来年度から、3-4ヶ月の小児に、“集団”で実施していたBCG接種が、“個別接種”に変更になります。
今、開催中の予算特別委員会でも、それに関する予算計上があり、その問題は、衛生費で、質問いたしました。
昨日3/23、中央区内の医療従事者に対して、保健所主催の説明会が開催されました。
私も、一小児科医師として参加しました。
説明会を受けて、BCG個別接種には、様々な問題、課題が存在していることをあらためて実感いたしました。
以下、問題点、課題を述べます。
*実施に当たり、医療従事者への説明不足、よって医療者の理解不足
医療従事者の説明なくしては、実施できない事業でありながら、集団接種から個別接種への大きな制度変更をしたにもかかわらず、十分な説明がなされなかった。
4月から個別接種になるわけだが、直前の3/23にようやく説明会が開催される運びとなった。
*接種率の低下⇒接種をしないことによる重症結核の罹患児の増加
いままでは、高い接種率、中央区の場合、平成19年度対象者1150人に対し接種率97.8%、平成20年度(平成21年度1月末)対象者984人に対し接種率97.8%であったが、個別にすることで、接種率が低下する可能性がある。
これにより、今まで、BCG接種により防ぐことが出来た乳幼児の重症結核感染に罹患する児が増加するかもしれない。
*難しい接種手技⇒接種はしたものの、きちんと免疫がつかない児の出現⇒免疫がきちんとつかないことによる重症結核の罹患児の増加
BCGの予防接種手技は、その接種のワクチン準備を含め難しい。一度、説明会で説明を聞いたぐらいで、実施経験のない医師が接種することが可能になる代物ではない。たとえ、接種できたようにみえたとしても、きちんと免疫がつく接種(BCGの接種部位の変化がみられる)であるかどうかが、フォローが必要であろう。
接種の経験を持つ小児科専門医が、保健所と連携をとりながら、実施することが望ましい。
*接種による副反応、副作用(健康被害)への対応
①「コッホ現象」
結核感染を来たしてる児にBCGを接種すると、結核の感染のない児の場合、通常1ヶ月から2ヶ月に普通現われる接種部位の変化(接種部位の発赤・腫脹、化膿)が、接種後10日以内に現われる。
なお、皮膚のデリケートな子などには、似た現象が現われる。
)フォロー体制
保護者、医療者は、保健所に連絡し、保健所と共に、フォローすることになる。この体制の周知が必要。
)この現象の理解
この現象を、親御さんに理解いただくには、相当の努力が必要。
説明会において、わかりやすい事前案内文の作成を保健所にもお願いをした。
特に、「コッホ現象」は、そんなに高頻度で出現しないものの、「コッホ現象」“もどき”で、不安になる親御さんは多く出る可能性を私は考える。
②全身播種性BCG感染症
BCGは、弱毒の結核に感染させて免疫をつける手法であり、通常の免疫保持者には有効な手法である。
ただし、中には、まれな疾患として、“先天性に免疫をもたない児”がおり、その児に対して、BCG接種をすると「全身播種性BCG感染症」を発症する。そしてそれを発症した場合、生命予後が非常に悪い。
BCG接種は、生後直後から接種可能であるが、先天性の免疫不全の児ではないかどうかを出生直後に発見することは非常に困難で、3-4ヶ月の経過の中で、感染症のかかりやすさで診断されていく。3-4ヶ月の期間を待つ意味で、3-4ヶ月健診時時に、BCG接種をすることが、一般的になっていきていた。
)先天性の免疫不全の児を問診で見抜けるか
集団接種の丁寧な説明の中で、見抜けていたものが、個別接種となった場合に、見抜けない可能性が高まるかもしれない。
)BCG接種者の全身播種性BCG感染症の全数把握
国の規模で、全身播種性BCG感染症の全数把握を行う必要があると考える。
そして、なぜ、見抜けずにBCG接種を行うに至ったのかの原因を究明し、より安全な接種となるようにフィードバックすべきである。(見抜けないことが、医師の誤診であるということをいっているのではありません。どうしても見抜けないことはあろうかと思いますが、科学の積み重ねによって、より安全な接種を目指すべきと考え書いています。)
この体制の整備がすでにできているかどうかについては、今後、調査する必要あり。
*単純な医療過誤の発生の危険性
いままでは、集団接種であり、担当医師の質を、保健所内や保健センターなどで実施することで、確保してきた。
今後は、各開業医の場で実施することになり、BCG接種に不慣れな医師も当然出てくる。
今までも、医師の過誤に関する報告が出されている。
過誤の例)
・ケロイド:肩部に打つなど接種部位を誤り、ケロイドになった例がある。ケロイドをつくりやすい家族歴や体質のことを問診で確かめずに接種し、ケロイドになることもある。
・BCG接種用の特殊な針である「管針」の使いまわし:ひとりひとつの「管針」であるところが、何人も同じ「管針」で接種すること。複数回使用はしない。
・BCG液の期限切れのワクチンを接種する、保存温度の悪いワクチンを接種する。:力価が落ちていて、きちんと免疫がつかない可能性がある。
・BCG液をふつうの注射器を用いて接種する。:非常にひどい皮膚の反応を起こす!!
・「管針」を接種時にねじらない:針痕が大きく残る
・BCGワクチン液をツベルクリンと間違って注射する:ひどい潰瘍を接種部位に残す。
・シャーレーに入れたワクチンに管針を浸して接種する。
・接種後の部位を、アルコール綿でふく。
・管針のキャップをつけたまま接種。
⇒ありえないと思いながらも、実際になされたという報告がある医療過誤を書きました。
中央区では、上記の医療過誤が起こらないことを願いますが、そのためにも十分に経験のある小児科専門医により安全に接種がなされるとことを望みます。
などなど、
要するに、接種の手技がたいへん難しい一方、副反応及び副反応に似た反応も高率にでるため、診療所と保健所との密接な連携のもと、個別接種を慎重に導入する必要性があると考えます。
そして、導入の鍵のひとつは、丁寧な親御さんへの情報提供パンフレットの事前配布にあると考えます。
わかりやすい接種部位の経時変化(コッホ現象の経時変化も含め)の写真入りのパンフレットの作成の必要性を保健所の担当の皆様と、説明会が終った後、お話した次第です。
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