花熟里(けじゅくり)の静かな日々

脳出血の後遺症で左半身麻痺。日々目する美しい自然、ちょっと気になること、健康管理などを書いてみます。

「オリンパス事件と企業統治」

2012年01月31日 17時19分55秒 | ちょっと気になること
巨額の損失隠し事件で、オリンパスは、旧・現19名の経営陣(取締役)と旧・現5名の監査役に対して損害賠償請求を提訴しましたが、旧・現監査法人2社に対しては提訴を見送りました。法的に問題が無いという理由ですが、来る3月決算を間近に控えていることも理由ではないかとの指摘もなされています。

【経営陣(取締役)に対して】
旧・現取締役19名に対して、オリンパスは連帯債務として総額36億1千万円を限度とする損害賠償請求を、1月8日に東京地裁に提訴しました。「損失隠しを知らず関与しなくても、巨額買収を承認するなどした経営陣には責任を広く追及しており、企業統治のあり方が改めて問われそうだ。 技術系の取締役にすぎず、損失隠しの実態を知る立場になかった、高山社長をはじめ、取締役会での決議に賛同した取締役は、決議内容を知っていたか否かとを問わずに、結果責任を問われる」としています。

【監査役に対して】
オリンパスが旧・現監査役の5名に対して1月17日に最大10億円の損害負賠償請求を提訴しました。元経理部長で損失隠しを知りながら黙認していた元監査役には5億円、不正に使われた国内外4社の買収を見過ごした社外監査役ら4人には連帯して5億円を請求。

【監査法人に対して】
「損失隠しを発見できなかったり、多額ののれん代計上を認めたりしたが、注意義務違反があったとはいえない」として損害賠償請求を見送っています。


日本企業の統治能力のありかたが問われているとの報道がマスメディアでされていますし、法務省では経営陣へのお目付け役である監査役(会)の権限を強化することも検討されているようです。即ち、“監査法人の選任・報酬決定の権限を監査役(会)に与える”ことに加えて、“社外取締役の選任を義務づける” などの会社法改正も検討されているようです。

日本の企業では「CSR(企業の社会的責任)」、「内部統制」、「コンプライアンス(法令順守)」の考え方が導入されて、欧米流の経営方式を追求してきました。実務的には、「業務のマニュアル化」を行い、「意思決定のプロセスを透明化」し、「監査役権限の強化」や「内部監査体制の整備」、「内部通報制度や社外通報制度の導入」などを行ってきました。 また、「金融商品取引法」も改正され、財務における内部統制(見える化等)も実施されてきました。

 それでも、企業不祥事は後を絶ちません。内部通報に関して、オリンパスでは今回の巨額損失隠しとは別問題で、内部通報した社員を不当に異動させたり、パワーハラスメントを受けたということで社員から訴えられています。内部通報制度や社外通報制度は通報者が判明しても差別しないのが前提になっているのが普通だと思われます。オリンパス自身が制度を踏みにじったか、制度に不備があったか、それとも???

企業統治の制度面で見れば、オリンパスのケースでは、監査法人が国内ベンチャー3社の高額買収(06~08年)と、英医療機器メーカー買収(08年)に際しての高額手数料を問題視したものの、最終的には決算を「適正」としていること、 さらに「オリンパスが損失隠しを行っている」との情報を得て、実行役とされる常勤監査役(当時総務・財務部長)らを追及し、金融商品取引法に基づく金融庁への報告の可能性も示唆したものの、結局、確証を得られず、第三者委員会(弁護士や公認会計士で組織)が買収は妥当との判断をしたこともあり、2009年3月期決算を「適正」とします。

経営陣のお目付け役たる元監査役が飛ばしの元実施責任者だったために、結果としてみれば、会社法が期待する監査役の機能が全く働かなかったことは大きな課題であり、社外の専門家による第三者委員会の調査も不十分でした。 監査法人の機能強化も検討されるべき課題ですが、取締役会や監査役会で「適正」と判断されている事項については、監査法人が「疑念」だけでどこまで立ち入った追求できるか、難しいところがあります。

ただ、疑惑に外国の銀行が関係する場合に、現地調査をせずに外銀の発行する残高証明書だけで判断したのは、問われるべきことなのではないかと思います。外銀への立ち入り調査が極めて困難なことは素人でも容易に想像できますが、監査法人は国際的なネットワークを持っているので、外銀のある国の監査法人に調査を委託するとか、なにか方法はなかったのでしょうか。

なお、企業統治という側面では、東京電力では福島第一原子力発電所の事故を巡り、「東電の監査役は新旧経営陣に対する損害賠償訴訟を提起しないことを決め、提訴を促していた一部の株主側に1月13日付けで通知した。これを受け、株主側は早ければ今月末にも新旧経営陣数十人を相手取り、約5兆5045億円を東電に賠償するよう求める株主代表訴訟を東京地裁に起こす。」(毎日新聞:1月17日)と報道されています。

我が国の企業でも外国資本との合弁が増え、外国株主から派遣される役員や社員が増えています。私の勤務している会社も数年前に欧米系の外資との合弁になりました。代表取締役、執行役員、一般社員合わせて外国人(欧米人)が10名弱います。 まず、会議が変わりました。日本人だけであれば、短時間でスムーズに終了している会議が多いのですが、外国人社員は様々な質問・発言をします。 取締役会では株主代表として出席する取締役の発言は厳しいものがあります。 特に、利益確保への認識は日本人とは比較にならないくらい強いと感じます。 利益を計上して配当を得ることに執着します。 日本人経営者の様な、将来への投資に備えて内部留保を厚くすると言う発想は少ないようです。 

