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裁判員裁判制度を学ぶ公開授業で『刑事弁護のロマンを語る』みたいなことを、プロを招きやれないだろうか。

2015-06-08 23:00:00 | 裁判員裁判制度
中央区立某中学校 裁判員裁判制度を学ぶ公開授業で白熱講義『刑事弁護のロマンを語る』 



A先生は、弁護士で、刑事弁護の第一人者。
Q君らは、中央区立某中学校の生徒のみなさん。

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Q君:刑事弁護って、難しいと聞きますが、どのような点が難しいのですか?

A先生:ひとことで言うと、「刑事弁護に正解は、ない。」ということです。
   教科書や、マニュアル本があって、条件を当てはめていくと、その犯行の罪責が自動的に出るなどということは、ないのです。

Q君:犯罪事件で、何が起きたか、真実は、だれも見つけることができないから、なのですか?

A先生:その通りです。


 例えば、現行犯だから、その人が犯人だと真実が言えそうですよね。



Q君:犯行の現場を押さえているのだから、そうではないでしょうか?

A先生:いいえ。そうではありません。

 現行犯であっても、その犯人を捕らえた人の思い違いが入っていることがありえます。



 例えば、その被疑者が、その犯行を行っている場面が、ビデオに捉えられていたら、そのビデオが真実を映しているといえそうですよね。


Q君:ビデオは、間違いなく、真実をとらえていませんか?

A先生:ビデオが間違いなく、被疑者が犯行をしている場面をとらえていたとしても、ビデオには当然に限界があります。その被疑者の心の内面までは映していません。
 犯人の主観的部分が、刑法では大いに意味を持ちます。
 殺意の有無という犯人の主観が、殺人罪の成立に重要な位置を占めます。
 しかし、ビデオは、犯人の主観まで、映しえません。


 その被疑者が、絶対にうそを言っていないとして、自白したとしましょう。どうですか?


Q君:その被疑者がやったというのだから、やったということが真実でしょう?

A先生:いいえ。うそを言ってはいないと言うその被疑者自身が、思い違いをしていることもあります。



Q君:現行犯、ビデオの証拠、被疑者の自白等をもってしても、真実は発見できないことがわかりました。


A先生:それら証拠には、限界があるということです。
    
  犯行現場の状況を、時間を巻き戻して、再生することは、不可能なのであって、真実は、わかりません。


Q君:では、どうやって、真実を発見すればよいのですか?


A先生:日本の裁判所では、「検察側に、その被疑者が犯罪をやったとした場合の仮説ストーリーを立てさせ、弁護人がその仮説ストーリーに対して徹底的に検察の揚げ足をとり、それでも仮説ストーリーが耐えうるのであれば、検察の仮説ストーリーを真実と考えてよかろうとするシステム」を採用しています。

 ただし、この日本の裁判所のシステムが機能するには、最低3つの条件が整うことが必要です。


Q君:どんな条件が整うことが必要なのですか?


A先生:ひとつは、証拠を検察側と弁護側で公平に共有できるということです。
   そしてこのことは、特に、検察側に特に言えることです。
   弁護側が収集できる力には、国の力で収集する検察に比べ限界があり、圧倒的な差が生じています。
   そして往々にして、 検察側にとって、自らの仮説ストーリーに都合が悪い証拠は敢えて出さないと思うのが、人の嵯峨というものです。

   二つ目は、弁護人側のことですが、弁護人側の資質やモチベーション。
   こんな事件はどうしようもないと思いあきらめてしまう弁護人、頭を柔軟にして証拠と向き合うことができない弁護人は、検察側との真向勝負ができず、検察側の仮説ストリーに流される結果となりがちです。

   そして、最後の条件は、「刑事裁判のルール」が守られて裁判されるという裁判所側のことです。

Q君:裁判所側のこととなると、裁判員裁判制度が始まり、私達も裁判員になる可能性があり、「刑事裁判のルール」を理解しておく必要があるということですね?

