秘境という名の山村から(東祖谷)

にちにちこれこうにち 秘境奥祖谷(東祖谷山)

天女花(OOYAMARENGE)  SANE著

2007年05月30日 | Weblog
第十章
回想仲間
江美は、前の小さな会社の、生意気な社長の息子に感謝していた。あの日、息子の横柄な態度に堪えかねて、会社をとびださなければ、この居酒屋に立ち寄ることもなかった。毎日従業員を、物扱いにし続けたあの腕組みした生意気な顔も、今となっては、有り難い。人間と言う生き物は勝手なもので、現在の状況次第で、過去を初めて認識出来るものなのだ。この店の常連の仲間入りをしてから、早一年が過ぎた。最初は、苦手に思えた常連も今の江美にとっては愛しいささやかな仲間となっていた。最初に、江美に抱きついてきた久兄さんも、未だに奥さんが家をでた理由が解らないまま、白髪には気を遣っている。久兄さんの愚痴にも、みんな慣れたようで、テーブルの一番端っこで今日も飲んでいる。お酒を飲むと人間ほ、本性を現すと何かのテレビで言っていた。アルコールが理性を溶かすのだと言う。でも、そのどちらも当て嵌まらない人が、一人いる。少なくても、江美が観察する上ではこの人は、解らない。彼はマスターの古くからの友人で、恋愛結婚して子供が四人。四十三歳にしては、髪形のせいなのか、童顔なのか、若く観られている。焼酎のお湯割りを片手に、ニコニコと美味しそうに味わっている。座る席は、彼にとってはどうでもいいことで、周りの状況に合わせて、気が付くときちんと席を確保している。「カズ兄さん、ちゃんと家族サービスしているの?まっすぐに帰らないで、奥さんに叱られないのー」健二がからかう。「大丈夫だよ。きちんと放し飼いにされてるから、忠実に家には帰るんだ。健ちゃんも、江美ちゃんと一緒になったら俺とおんなじ、年上女房になるよー」彼は話しをチェンジする度に、間接的に上手にグラスを空ける。
店の隅でいつも持参したギターを弾いている保健所のシンさん。書類大国の日本のお役所仕事を、嘆きながら飲んでは、一人ギターを弾く。「誰かーハモって歌ってよー」彼が不意に立ち上がる。カズ兄さんが手を上げる。「小咄にしてよー」のま簾の時間空間の居心地に、江美は心地よく酔っていた。健二の肩の向こうに、いつもの声がある。「マスター、このままここ、グループホームにしようよ」マスターが笑う。「それまで、この店もたないよ」健二が小さく笑って手をあげる「俺は、徳島に帰るよー」二回めの夏が終わろうとしていた。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 天女花(OOYAMAREN... | トップ | 天女花(OOYAMAREN... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

Weblog」カテゴリの最新記事