祖谷地方に古くから伝わる、風習のひとつに、初盆の送り火がある。
『ひとぼし』と言ったり『火ともし』とも言われる。
集落により、若干違うが、私の集落では仏様が亡くなって、四十九日を終えた家が
その年の盆の14日に、送り火を炊く。
お堂に集まり、集落の人達が、その前日から準備をする。
竹を組んだ、棚。
別に竹を数本、準備する。
ミツマタの乾燥させた殻を20センチ程に切り、別に桧か
松の2センチ角に割ったものを、用意する。
藁で、その二つを数本ずつ束ねる。
二年分か、三年分を、一緒に炊く。
煩悩の数の、百八つが一年分。
大体の家が、二年分を準備する。
束ねた殻を、纏めて、その上から、半紙で巻く。
それらが、前日の準備。
明けて、14日。
時刻はその家の家人に従う。
今朝は、午前七時にお堂に集まった。
棚に置かれた、お位牌に手を合わせて、お堂の中で、お念仏を、唱える。
それから、準備した竹、〈松結わい〉等に火を点ける。
竹は、数本、火の中に一緒に入れる。
パンッ、パンッと竹の節の音がするほど、良いと伝えられている。
三年前よりも、二年前よりも、この送り火を私は何の邪気も持たずに
みつめるようになった。
終わっていった、魂とまっすぐに向き合っていられた。
今年の仏様は、上の集落に住んでいた、おばあさん。
夫に数年前に先立たれ、時々は香川の息子さん宅に出かけたり、息子さん達が
帰省したりの繰り返しの月日だった。
静かな話し方。小柄な体。古きよき時代の、女性にみえた。
眉間に縦皴はなかった。あんな風に、年を重ねたいと、私は感じていた。
生まれた一瞬から、終わっていく一瞬まで、同じ人生は存在しない。
人は神秘の世界で、ひとつの身体をかりながら、多くの心に触れながら
与えられた生命を、紡いでいく。
触れた身体も、発した言の葉も、何の証も遺さないままに、繰り返されていく。
人が永遠でないように、善も悪も、無の世界で、さ迷っただけの事。それだけの事。
誰のものでもない生命。自分だけの生命。
誰かと繋がす前に、自分勝手の心を、何度も問いかけてみよう。
あなたは、生命を一生懸命、温めていますか……。
あなたは、自分自身に、正直ですか。
自分自身を、生きていなければ、自分自身を愛せなければ、誰かを守る事は出来ない。
存在しているのに、見えないものはきっと、〈愛〉なんだ。
存在しているのに、伝えられないものも、
〈愛〉なんだ。
そのチカラだけが、生きていける、魂への最良の贈り物なんだ。
炎は終焉に向かい、少しずつ小さくなっていった。集落の者は去り
それぞれに今日の暮らしに帰って行った。
盆の一日が終わった。両親や、主人を
一番近くに感じられる、静かな私の夏が終わった。
合掌




『ひとぼし』と言ったり『火ともし』とも言われる。
集落により、若干違うが、私の集落では仏様が亡くなって、四十九日を終えた家が
その年の盆の14日に、送り火を炊く。
お堂に集まり、集落の人達が、その前日から準備をする。
竹を組んだ、棚。
別に竹を数本、準備する。
ミツマタの乾燥させた殻を20センチ程に切り、別に桧か
松の2センチ角に割ったものを、用意する。
藁で、その二つを数本ずつ束ねる。
二年分か、三年分を、一緒に炊く。
煩悩の数の、百八つが一年分。
大体の家が、二年分を準備する。
束ねた殻を、纏めて、その上から、半紙で巻く。
それらが、前日の準備。
明けて、14日。
時刻はその家の家人に従う。
今朝は、午前七時にお堂に集まった。
棚に置かれた、お位牌に手を合わせて、お堂の中で、お念仏を、唱える。
それから、準備した竹、〈松結わい〉等に火を点ける。
竹は、数本、火の中に一緒に入れる。
パンッ、パンッと竹の節の音がするほど、良いと伝えられている。
三年前よりも、二年前よりも、この送り火を私は何の邪気も持たずに
みつめるようになった。
終わっていった、魂とまっすぐに向き合っていられた。
今年の仏様は、上の集落に住んでいた、おばあさん。
夫に数年前に先立たれ、時々は香川の息子さん宅に出かけたり、息子さん達が
帰省したりの繰り返しの月日だった。
静かな話し方。小柄な体。古きよき時代の、女性にみえた。
眉間に縦皴はなかった。あんな風に、年を重ねたいと、私は感じていた。
生まれた一瞬から、終わっていく一瞬まで、同じ人生は存在しない。
人は神秘の世界で、ひとつの身体をかりながら、多くの心に触れながら
与えられた生命を、紡いでいく。
触れた身体も、発した言の葉も、何の証も遺さないままに、繰り返されていく。
人が永遠でないように、善も悪も、無の世界で、さ迷っただけの事。それだけの事。
誰のものでもない生命。自分だけの生命。
誰かと繋がす前に、自分勝手の心を、何度も問いかけてみよう。
あなたは、生命を一生懸命、温めていますか……。
あなたは、自分自身に、正直ですか。
自分自身を、生きていなければ、自分自身を愛せなければ、誰かを守る事は出来ない。
存在しているのに、見えないものはきっと、〈愛〉なんだ。
存在しているのに、伝えられないものも、
〈愛〉なんだ。
そのチカラだけが、生きていける、魂への最良の贈り物なんだ。
炎は終焉に向かい、少しずつ小さくなっていった。集落の者は去り
それぞれに今日の暮らしに帰って行った。
盆の一日が終わった。両親や、主人を
一番近くに感じられる、静かな私の夏が終わった。
合掌



