今回の会社法の改正は、とても重要と伝え聞いています。
ならば、その施行日も大切。
一応、メモとして。
<経営判断の原則>
取締役には広い裁量権が与えられている。
その裁量権の逸脱濫用は以下、3つの部分で判定される。
その経営上の措置を執った時点において
1)取締役の判断の前提となった事実の認識に重要かつ不注意な誤りがあったか、(事実認識の過程=情報収集とその分析、検討)
あるいは、
2)事実認識に基づく判断の推論過程、
3)判断の内容自体
が、企業経営者として特に不合理、不適切なものであったことを要するものと解するのが相当である。
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取締役は、営利を目的とする会社の経営を委ねられた専門家として、長期的な視点に立って全株主にとって最も利益となるように職務を遂行すべき善管注意義務及び忠実義務を負っている(商法二五四条三項、民法六四四条、商法二五四条ノ三)。そして、事業を営み利益を上げるためには、会社の状況、会社を取り巻く市場及び業界の状況、国内・国外の情勢等、時々刻々変化するとともに相互に影響し合いかつ流動的な考慮要素を的確に把握して総合的に評価し、短期的・長期的な将来予測を行った上、時機を失することなく経営判断を積み重ねていかなければならないから、専門家である取締役には、その職務を遂行するに当たり、広い裁量が与えられているものと言わなければならない。したがって、取締役に対し、過去の経営上の措置が善管注意義務及び忠実義務に違背するとしてその責任を追及するためには、その経営上の措置を執った時点において、取締役の判断の前提となった事実の認識に重要かつ不注意な誤りがあったか、あるいは、その意思決定の過程、内容が企業経営者として特に不合理、不適切なものであったことを要するものと解するのが相当である。もっとも、このように、取締役には広い裁量が与えられているが、前判示のとおり、取締役は、会社経営を行うに当たり、外国法令を含む法令を遵守することが求められているのであり、取締役に与えられた裁量も法令に違反しない限りにおいてのものであって、取締役に対し、外国法令を含む法令に遵うか否かの裁量が与えられているものではない。
(大阪地判平成12年9月20日判決)
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<内部統制システム>
内部統制システムの構築およびそれを実際に機能させることは、取締役の善管注意義務の内容となる。
〇会社法
(取締役会の権限等)
第三百六十二条 取締役会は、すべての取締役で組織する。
2 取締役会は、次に掲げる職務を行う。
一 取締役会設置会社の業務執行の決定
二 取締役の職務の執行の監督
三 代表取締役の選定及び解職
3 取締役会は、取締役の中から代表取締役を選定しなければならない。
4 取締役会は、次に掲げる事項その他の重要な業務執行の決定を取締役に委任することができない。
一 重要な財産の処分及び譲受け
二 多額の借財
三 支配人その他の重要な使用人の選任及び解任
四 支店その他の重要な組織の設置、変更及び廃止
五 第六百七十六条第一号に掲げる事項その他の社債を引き受ける者の募集に関する重要な事項として法務省令で定める事項
六 取締役の職務の執行が法令及び定款に適合することを確保するための体制その他株式会社の業務の適正を確保するために必要なものとして法務省令で定める体制の整備
七 第四百二十六条第一項の規定による定款の定めに基づく第四百二十三条第一項の責任の免除
5 大会社である取締役会設置会社においては、取締役会は、前項第六号に掲げる事項を決定しなければならない。
〇会社法施行規則
(業務の適正を確保するための体制)
第百条 法第三百六十二条第四項第六号 に規定する法務省令で定める体制は、次に掲げる体制とする。
一 取締役の職務の執行に係る情報の保存及び管理に関する体制
二 損失の危険の管理に関する規程その他の体制
三 取締役の職務の執行が効率的に行われることを確保するための体制
四 使用人の職務の執行が法令及び定款に適合することを確保するための体制
五 当該株式会社並びにその親会社及び子会社から成る企業集団における業務の適正を確保するための体制
2 監査役設置会社以外の株式会社である場合には、前項に規定する体制には、取締役が株主に報告すべき事項の報告をするための体制を含むものとする。
3 監査役設置会社(監査役の監査の範囲を会計に関するものに限定する旨の定款の定めがある株式会社を含む。)である場合には、第一項に規定する体制には、次に掲げる体制を含むものとする。
一 監査役がその職務を補助すべき使用人を置くことを求めた場合における当該使用人に関する事項