A先生:そういうことです。
 「証明責任」と「証明の程度」に関連する次の三つが、大事な「刑事裁判のルール」です。

 一つは、「証拠」に基づいて、認定をするということです。
 裁判員自ら、ネットを検索するなどして、その情報をもとに判断しては、なりません。

 二つ目は、犯人であるという「立証責任」は、検察側にあります。
 その検察側の仮説ストーリーが崩れれば、その被疑者は、どんなに疑わしくとも無罪です。

 三つ目は、不確かな状態では、絶対にその被疑者を犯人にしてはいけないということです。
 「証明の程度」すなわち、「間違いない」と言えないと犯人にはできません。

 
Q君:三つ目のルールの下では、もしかして、真犯人を逃がしてしまうことに繋がりませんか?


A先生:「真犯人を逃がさないこと」と、「冤罪をつくらないこと」とどちらかを私達は選択せねばなりません。
   「真犯人を逃がさないこと」をやり、同時に「冤罪をつくらないこと」をやることは、不可能に等しいことです。
   そこで、私達日本の裁判所は、「冤罪をつくらないこと」を選択したのです。

   言い過ぎかもしれませんが、「たとえ10人の真犯罪人を逃がしたとしても、1人の冤罪を生まないこと」を目指したのです。

Q君:日本の刑事裁判での、真実の発見する構造がわかりました。

  日々、刑事弁護する中で、弁護士の先生方は、どのようなことで、ご苦労されているのでしょうか?

A先生:苦悩と言ってよいほどの、「迷い」の苦労があると言います。

 
Q君:どのような点ででしょうか?


A先生:自分がなす判断への迷いです。

   争う(否認する)べきか、争わない(情状を求める)べきか。

   しゃべる(供述する)べきか、しゃべらない(黙秘)べきか。

   そして、どうやって、勝つべきか。

   ひとの人生がかかった依頼にこたえるのですから、迷いは大きいです。
   プロがプロたるゆえんは、自らが判断し、その判断の責任を自らが負うところにあるのです。


  以上が、刑事弁護の現場のお話です。

  何か、質問はありませんか?


R君:依頼人の被疑者にウソをつかれることはありませんか?


A先生:何度も犯罪を繰り返すひとがいるのも事実です。やりがいを見出しがたい事件もあるでしょう。
   依頼人にウソをつかれることもあるでしょう。依頼者にとっては、必死であり、ウソをつかれるそのことに腹を立てていてばかりいては、ことはすすみません。
   ウソをつかれるのは、そこまでの弁護人であるということです。
   依頼者の言っていることを、論理立てていくと、ウソの場合は、矛盾が生じます。その矛盾が、法廷の場で出てもよいのかと依頼者に聞き直し、方向性を模索していきます。


S君:PC遠隔操作事件では、依頼者が、無実を争っていたが、実は、犯人であったということが後に判明しました。

A先生:「犯人じゃない。」が、依頼者に覆されて「犯人です。」は、まだ、よいです。
    「犯人じゃない」を言い続けられ、しかし、犯罪が確定していくことが、実は、つらい話です。

   繰り返しますが、冤罪は、絶対に生んではなりません。
   無実であるにもかかわらず、刑を課せられたひとが、その周囲のひとも含め、とても不幸です。
   そして、なによりも当該犯罪の被害者のご遺族にとっても、何十年とたってから再審で冤罪であったして判決が覆るとなると、その時に、あらためて、真犯人を探そうとしても、犯罪は迷宮入りしてしまいます。ご遺族の怒りのやり場がなくなってしまいます。筆舌し難い不幸が生じます。

   やりがいと責任は、正比例します。
   刑事弁護の責任は、並大抵でない大きなものですが、その分やりがいも大きいものです。  
   正解のない事件について、孤立無援の依頼者のために、国に対しても挑戦していくのが刑事弁護であり、なにものにも代えがたいやりがいのある職です。

   皆様も、誰か、法律学を勉強して、弁護士そして、検察、裁判官を目指して下さい。

   本日は、ご清聴、そして活発な質疑を、ありがとうございました。

Q君ら:ありがとうございました。


以上
 
コメント

裁判員制度:憲法は,刑事裁判における国民の司法参加を許容(最判H23.11.16)

