万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

パレスチナ難民帰還権の難しい判断

2008年01月23日 18時59分02秒 | 中近東
 中東訪問に際して、アメリカのブッシュ大統領は、パレスチナ難民のイスラエル帰還権に関し、全面的な帰還容認はなく、補償による解決を提案したと言います。この提案に対して、アラブ側は、排他的な態度として冷やかな反応を見せているそうですが、全難民の帰還がこの問題を解決するとも思えないのです。

 第1に、この問題は、”棲み分け”vs.”共生”の対立でもあります。今日の国際秩序である国民国家体系が、民族間の棲み分けを主たる起源としていることを考えますと、イスラエルの言い分には理があります(帰還を認めますと人口比が逆転し、イスラエルはユダヤ人の国家ではなくなり、建国の意義も消滅する・・・)。その一方で、社会主義といったイデオロギーに基づきますと、民族や人種といった個々の違いは捨象され、違いを超えた共生こそが理想ということになります。アラブ側の主張は、後者ということになりましょう。

 第2に、国境の線引きに合意したとしても、民族および宗教対立こそが、長きに亘る紛争の核心部分にあります。このため、パレスチナ難民が大挙してイスラエルに帰還した場合、民族紛争が国内化される危険性があります。イスラエル政府は、テロを怖れて帰還した住民の監視を強化することになりましょう。

 第3に、先住地への帰還権承認が原則となりますと、この原則は、他の諸国にも波及することになるかもしれません。例えば、第二次世界大戦後にあっても、多くの人々が父祖の地を追われ、他国に移住しています。

 以上の点を考えてみますと、パレスチナ難民の帰還権に関する和平案は、現実的な解決策とも言えるかもしれません。よく説明すれば、アラブ側も妥協点を見いだすことができるように思うのです。

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