日本人同士は横社会の世界で職制上の上司と部下の関係も緩やかですが、外国人は縦社会の論理で動きます。横のつながりの認識は薄いようです。即ち、部下には厳しく報告を要求し、指示を出します。 この縦社会の関係は、本国の親会社と本人との間でも貫徹しているようです。 このような縦社会故に、業務を徹底してマニュアル化し、個人や組織単位の役割が明確にされており、監査部門などの組織としてのチェック機能が働いているので、日本の様な企業不祥事は起こりにくいのかもしれません。

会社法や金融商品取引法の一部改正で一定の改善はなされるでしょうが、転職があたりまえで自己の利益のために仕事をしている外国人に比べ、 「会社のためによかれと思ってした」などどいう発想が抜けきらない日本人の精神風土の中では、なかなかむつかしい課題です。 


(毎日新聞:1月18日)

『オリンパスは17日、損失隠し問題で会社に損害を与えたとして、歴代監査役5人に対して最大10億円の賠償を求めて東京地裁に提訴した。外部弁護士による「監査役等責任調査委員会」が16日、「歴代監査役5人が会社に84億円の損害を与えた」との報告書をまとめたことを受けた措置で、三つの外部委員会を設けて調べてきた経営陣などの責任追及には一定のめどがついた。高山修一社長ら現旧取締役19人が最大約36億円の賠償を求められたのに続き、経営を監視する立場の監査役までもが提訴される異例の事態となり、改めてオリンパスの企業統治のずさんさが浮き彫りになった。また、今回の問題は日本の企業統治のあり方自体を問い直すものになりそうだ。

オリンパスが提訴したのは、元経理部長で損失隠しを知りながら黙認していた太田稔元監査役と、不正に使われた国内外4社の買収を見過ごした島田誠社外監査役ら4人。監査役等責任調査委員会が、太田元監査役が約37億円、他の4人が計約47億円の損害を会社に与えたと認定したことを受け、太田元監査役に5億円、他の4人には連帯で計5億円を請求した。請求額は支払い能力などを考慮して決めた。

今回の調査では、09年3月期まで会計監査を担当したあずさ監査法人と10年3月期から担当している新日本監査法人の責任をどう認定するかが注目された。損失隠しの事実関係を調査した第三者委員会は昨年12月にまとめた調査報告書で、両監査法人の一定の責任について言及したが、今回の調査報告書は「法的な責任があるとは認められない」と結論づけた。

第三者委の報告書によると、あずさは問題発覚前、企業買収資金が高すぎる点などを指摘したが、菊川剛前会長ら経営陣は受け入れず、監査役会も「問題ない」と結論づけたため、最終的には決算を適正と判断した。第三者委は、あずさが適正意見を出した経緯について「問題なしとはしない」と指摘。新日本監査法人についても、あずさからの引き継ぎが不十分だったと問題視した。

一方、今回の報告書は監査法人について「関係者に不注意や軽率な点は見受けられる」と指摘したものの、「(不正の)首謀者が巧妙に違法行為を隠蔽(いんぺい)していた」ことなどを理由に「直ちに注意義務に違反したとは言えない」と認定した。結果的に監査役と監査法人で責任についての判断が分かれた点について、「監査法人の責任を問えば大詰めを迎える12年3月期の決算の策定作業に影響が出かねないことを考慮したためではないか」(公認会計士)との見方もある。

ただ、金融庁と日本公認会計士協会は、あずさ、新日本の両監査法人の公認会計士らから聞き取り調査を続けている。結果は2月以降になりそうだが、仮に「相当の注意を怠った」との結果が出た場合、金融庁による課徴金などの行政処分や協会の業務停止などの懲戒処分が下される可能性がある。

オリンパスの損失隠しや大王製紙前会長による巨額借り入れ事件で、海外投資家が日本の企業統治のあり方に向ける目は厳しくなっており、企業の不正を防ぐ監査制度改革を求める声が強まりそうだ。 政府や民主、自民両党などは、制度改正の検討に入り、法制審議会(法相の諮問機関)は昨年12月、社外取締役選任を義務づけることなどを柱とする会社法改正の中間試案をまとめた。企業の開示情報拡大などを盛り込んだ金融商品取引法改正も検討されている。日本公認会計士協会も15日、会計士が不正経理を発見した場合、監査役に書面で報告するなど対応策をまとめた。 ただし、社外取締役の選任義務化は、経営の自由度を縛られたくない経済界から反対の声があり、試案の通りに会社法が改正されるかは見通せない。

また、現在の監査制度では、監査法人が不正と思われる事項を指摘しても、企業から「経営判断の一つで不正行為ではない」と反論されて提訴されたり、契約を打ちきられる可能性がある。今回公表された調査報告書でも「監査法人が企業側に責任追及されるリスクを負ってまで違法行為を発見する義務はない」と指摘しており、監査法人による監査も限界があるのが実情だ。

 千葉商科大会計専門職大学院客員講師の柴山政行公認会計士は「現行制度では、権限上の問題や顧客企業との関係から、よほどの場合でなければ監査法人が決算に適正意見を出さないのは難しい」と指摘。「会計士が不正経理を発見した場合、金融庁や会計士協会など外部機関と相談、協議できる体制作りが必要だ」と話している。』


(2012年1月31日 花熟里)
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