現場の声がまとめられた記事です。
*******朝日新聞20180430***************************
https://digital.asahi.com/articles/DA3S13474703.html
(フォーラム)身近な精神疾患
2018年4月30日05時00分
精神疾患などがある子を監禁したとして、高齢の親が逮捕される事件が相次いでいます。背景や対策はなにか。大阪の監禁事件をきっかけにした統合失調症の記事(3月12日付朝刊)への反響と、専門家への取材から考えます。
■相次ぐ事件
統合失調症と診断された長女(33)を監禁して衰弱死させたとして、大阪地検は1月、大阪府寝屋川市に住む両親を監禁と保護責任者遺棄致死の罪で起訴した。発見時の長女の体重は19キロだった。事件を受け、フォーラム面(3月12日朝刊掲載)で、統合失調症の当事者や家族が事件をどう受け止めているかや、病気の基本的なポイントを掲載し、多くの反響が寄せられた。4月には、兵庫県三田市で、障害のある40代の長男を木製の檻(おり)に監禁したとして、父親が逮捕、監禁罪で起訴された。
■社会の理解、願う声切実
前回の記事を受け、精神疾患の当事者や家族が多くの体験を寄せてくれました。
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●「国立大を卒業し、『世の中のためにがんばろう』と大手企業に就職しました。しかし、仕事についていけず、職場で非難されているように感じて出社が困難に。『役に立たない人間は、死んでおわびしろ』という幻聴が聞こえて退職。統合失調症と診断されて2年入院しました。病状が安定した後、アルバイトをしようとしても、病気を理由に断られ続けました。今は、通院を続けながら、チラシのポスティングの仕事と障害年金で暮らしています。長い時間がかかるかもしれませんが、この病気が社会に認められることを信じて、これからの人生を歩んでいきたいです」(広島県 大森優さん 41歳)
●「発達障害の息子(23)は、いじめに遭い、先生にも責められ、小学5年で不登校に。自傷行為がでて、家族に暴力を振るいました。13歳だった時に入院させましたが、身体拘束をされた経験などで、その後に受診を長く拒否しました。統合失調症とも診断され、今は薬も飲み、暴力もなくなりました。ただ、友達はおらず、家族との会話もほぼなく、一日中自室でインターネットなどをして過ごしています。とてもまじめな子です。『自分で稼ぎたい』と障害者枠で雇用されたこともありますが、『気が利かない』と厳しく叱られて退職。外見からは障害がわからないので『なんで言ったことがわからないんだ』と思われてしまうのです。息子のことで私もうつ病になり、入院。小学校でいじめにあった時、私が学校にもっと抗議していれば、何かが違っていたのではないか。息子に一生をかけて償わなければいけないと思っています。本当の意味で障害を理解して雇用してくれる職場が欲しい。『自分のことを悪く思わない人が世の中にいるんだ』ということを、彼が信じられるようになって欲しいのです」(東京都 57歳 女性)
●「うつ状態と躁(そう)状態を繰り返す双極性障害で30年通院していますが、家族以外には知られないように気をつけています。好奇の目にさらされるのは耐えられません。統合失調症に限らず、世間の人に、精神疾患の正しい知識を持って欲しいです」(札幌市 50歳 女性)
●「妻は10代で統合失調症を発症。結婚後に症状が悪化し、自殺未遂をしたり、電車に乗れなくなったりしました。ここ1年間は、自宅からほぼ一歩も外にでられていません。買い物はヘルパーにお願いし、食事はだいたい僕が作ります。彼女が不安にならないように僕は一日の行動のすべてを連絡し、泊まりがけの仕事もできなくなりました。『そんなに大変なら離婚したら』という人もいますが、妻は、明るくて積極的で純粋でまじめで優しい。彼女と生活する心地よさは、僕にとって、なにものにも代えがたい。ただ、妻のように自宅から出られない人は多い。精神科の訪問診療はとても少なく、どの地域でも受けられるようにと願います」(大阪府 53歳 自営業男性)