二 前号の使用人の取締役からの独立性に関する事項
三 取締役及び使用人が監査役に報告をするための体制その他の監査役への報告に関する体制
四 その他監査役の監査が実効的に行われることを確保するための体制
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やや、乱暴な書き方を許されるのであれば、979条ある条文中、会社法の中で、最も大切な条文は、429条と感じています。(2番目は、株主代表訴訟の847条か。)
とくにその429条1項(改正前商法266条ノ3第1項)
会社法
(役員等の第三者に対する損害賠償責任)
第四百二十九条 役員等がその職務を行うについて悪意又は重大な過失があったときは、当該役員等は、これによって第三者に生じた損害を賠償する責任を負う。
この条文の肝は、悪意(又は重大な過失)。
悪意=「知っていること」という文言が出てきたら、常に、「何について?」をセットで考えねばなりません。
この場合、「取締役としての“任務懈怠”」についての悪意。
この文言を持っていることが、この条文の優れたところで、これにより証明の負担がものすごく軽減されます。
例えば、偽装事件を起こし倒産した会社の取締役責任追及の場合でも、
「偽装事件自体を知る(第三者への加害について知る)」ことの証明よりも、「偽装事件自体などを知るべき立場として任務を怠っていなかったか(善管注意義務及び忠実義務に違反しなかったか)」を証明する方がはるかに楽です。
429条の法の趣旨を、最高裁は以下、述べています。
最高裁昭和44年11月26日大法廷判決:
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/js_20100319120335253311.pdf
法は、株式会社が経済社会において重要な地位を占めていること、しか
も株式会社の活動はその機関である取締役の職務執行に依存するものであることを
考慮して、第三者保護の立場から、取締役において悪意または重大な過失により右
義務に違反し、これによつて第三者に損害を被らせたときは、取締役の任務懈怠の
行為と第三者の損害との間に相当の因果関係があるかぎり、会社がこれによつて損
害を被つた結果、ひいて第三者に損害を生じた場合であると、直接第三者が損害を
被つた場合であるとを問うことなく、当該取締役が直接に第三者に対し損害賠償の
責に任ずべきことを規定したのである。
429条を用いて、取締役へ責任追及する手順
X⇒Yへの請求が認められるためには、
会社法429条1項の各要件が充足される必要がある。
以下、検討する。
(法定責任説の立場で)
1.Yが取締役である。
2.Yに任務懈怠がある。
3.Yが任務懈怠について悪意・重過失である。
4.損害が発生。
5.Xが「第3者」である。
6.相当因果関係がある。
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<429条の解釈上の論点>
1)責任の性質が特別の法定責任か、不法行為責任か
⇒第三者保護のための特別の法定責任を定めたもの
2)民法709条の不法行為責任との競合を認めるか
⇒競合を認める
3)責任の範囲は直接損害(会社が損害を受けたか否かを問わず取締役の行為によって第三者が直接に損害を受ける場合)に限るか、間接損害(取締役の行為によって一次的に会社に損害が生じ、その結果第二次的に第三者が損害を受ける場合)に限るか、それとも両方含むか
⇒両損害包含説
4)悪意・重過失は会社に対する取締役の任務懈怠について必要か、第三者への加害について必要か
⇒悪意・重過失は、会社に対する任務懈怠について必要。
代表取締役が他の代表取締役その他の者に会社業務の一切をまかせきりにし、それらの者の不正行為や任務懈怠を看過した場合には自らも悪意・重過失により任務懈怠を怠ったものとして責任を負う。
5)第三者の範囲、株主も含むか、他の取締役(会社への貸付金の回収不能の損害)にも及ぶか
⇒株主の場合、1)Yの会社への賠償で株価が回復、2)423条(免除は総株主の同意424条)と429条の二重の請求の負担 が問題
他の取締役:横浜地判昭和58年3月17日
以上
<会社法>
2)親会社の法令違反指示に従い損害を生じた子会社のその取引先による親会社取締役に対する責任追及(20130515 2年目)
http://blog.goo.ne.jp/kodomogenki/e/aae6270a4514485d17caaa96efbead7a
1)会社法といえば、429条(取締役の任務懈怠に関する損害賠償責任) (20130402 2年目)
http://blog.goo.ne.jp/kodomogenki/e/fa84f95773437b497810eb38a44e1606