2014-09-18 23:00:00 | 裁判員裁判制度




事件番号

 平成22(あ)1196



事件名

 覚せい剤取締法違反,関税法違反被告事件



裁判年月日

 平成23年11月16日



法廷名

 最高裁判所大法廷



裁判種別

 判決



結果

 棄却



判例集等巻・号・頁

 刑集 第65巻8号1285頁




原審裁判所名

 東京高等裁判所



原審事件番号

 平成22(う)393



原審裁判年月日

 平成22年6月21日




判示事項

 1 刑事裁判における国民の司法参加と憲法
2 裁判員制度と憲法31条,32条,37条1項,76条1項,80条1項
3 裁判員制度と憲法76条3項
4 裁判員制度と憲法76条2項
5 裁判員の職務等と憲法18条後段が禁ずる「苦役」



裁判要旨

 1 憲法は,刑事裁判における国民の司法参加を許容しており,憲法の定める適正な刑事裁判を実現するための諸原則が確保されている限り,その内容を立法政策に委ねている。
2 裁判員制度は,憲法31条,32条,37条1項,76条1項,80条1項に違反しない。
3 裁判員制度は,憲法76条3項に違反しない。
4 裁判員制度は,憲法76条2項に違反しない。
5 裁判員の職務等は,憲法18条後段が禁ずる「苦役」に当たらない。



参照法条

 (1〜4につき) 憲法76条 (1,2につき) 憲法31条,憲法32条,憲法37条,憲法80条 (1につき) 憲法前文第1段,憲法33条,憲法34条,憲法35条,憲法36条,憲法38条,憲法39条,憲法78条,憲法79条,大日本帝国憲法24条,裁判所法3条3項 (2〜5につき) 裁判員の参加する刑事裁判に関する法律1条,裁判員の参加する刑事裁判に関する法律2条1項,裁判員の参加する刑事裁判に関する法律2条2項,裁判員の参加する刑事裁判に関する法律2条3項,裁判員の参加する刑事裁判に関する法律6条,裁判員の参加する刑事裁判に関する法律9条,裁判員の参加する刑事裁判に関する法律16条,裁判員の参加する刑事裁判に関する法律51条,裁判員の参加する刑事裁判に関する法律66条,裁判員の参加する刑事裁判に関する法律67条,裁判員の参加する刑事裁判に関する法律第16条第8号に規定するやむを得ない事由を定める政令 (5につき) 憲法18条後段