●「母は、私が子どもの頃から奇妙な行動をする人でした。当時は母が精神疾患だと知らず、子ども時代の自分はただ悲しかった。50代になってエスカレートし、夜中に窓を開けて隣家の悪口を叫んだり、意味不明の手紙を近所に配ったりするので、毎日が針のむしろに座っているようでした。別々に暮らしていたので、実家の近隣が警察に通報し、そのたびに横浜の自宅から千葉の実家まで片道2時間の往復を何度もした。正直、働きながら精神疾患の親の面倒をみるのはつらかった。救いは病気の知識や支援制度を学んだことでした。統合失調症の人が容疑者の事件が報道されるたび、多くの人はこの病気が何か怖いもののように感じているかもしれません。しかし、統合失調症は特別な病気ではありません。世間の理解が深まることを、患者の家族として願ってやみません」(横浜市の会社員 五十嵐智生さん 48歳)
■家族が丸抱え、支援の充実を 全国精神保健福祉会連合会・小幡恭弘事務局長
精神疾患のある人の家族で作る全国団体「全国精神保健福祉会連合会(みんなねっと)」は4月13日、相次ぐ監禁事件を受け、「事件はひとごとではない」という見解を発表しました。小幡恭弘事務局長にその思いを聞きました。
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みんなねっとは昨年10~11月、精神障害者の家族計約3100人(当事者の病気は8割が統合失調症で、その他は双極性障害、うつ病など)に暮らしぶりなどをアンケートしました。その結果、2割の当事者が、福祉サービスを利用せず、日中は「特に何もしていない」と答えました。
背景には、支援の不十分さがあります。外出できない人のための精神科の訪問診療や、同じ病気の人同士が体験を語り合い、回復を目指すピアサポートが必要ですが、ない地域の方が多い。きめ細かな支援がない結果、家族だけで当事者を支えているのです。病状の悪化時には、3~4割の家族が当事者から暴言や暴力を受けていました。当事者のやり場のない思いが、家族への暴力として出るケースが多くみられます。
一方、6割弱の家族が、当事者の病状悪化時に自分の「精神状態・体調に不調が生じた」と回答。『家族だけで全てを背負わなければいけない』状態が続き、家族から当事者への暴力がでる場合もあります。
まず、住んでいる市区町村に相談してください。保健所や精神保健福祉センターに相談する手もあります。同じ立場の人に出会える家族会も相談電話を受けています。事件を防ぐには、行政の福祉施策や医療の充実、偏見の解消といった地道な取り組みが必要なのです。
■二重の不幸、いまなお続く 精神科医・岡田靖雄さん
日本の精神科医療史に詳しい精神科医の岡田靖雄さん(87)は、相次ぐ事件を聞き、「障害のある子どもを親が監禁するケースが、まだ残っていたか」と感じたそうです。その理由を聞きました。
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精神疾患の人を親が自宅に監禁する「私宅監置」は、1900年施行の精神病者監護法に基づいて、かつては合法でした。当時は精神科病院が少なかったことが背景にあります。
私宅監置の実態は悲惨でした。東京帝国大の呉秀三(くれしゅうぞう)教授らは、計15府県の計約370の私宅監置室を調査し、1918年に報告書をまとめました。立つのもやっとの狭い空間に閉じ込められ、不衛生な状態で監禁されている人が多かった。私宅監置は50年成立の精神衛生法(現在の精神保健福祉法)によって廃止になり、戦後は私立の精神科病院が急増しました。今や、日本の人口千人あたりの精神病床数は2.7で、OECD加盟国平均の約4倍にのぼります。
患者は国の政策によって、戦前は主に自宅に、戦後は主に病院に「隔離」されてきました。誰もが精神疾患になる可能性がありますが、一般社会から「隔離」され続け、悪いイメージだけが膨らんだ。結果、精神疾患になることを「恥」だと思う人さえ、いまだにいるのです。
そのためか、今回の事件のようなことが、今でも起こる。入院を極力減らし、地域で暮らせる支援態勢を充実させる必要があります。
呉教授は報告書の中で、日本の精神疾患の患者は「病を受けたるの不幸のほかに、この国に生まれたるの不幸を重ぬるものと言うべし」と指摘しました。100年を経た今も、精神疾患がある人の「二重の不幸」は続いています。
◇障害のある子どもを長期間監禁したとして、親が逮捕される事件が相次ぎました。事件化するケースは少数ですが、その背後には、孤立した毎日を送る、当事者と家族がたくさんいました。病気への偏見や、医療・福祉の不十分さが、こういった現状を生んでいると思います。誰でもなる可能性があり、患者数もとても多い。その事実に比べて、あまりにもその実態が一般の人に知られていないと感じました。取材を続けていきます。(長富由希子)