根回しに関して、元外務省主任分析官 佐藤優(さとう・まさる)氏の興味深い論説があったので、転載します。
根回しの重要性を適確にとらえていると思います。
私は、一方で、検討会・協議会の公開の重要性を主張しています。実際上は、根回しとのバランスをうまく保つことが物事を進める上で、非常に重要であると考えています。両者重要です。
太字、下線は、小坂による。
****読売新聞 夕刊(09/03/31)****
『根回しのマナー』
根回しは、日本人特有の文化で、物事を公の場で決めない、不透明で卑怯な行動であるという誤解がある。現役外交官時代、私はロシアやイスラエルの政権中枢と付き合ったが、仕事のほとんどが根回しだった。一緒に食事や家族旅行をすることで、信頼関係を高め、難しい問題を裏口から処理した。
あるとき「インテリジェンス(情報)の神様」と言われるイスラエル政府高官に、テルアビブの深夜レストランで一杯やりながら、「米国人は根回しを嫌うそうですが、どうやってロビー活動を行っているのですか」と尋ねたら、「君はインテリジェンス工作の本質がよくわかってないね」と笑われた。そして、高官はこんな話をした。
「米国の社交クラブやホームパーティーはすべて根回しの場だ。公開された場所での自由な討論で物事を決めるなどという建前に騙されてはならない。米国でもロシアでも、そして恐らく日本でも、重要な意思決定は、根回しをした後で行われる。ただし、米国では根回しの姿が外から見えないように細心の注意を払うという文化がある。それだから米国社会を表面的にしか観察していない外交官には、根回しの実態が見えないのだ」
確かに米国でロビイストやコンサルタントという職業が成り立つのも、根回し文化があるからだ。
どの国家や社会にも存在するマナー。つまり根回しの本質は、事前に正確な情報を交渉相手方と共有することだ。理想としては、相手がこちらの立場に同意してくれることだ。同意してくれない場合、積極的反対はしないという可能性を探る。それもだめな場合は、反対の度合いを緩めてもらう。情報を事前に提供することで、何が問題になっているかという土俵ができる。仮に相手と合意に至らないとしても、根回しをしてあれば、本交渉で事実に基づかない感情論の応酬をさけることができる。
永田町(政界)において、根回しは決定的に重要だ。「俺は聞いていない」という永田町の業界用語がある。これは、単に聞いていないということではなく、「お前は、俺を根回しする対象でない、力のない政治家と考えているな。それならば、この案件は全力で潰してやる」という意味だ。
「俺は聞いていない」(永田町言語)とは、「私は反対だ。絶対に認めない」(一般言語)ということである。有力政治家が「俺は聞いていない」というと官僚は震え上がる。
情報は力だ。事前に正確な情報を得ることが力の源泉になることは民間においても変わらない。実際には狡猾な根回しをしていても、外から見えないようにする知恵をつけることだ。
****以上、転載終わり****