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判決文全文

http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/769/081769_hanrei.pdf

- 1 -
主 文
本件上告を棄却する。
当審における未決勾留日数中390日を第1審判決の懲
役刑に算入する。


理 由
第1 弁護人小清水義治の上告趣意のうち,裁判員の参加する刑事裁判に関する
法律(以下「裁判員法」という。)の憲法違反をいう点について
1 所論は,多岐にわたり裁判員法が憲法に違反する旨主張するが,その概要
は,次のとおりである。①憲法には,裁判官以外の国民が裁判体の構成員となり評
決権を持って裁判を行うこと(以下「国民の司法参加」という。)を想定した規定
はなく,憲法80条1項は,下級裁判所が裁判官のみによって構成されることを定
めているものと解される。したがって,裁判員法に基づき裁判官以外の者が構成員
となった裁判体は憲法にいう「裁判所」には当たらないから,これによって裁判が
行われる制度(以下「裁判員制度」という。)は,何人に対しても裁判所において
裁判を受ける権利を保障した憲法32条,全ての刑事事件において被告人に公平な
裁判所による迅速な公開裁判を保障した憲法37条1項に違反する上,その手続は
適正な司法手続とはいえないので,全て司法権は裁判所に属すると規定する憲法7
6条1項,適正手続を保障した憲法31条に違反する。②裁判員制度の下では,裁
判官は,裁判員の判断に影響,拘束されることになるから,同制度は,裁判官の職
権行使の独立を保障した憲法76条3項に違反する。③裁判員が参加する裁判体
は,通常の裁判所の系列外に位置するものであるから,憲法76条2項により設置
が禁止されている特別裁判所に該当する。④裁判員制度は,裁判員となる国民に憲
- 2 -
法上の根拠のない負担を課すものであるから,意に反する苦役に服させることを禁
じた憲法18条後段に違反する。
しかしながら,憲法は,国民の司法参加を許容しているものと解され,裁判員法
に所論の憲法違反はないというべきである。その理由は,次のとおりである。
2 まず,国民の司法参加が一般に憲法上禁じられているか否かについて検討す
る。
(1) 憲法に国民の司法参加を認める旨の規定が置かれていないことは,所論が
指摘するとおりである。しかしながら,明文の規定が置かれていないことが,直ち
に国民の司法参加の禁止を意味するものではない。憲法上,刑事裁判に国民の司法
参加が許容されているか否かという刑事司法の基本に関わる問題は,憲法が採用す
る統治の基本原理や刑事裁判の諸原則,憲法制定当時の歴史的状況を含めた憲法制
定の経緯及び憲法の関連規定の文理を総合的に検討して判断されるべき事柄であ
る。
(2) 裁判は,証拠に基づいて事実を明らかにし,これに法を適用することによ
って,人の権利義務を最終的に確定する国の作用であり,取り分け,刑事裁判は,
人の生命すら奪うことのある強大な国権の行使である。そのため,多くの近代民主
主義国家において,それぞれの歴史を通じて,刑事裁判権の行使が適切に行われる
よう種々の原則が確立されてきた。基本的人権の保障を重視した憲法では,特に3
1条から39条において,適正手続の保障,裁判を受ける権利,令状主義,公平な
裁判所の迅速な公開裁判を受ける権利,証人審問権及び証人喚問権,弁護人依頼
権,自己負罪拒否の特権,強制による自白の排除,刑罰不遡及の原則,一事不再理
など,適正な刑事裁判を実現するための諸原則を定めており,そのほとんどは,各
- 3 -
国の刑事裁判の歴史を通じて確立されてきた普遍的な原理ともいうべきものであ
る。刑事裁判を行うに当たっては,これらの諸原則が厳格に遵守されなければなら
ず,それには高度の法的専門性が要求される。憲法は,これらの諸原則を規定し,
かつ,三権分立の原則の下に,「第6章 司法」において,裁判官の職権行使の独
立と身分保障について周到な規定を設けている。こうした点を総合考慮すると,憲
法は,刑事裁判の基本的な担い手として裁判官を想定していると考えられる。
(3) 他方,歴史的,国際的な視点から見ると,欧米諸国においては,上記のよ
うな手続の保障とともに,18世紀から20世紀前半にかけて,民主主義の発展に
伴い,国民が直接司法に参加することにより裁判の国民的基盤を強化し,その正統
性を確保しようとする流れが広がり,憲法制定当時の20世紀半ばには,欧米の民
主主義国家の多くにおいて陪審制か参審制が採用されていた。我が国でも,大日本
帝国憲法(以下「旧憲法」という。)の下,大正12年に陪審法が制定され,昭和
3年から480件余りの刑事事件について陪審裁判が実施され,戦時下の昭和18
年に停止された状況にあった。
憲法は,その前文において,あらゆる国家の行為は,国民の厳粛な信託によるも
のであるとする国民主権の原理を宣言した。上記のような時代背景とこの基本原理
