。普遍主義に基づく国連憲章では、加盟各国が国際法を誠実に遵守し、武力の行使や威嚇ではなく、平和的な手段によって紛争を解決することを奨励しています。安全保障理事会において決議された武力行使は、原則として、法に基づく平和を脅かす国=侵略国に対して発動されるのです。翻って、中国は、国連憲章が掲げている法の支配の精神に従っているでしょうか?尖閣諸島についても、艦船によって領海侵犯を繰り返す一方で、司法解決を回避しています。こうした行為は、武力による現状の変更を意味しますので、中国こそ、憲章違反を犯していると言わざるを得ません。

 正確に表現すれば、戦後の国際秩序の基本構想とは、崔駐米大使が認識してるような”戦勝国=連合国中心”ではなく、連合国の5大国が、国連の組織において”世界の警察官”の役割を託された体制です。国連の制度には重大な欠陥があり、かつ、冷戦の勃発で有名無実化したことで、5大国は、当初の構想通りには”警察官”の役割を果たしはていませんが、中国は、常任理事国の地位を、敗戦国に無理難題を押し付けることができる戦勝国の特権と勘違いしているようです。先の大戦から68年が経過し、冷戦崩壊から20年以上が経った今日、軍事力を蓄えた中国が、今さらになって戦勝国を名乗り、日本国を含む国際社会に要求していることが国連憲章違反の黙認であるとすれば、それは、国連を無力化した”冷戦”の再来でしかなく、法による平和を目指す戦後の国際秩序に対する重大な挑戦であると思うのです。

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コメント (11)
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