秘境という名の山村から(東祖谷)

にちにちこれこうにち 秘境奥祖谷(東祖谷山)

菜菜子の気ままにエッセイ   SANE著

2007年10月04日 | Weblog
最後の買い物
あの冷え込みが、冬の訪れと感じたのは、私の大きな勘違い!「秋」はこれからが、本番。シャネルのセーターを慌てて出さなくてよかった。
今日、初めて自分の好みで、新規の携帯電話を購入した。ピカピカの新品の文明の改革の代表が、私の前にある。フグの刺身と霜降りの牛肉を前に出されて、ドキドキしてる気分だ。
携帯をどこのショップで購入しようか、迷い続けて数カ月。娘のアパートの近くのショップは、大きいけれど、愛想が悪い!入ると一目瞭然、綺麗な方々が正面にずらり!顔の筋肉を余り使わないで、説明してくれる。私は無表情な人間が、大嫌い。一人で機械作業をしながら、ニタニタしていれば、少し気持ち悪いが、相手は人間だ。やっぱり少し位は、愛想よくして欲しい。無表情な店舗に入って一斉に見られると、まるで私が、立て篭もりの犯人に見える。それ位、嫌な気分になる。それに、余り綺麗過ぎる店舗も、変に気を遣う。私はきっと貧乏症なのだ!携帯ショップに入って、味噌汁の臭いとまでは言わないが、少しは生活感もあったほうがいい。昭和生まれは、結構コダワル。とにかく、今日は娘がお世話になっている美容室に、来て下さっているお客様の勤めている隣町のショップにした。なんて長い説明!自分でも舌を噛みそうになる。
私の好きなコトバ。
「モチツ、モタレツ」そして留めに「目には目を」
大体、普通の夫婦ならそれぞれに自分で見て選択して携帯を持っている。しかし、我が家の場合、家族四人のポイントは、ことごとく主人に持って行かれていた。
主人はひとつの携帯を一年以上使用した事は滅多にない!
その度に私には主人のお古が回ってきた。デザインも機能も、全て主人の好みで、私にとって携帯電話は、連絡できる(鉄のカタマリ)みたいなものだった。
主人は、新し物好きだった。最後まで理解出来なかったのは、メールもカメラも使用しないのに、新機種にこだわっていた事。購入する度に私に操作方法を聞き、私はその度に時間を取られる。女優業ではないので、慌ただしくはなかったが、働きながらの一般主婦の夜は、それなりに忙しい!「亭主元気で留守がいい」
ちょうど、去年の今頃。主人が病院の近くの大型店に行きたいと、わがままを言った。病院の廊下を歩くのが精一杯だった。許可などでる筈がない。主人は言い出したら聞かない。私には察する事ができた。主人はいつもしていた事を、普通にして見たかったのだ。いつもの入院の時と具合の違う身体を、自分で感じていたのだ。
私は主人を連れて、病院を抜け出した。大型店に着いて、主人の身体にピッタリくっついて後ろを歩いた。コワカッた。とにかく、早く病院に帰りたかった。主人は、駄菓子屋さんでいつものように、小さな駄菓子をひとつ買い、ゆっくりと歩を進め、携帯電話のショップに立ち寄った。少し店内を見渡し、言った。
「新しいの、でたんかのう……」
小さな声だった。
びくつく私の顔を見て、主人は察したのか、ゆっくりとショップを出て、
「帰るか…何にもないの…」
夫婦二人の最後の買い物は、駄菓子ひとつで終わった。
あれから、一年。音のない部屋で、携帯電話のパンフレットを広げたまま、私は想う。
「亭主元気で留守がいい」 合掌
コメント
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