の下で,司法権の内容を具体的に定めるに当たっては,国民の司法参加が許容され
るか否かについても関心が払われていた。すなわち,旧憲法では,24条において
「日本臣民ハ法律ニ定メタル裁判官ノ裁判ヲ受クルノ権ヲ奪ハルヽコトナシ」と規
定されていたが,憲法では,32条において「何人も,裁判所において裁判を受け
る権利を奪はれない。」と規定され,憲法37条1項においては「すべて刑事事件
においては,被告人は,公平な裁判所の迅速な公開裁判を受ける権利を有する。」
- 4 -
と規定されており,「裁判官による裁判」から「裁判所における裁判」へと表現が
改められた。また,憲法は,「第6章 司法」において,最高裁判所と異なり,下
級裁判所については,裁判官のみで構成される旨を明示した規定を置いていない。
憲法制定過程についての関係資料によれば,憲法のこうした文理面から,憲法制定
当時の政府部内では,陪審制や参審制を採用することも可能であると解されていた
ことが認められる。こうした理解は,枢密院の審査委員会において提示され,さら
に,憲法制定議会においても,米国型の陪審制導入について問われた憲法改正担当
の国務大臣から,「陪審問題の点については,憲法に特別の規定はないが,民主政
治の趣旨に則り,必要な規定は法律で定められ,現在の制度を完備することは憲法
の毫も嫌っているところではない。」旨の見解が示され,この点について特に異論
が示されることなく,憲法が可決成立するに至っている。憲法と同時に施行された
裁判所法が,3条3項において「この法律の規定は,刑事について,別に法律で陪
審の制度を設けることを妨げない。」と規定しているのも,こうした経緯に符合す
るものである。憲法の制定に際しては,我が国において停止中とはいえ現に陪審制
が存在していたことや,刑事裁判に関する諸規定が主に米国の刑事司法を念頭にお
いて検討されたこと等から,議論が陪審制を中心として行われているが,以上のよ
うな憲法制定過程を見ても,ヨーロッパの国々で行われていた参審制を排除する趣
旨は認められない。
刑事裁判に国民が参加して民主的基盤の強化を図ることと,憲法の定める人権の
保障を全うしつつ,証拠に基づいて事実を明らかにし,個人の権利と社会の秩序を
確保するという刑事裁判の使命を果たすこととは,決して相容れないものではな
く,このことは,陪審制又は参審制を有する欧米諸国の経験に照らしても,基本的
- 5 -
に了解し得るところである。
(4) そうすると,国民の司法参加と適正な刑事裁判を実現するための諸原則と
は,十分調和させることが可能であり,憲法上国民の司法参加がおよそ禁じられて
いると解すべき理由はなく,国民の司法参加に係る制度の合憲性は,具体的に設け
られた制度が,適正な刑事裁判を実現するための諸原則に抵触するか否かによって
決せられるべきものである。換言すれば,憲法は,一般的には国民の司法参加を許
容しており,これを採用する場合には,上記の諸原則が確保されている限り,陪審
制とするか参審制とするかを含め,その内容を立法政策に委ねていると解されるの
である。
3 そこで,次に,裁判員法による裁判員制度の具体的な内容について,憲法に
違反する点があるか否かを検討する。
(1) 所論①は,憲法31条,32条,37条1項,76条1項,80条1項違
反をいうものである。
しかし,憲法80条1項が,裁判所は裁判官のみによって構成されることを要求
しているか否かは,結局のところ,憲法が国民の司法参加を許容しているか否かに
帰着する問題である。既に述べたとおり,憲法は,最高裁判所と異なり,下級裁判
所については,国民の司法参加を禁じているとは解されない。したがって,裁判官
と国民とで構成する裁判体が,それゆえ直ちに憲法上の「裁判所」に当たらないと
いうことはできない。
問題は,裁判員制度の下で裁判官と国民とにより構成される裁判体が,刑事裁判
に関する様々な憲法上の要請に適合した「裁判所」といい得るものであるか否かに
ある。
- 6 -
裁判員法では,裁判官3名及び裁判員6名(公訴事実に争いがない事件について
は,場合により裁判官1名及び裁判員4名)によって裁判体を構成するとしている
(2条2項,3項)。裁判員の選任については,衆議院議員の選挙権を有する者の
中から,くじによって候補者が選定されて裁判所に呼び出され,選任のための手続
において,不公平な裁判をするおそれがある者,あるいは検察官及び被告人に一定
数まで認められた理由を示さない不選任の請求の対象とされた者などが除かれた
上,残った候補者から更にくじその他の作為が加わらない方法に従って選任される
ものとしている(13条から37条)。また,解任制度により,判決に至るまで裁
判員の適格性が確保されるよう配慮されている(41条,43条)。裁判員は,裁
判官と共に合議体を構成し,事実の認定,法令の適用及び刑の量定について合議す
ることとされ,法令の解釈に係る判断及び訴訟手続に関する判断等は裁判官に委ね
られている(6条)。裁判員は,法令に従い公平誠実にその職務を行う義務等を負
う一方(9条),裁判官,検察官及び弁護人は,裁判員がその職責を十分に果たす
ことができるよう,審理を迅速で分かりやすいものとすることに努めなければなら
ないものとされている(51条)。裁判官と裁判員の評議は,裁判官と裁判員が対
等の権限を有することを前提にその合議によるものとされ(6条1項,66条1
項),その際,裁判長は,必要な法令に関する説明を丁寧に行うとともに,評議を
裁判員に分かりやすいものとなるように整理し,裁判員が発言する機会を十分に設
けるなど,裁判員がその職責を十分に果たすことができるように配慮しなければな
らないとされている(66条5項)。評決については,裁判官と裁判員の双方の意
見を含む合議体の員数の過半数の意見によることとされ,刑の量定についても同様
の原則の下に決定するものとされている(67条)。評議における自由な意見表明
- 7 -
を保障するために,評議の経過等に関する守秘義務も設け(70条1項),裁判員
に対する請託,威迫等は罰則をもって禁止されている(106条,107条)。
以上によれば,裁判員裁判対象事件を取り扱う裁判体は,身分保障の下,独立し
て職権を行使することが保障された裁判官と,公平性,中立性を確保できるよう配
慮された手続の下に選任された裁判員とによって構成されるものとされている。ま
た,裁判員の権限は,裁判官と共に公判廷で審理に臨み,評議において事実認定,
法令の適用及び有罪の場合の刑の量定について意見を述べ,評決を行うことにあ
る。これら裁判員の関与する判断は,いずれも司法作用の内容をなすものである
が,必ずしもあらかじめ法律的な知識,経験を有することが不可欠な事項であると
はいえない。さらに,裁判長は,裁判員がその職責を十分に果たすことができるよ
うに配慮しなければならないとされていることも考慮すると,上記のような権限を
付与された裁判員が,様々な視点や感覚を反映させつつ,裁判官との協議を通じて
良識ある結論に達することは,十分期待することができる。他方,憲法が定める刑
事裁判の諸原則の保障は,裁判官の判断に委ねられている。
このような裁判員制度の仕組みを考慮すれば,公平な「裁判所」における法と証
拠に基づく適正な裁判が行われること(憲法31条,32条,37条1項)は制度
的に十分保障されている上,裁判官は刑事裁判の基本的な担い手とされているもの
と認められ,憲法が定める刑事裁判の諸原則を確保する上での支障はないというこ
とができる。
したがって,憲法31条,32条,37条1項,76条1項,80条1項違反を
いう所論は理由がない。
(2) 所論②は,憲法76条3項違反をいうものである。
- 8 -
しかしながら,憲法76条3項によれば,裁判官は憲法及び法律に拘束される。
そうすると,既に述べたとおり,憲法が一般的に国民の司法参加を許容しており,
裁判員法が憲法に適合するようにこれを法制化したものである以上,裁判員法が規
定する評決制度の下で,裁判官が時に自らの意見と異なる結論に従わざるを得ない
場合があるとしても,それは憲法に適合する法律に拘束される結果であるから,同
項違反との評価を受ける余地はない。元来,憲法76条3項は,裁判官の職権行使
の独立性を保障することにより,他からの干渉や圧力を受けることなく,裁判が法
に基づき公正中立に行われることを保障しようとするものであるが,裁判員制度の
下においても,法令の解釈に係る判断や訴訟手続に関する判断を裁判官の権限にす
るなど,裁判官を裁判の基本的な担い手として,法に基づく公正中立な裁判の実現
が図られており,こうした点からも,裁判員制度は,同項の趣旨に反するものでは
ない。
憲法76条3項違反をいう見解からは,裁判官の2倍の数の国民が加わって裁判
体を構成し,多数決で結論を出す制度の下では,裁判が国民の感覚的な判断に支配
され,裁判官のみで判断する場合と結論が異なってしまう場合があり,裁判所が果
たすべき被告人の人権保障の役割を全うできないことになりかねないから,そのよ
うな構成は憲法上許容されないという主張もされている。しかし,そもそも,国民
が参加した場合であっても,裁判官の多数意見と同じ結論が常に確保されなければ
ならないということであれば,国民の司法参加を認める意義の重要な部分が没却さ
れることにもなりかねず,憲法が国民の司法参加を許容している以上,裁判体の構
成員である裁判官の多数意見が常に裁判の結論でなければならないとは解されな
い。先に述べたとおり,評決の対象が限定されている上,評議に当たって裁判長が
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十分な説明を行う旨が定められ,評決については,単なる多数決でなく,多数意見
の中に少なくとも1人の裁判官が加わっていることが必要とされていることなどを
考えると,被告人の権利保護という観点からの配慮もされているところであり,裁
判官のみによる裁判の場合と結論を異にするおそれがあることをもって,憲法上許
容されない構成であるとはいえない。
したがって,憲法76条3項違反をいう所論は理由がない。
(3) 所論③は,憲法76条2項違反をいうものである。
しかし,裁判員制度による裁判体は,地方裁判所に属するものであり,その第1
審判決に対しては,高等裁判所への控訴及び最高裁判所への上告が認められてお
り,裁判官と裁判員によって構成された裁判体が特別裁判所に当たらないことは明
らかである。
(4) 所論④は,憲法18条後段違反をいうものである。
裁判員としての職務に従事し,又は裁判員候補者として裁判所に出頭すること
(以下,併せて「裁判員の職務等」という。)により,国民に一定の負担が生ずる
ことは否定できない。しかし,裁判員法1条は,制度導入の趣旨について,国民の
中から選任された裁判員が裁判官と共に刑事訴訟手続に関与することが司法に対す
る国民の理解の増進とその信頼の向上に資することを挙げており,これは,この制
度が国民主権の理念に沿って司法の国民的基盤の強化を図るものであることを示し
ていると解される。このように,裁判員の職務等は,司法権の行使に対する国民の
参加という点で参政権と同様の権限を国民に付与するものであり,これを「苦役」
ということは必ずしも適切ではない。また,裁判員法16条は,国民の負担を過重
にしないという観点から,裁判員となることを辞退できる者を類型的に規定し,さ
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らに同条8号及び同号に基づく政令においては,個々人の事情を踏まえて,裁判員
の職務等を行うことにより自己又は第三者に身体上,精神上又は経済上の重大な不
利益が生ずると認めるに足りる相当な理由がある場合には辞退を認めるなど,辞退
に関し柔軟な制度を設けている。加えて,出頭した裁判員又は裁判員候補者に対す
る旅費,日当等の支給により負担を軽減するための経済的措置が講じられている
(11条,29条2項)。
これらの事情を考慮すれば,裁判員の職務等は,憲法18条後段が禁ずる「苦
役」に当たらないことは明らかであり,また,裁判員又は裁判員候補者のその他の
基本的人権を侵害するところも見当たらないというべきである。
4 裁判員制度は,裁判員が個別の事件ごとに国民の中から無作為に選任され,
裁判官のような身分を有しないという点においては,陪審制に類似するが,他方,
裁判官と共に事実認定,法令の適用及び量刑判断を行うという点においては,参審
制とも共通するところが少なくなく,我が国独特の国民の司法参加の制度であると
いうことができる。それだけに,この制度が陪審制や参審制の利点を生かし,優れ
た制度として社会に定着するためには,その運営に関与する全ての者による不断の
努力が求められるものといえよう。裁判員制度が導入されるまで,我が国の刑事裁
判は,裁判官を始めとする法曹のみによって担われ,詳細な事実認定などを特徴と
する高度に専門化した運用が行われてきた。司法の役割を実現するために,法に関
する専門性が必須であることは既に述べたとおりであるが,法曹のみによって実現
される高度の専門性は,時に国民の理解を困難にし,その感覚から乖離したものに
もなりかねない側面を持つ。刑事裁判のように,国民の日常生活と密接に関連し,
国民の理解と支持が不可欠とされる領域においては,この点に対する配慮は特に重
- 11 -
要である。裁判員制度は,司法の国民的基盤の強化を目的とするものであるが,そ
れは,国民の視点や感覚と法曹の専門性とが常に交流することによって,相互の理
解を深め,それぞれの長所が生かされるような刑事裁判の実現を目指すものという
ことができる。その目的を十全に達成するには相当の期間を必要とすることはいう
までもないが,その過程もまた,国民に根ざした司法を実現する上で,大きな意義
を有するものと思われる。このような長期的な視点に立った努力の積み重ねによっ
て,我が国の実情に最も適した国民の司法参加の制度を実現していくことができる
ものと考えられる。
第2 その余の上告趣意について
弁護人のその余の上告趣意は,単なる法令違反,事実誤認,量刑不当の主張であ
って,適法な上告理由に当たらない。
よって,刑訴法414条,396条,刑法21条により,裁判官全員一致の意見
で,主文のとおり判決する。
検察官岩橋義明,同上野友慈 公判出席
(裁判長裁判官 竹崎博允 裁判官 古田佑紀 裁判官 那須弘平 裁判官
田原睦夫 裁判官 宮川光治 裁判官 櫻井龍子 裁判官 竹内行夫 裁判官
金築誠志 裁判官 須藤正彦 裁判官 千葉勝美 裁判官 横田尤孝 裁判官
白木 勇 裁判官 岡部喜代子 裁判官 大谷剛彦 裁判官 寺田逸郎)
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裁判員制度による審理裁判を受けるか否かについての選択権と憲法32条,37条

2014-09-16 23:00:00 | 裁判員裁判制度
 裁判員裁判の判例

********************************

事件番号

 平成22(あ)1299



事件名

 覚せい剤取締法違反,関税法違反被告事件



裁判年月日

 平成24年1月13日



法廷名

 最高裁判所第二小法廷



裁判種別

 判決



結果

 棄却



判例集等巻・号・頁

 刑集 第66巻1号1頁




原審裁判所名

 東京高等裁判所



原審事件番号

 平成22(う)693



原審裁判年月日

 平成22年6月29日




判示事項

 裁判員制度による審理裁判を受けるか否かについての選択権と憲法32条,37条



裁判要旨

 裁判員制度による審理裁判を受けるか否かについて被告人に選択権が認められていないからといって,同制度は憲法32条,37条に違反しない。



参照法条

 憲法32条,憲法37条,裁判員の参加する刑事裁判に関する法律2条


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判決文全文

http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/879/081879_hanrei.pdf

- 1 -
主 文
本件上告を棄却する。
当審における未決勾留日数中450日を第1審判決の懲
役刑に算入する。
理 由
1 弁護人大内義三の上告趣意のうち,裁判員の参加する刑事裁判に関する法律
(以下「裁判員法」という。)の憲法違反をいう点について
所論は,裁判員法による裁判員制度には,被告人の権利が十分保障されないなど
多くの問題点があり,裁判員制度は,同制度による審理裁判を受けるか否かについ
て被告人に選択権を認めていない点において,憲法32条,37条に違反する旨主
張する。
しかし,憲法は,刑事裁判における国民の司法参加を許容しており,憲法の定め
る適正な刑事裁判を実現するための諸原則が確保されている限り,その内容を立法
政策に委ねていると解されるところ,裁判員制度においては,公平な裁判所におけ
る法と証拠に基づく適正な裁判が制度的に保障されているなど,上記の諸原則が確
保されている。したがって,裁判員制度による審理裁判を受けるか否かについて被
告人に選択権が認められていないからといって,同制度が憲法32条,37条に違
反するものではない。このように解すべきことは,当裁判所の判例(最高裁平成2
2年(あ)第1196号同23年11月16日大法廷判決・裁判所時報1544号
1頁)の趣旨に徴して明らかである。所論は理由がない。
2 弁護人のその余の上告趣意及び被告人本人の上告趣意は,いずれも事実誤認
の主張であって,刑訴法405条の上告理由に当たらない。
- 2 -
3 よって,刑訴法408条,181条1項ただし書,刑法21条により,裁判
官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 須藤正彦 裁判官 古田佑紀 裁判官 竹内行夫 裁判官
千葉勝美)
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